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2. 癒着

 ギルドの一室に呼び出されたエトウたちは、奴隷商人のタマラとともにサイドレイクの話を聞いていた。


「カブスたちが奴隷証明書を自由に発行できるのは、上級裁判官を味方につけているからです。そのことを理解して頂くには、まずエーベン辺境伯領の在り方を説明する必要がありそうですね」


 エーベン辺境伯領は王都から遠く、独自の判断で国境を守護する責務があることから、ある程度の自治権が認められているようだ。

 それは司法においても例外ではなく、本来であれば王都から派遣された裁判官が王国法に則った判決を下すが、辺境伯領では領主が上級裁判官を任命することが許されていた。

 上級裁判官とは辺境伯領の裁判官を統括する地位にある。


 現在、ステインボルト辺境伯は長患いのため病床についており、子息のリーゼンボルト領主代理がその任命権を握っている。

 調査報告書ではリーゼンボルトとカブス、上級裁判官のテレーロの癒着が問題視されていた。


「調査報告書には、この三者の癒着が疑われる事例が記されていました。リーゼンボルトに近い貴族家の馬車が暴走して、平民の女性をはねた事故があったのですが、これが裁判所を通した途端にうやむやになったというのです」


 馬車にはねられた女性は大ケガを負い、病院で息を引き取った。

 女性の夫は貴族の罪を裁判所に訴えたが、その訴えが受理される前に、夫とその子供二人が街から姿を消してしまった。

 その後、女性が道路に飛び出したことが事故の原因とされ、貴族側は罪に問われなかったそうだ。


 調査員は、夫と子供たちの失踪について、痕跡がまったく残っていなかったことから、犯行に慣れた者たちによる誘拐ではないかと考察していた。

 事件の経緯を見ていくと、夫たちの情報が裁判所からもれた疑いがあるという。


「領都ベールでは、昨年頃から若い女性の失踪事件が多発しているようです」

 サイドレイクは苦々しい表情で言った。

「まさか、それも領主代理やカブスたちが関係しているのですか?」

「現地の調査員はその可能性を指摘しています。若い女性を多く乗せた馬車がベールのスラム街を出発し、カブスの奴隷商館に横付けにされたのが確認されています。馬車の護衛を担当した者の一人は、スラム街で日銭を稼いでいる男ですが、元は冒険者でした。その男に調査員は接触して話を聞いています」

「それならば、誘拐の証拠を突きつければいいじゃないですか! 悠長にしていたら、さらなる犠牲者が出ますよ」


 エトウは興奮を抑えられなかった。

 奴隷商人たちを野放しにしておくと、被害者がますます増えていくと考えたからである。

 

「その元冒険者は、女性を多く乗せた馬車を見ただけです。彼女たちが誘拐された女性だとは断定できません。失踪した女性が、実は誘拐されたのではないかと我々が考えたのは、先程申し上げたひき逃げ事件のためです。そして、誘拐被害者が奴隷にされ、奴隷商人の手で売られているのではないかと疑っているのは、こちらにいるソラノさんから話を聞いていたからなんです」

「辺境伯領の上級裁判官が協力していれば、奴隷関係の書類を偽造することは可能だと思います。偽造というよりは、正式な書類として発行できるのですから、どうとでも言い逃れができるでしょうね。向こうには領主代理もついています」

 そう言ったタマラは難しい顔でエトウを見つめた。


 証拠があるならば、ギルドマスターのサイドレイクが放っておく訳がない。今の状況では手出しできないから、カブスたちは拘束されていないのだ。

 エトウは天井を見上げて、大きく息を吐き出した。


「サイドレイク様、ちょっと情報を整理させてください」

 気を取り直したエトウは穏やかな口調で言った。

「ええ。もちろんです。ソラノさんにも関わりがある話ですからね」

「辺境伯領では、リーゼンボルト領主代理と奴隷商人カブス、そして上級裁判官が、不法な人身売買に関わっている訳ですね」

「現在ではその疑いがあるところまでですが、そうですね」

「誘拐された女性たちは、カブスの手によって売りに出される。そして、上級裁判官は奴隷証明書を発行して、その行為に正当性を持たせると」

「はい。彼らの本拠地であるベールの町で奴隷を売ることは避けているようです。これらの不正行為が公にならないように、領主代理が後ろに控えているという構図でしょう。調査員は彼らの販売ルートについても調べ始めています」


 彼らのやり方はあまりに大胆すぎて、本当にそんな犯罪が可能なのかをエトウは判断することができなかった。

 ほんの小さな綻びで、事件は表沙汰になりそうなのだ。


「病気がちと言われている辺境伯様は、この事件に関与されているのでしょうか?」

 タマラがサイドレイクに尋ねた。

「……分かりません。国王陛下の信任厚い方だと言われていますが、どのような人物なのかを私は承知していません」

「そうですか……」

「報告書にはまだ続きがあります」

 サイドレイクはギルド調査員が送ってきた報告書の説明を続けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ラナは、エトウの気持ちも考えず、自分の気持ちを優先して勇者と魔聖について行くことを選んだ。 ソラノは、誘拐被害者の身の安全を優先して、自分の自由を後回しにした。 ラナを気に入る理由がわからな…
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