1. 調査報告書
エトウたちが商隊の護衛依頼の仕事を終えてギルドへ報告に行くと、ゴブリン・スタンピードをともに戦った『荒神のほこら』のメンバーが食事をとっていた。
あいさつをかわして同じ席につく。彼らも護衛依頼の仕事を終えたばかりだという。
『荒神のほこら』のリーダーであるアラムは、エトウに生き残ったゴブリンの動向について尋ねた。
「俺たちは依頼中にゴブリンを見なかった。最近は街道沿いでゴブリンに遭遇することもなくなったな。エトウたちはどうだ?」
「私たちもそうです。王国軍がゴブリン掃討作戦を継続していますから、王都周辺での被害は減ってますね」
「ああ。そういえば俺たちの村にゴブリンが数匹あらわれたんだ」
「大丈夫だったのですか? 王都から近い場所なんですよね」
「ああ。しょせんゴブリンだからな。少数ならば村の自警団で十分だ。ホブゴブリンやメイジなんかが混じっていれば、無理せずに一旦は退却して、ギルドに依頼しろと伝えてある」
「それが無難ですね」
スタンピード以降、王国軍が大規模な部隊を投入してゴブリンの掃討作戦を行っている。
冒険者ギルドもゴブリン討伐を奨励していることもあって、王都周辺のゴブリン被害はスタンピード以前の状態にもどってきた。
王都の西にある彼らの故郷が無事だったことは、前に会ったときに聞いていた。
被害は王都東側に集中しており、その地域の復興についてはまだまだ時間がかかりそうだった。
「エトウさん、少しよろしいでしょうか。ギルドマスターがお呼びです」
受付嬢のサリーが近づいて来て告げた。
「私だけですか? それともパーティー全員で行った方がいいでしょうか」
「皆さんにお話があるようです」
「わかりました。アラムさん、すいませんがこれで失礼しますね」
エトウはアラムたちに断りを入れてから、サリーの案内でギルドの会議室に向かった。
「なんの呼び出しだろうね。ソラノの話にしては少し早くない?」
コハクはそう言って、サリーが置いていったお茶を口に運んだ。
ソラノの再調査を奴隷商人のタマラやサイドレイクに頼んでから二ヶ月がたつ。
王都からエーベン辺境伯領までは乗合馬車で二ヶ月、馬車を自分たちで借りて急いで向かっても半月以上はかかる距離である。
エトウたちは再調査の結果が出るのはまだ先になるだろうと考えていた。
「あれからまだ二ヶ月ぐらいだ。現地に着いて調査しているところじゃないか。でも、その他にギルマスから呼び出されるような用事は思いつかないな」
「緊急の討伐依頼とか?」
ソラノが言った。
「まさか、またスタンピードとかじゃないよね? 私、あれはもう嫌! しばらくゴブリンを見るのも嫌だったくらい!」
コハクは本当に嫌そうに眉をしかめた。
そんな話をしていると、会議室にサイドレイクとタマラが連れ立って入ってきた。二人はあいさつもそこそこに、調査員から報告書の第一報が届いたと告げた。
都市間には緊急連絡用の早馬が定期的に運行されており、今回は特別にその早馬を利用したのだという。タマラがいうには利用料金はかなり高額らしい。
エトウが恐る恐る費用は後で請求してくださいと言うと、サイドレイクは厳しい顔のまま、今回は王国としても見逃せない事件に発展する可能性があるため、諸経費はすべてギルドで持つと言った。
サイドレイクの説明によれば、調査期間が短かかったことから、報告書は事実確認や証拠が細かく詰められていないという。それでも調査員は緊急性が高い事案として、取り急ぎ報告書の第一報だけを送ってきたのだ。
その内容とは、辺境伯領の領主代理と奴隷商人が、不法な人身売買を行っているという疑いだった。
「その奴隷商人は、ソラノさんを奴隷にしたカブスという男です。辺境伯領の領都であるベールを拠点として、この王都でも提携した奴隷商館を通して商売を行っています。私がソラノさんを購入したチュール奴隷商館も、その提携先の一つです」
タマラはカブスとも面識があるという。
「それはまっとうな商売なんでしょうか?」
「商館主であるチュール殿には、特に悪い噂などはありませんね。やり手の奴隷商人として、彼一代で商館の看板を大きくしています」
「そうですか……タマラさんに単刀直入にお訊きしますが、その不法な人身売買の取り引きによって、ソラノは奴隷にされたとお考えですか?」
「それは今の段階ではなんとも言えません。以前にもエトウ様に申し上げたとおり、ソラノさんの奴隷証明書は正式なものです。不法行為の証拠が出てこないかぎり、軽々な判断はできません。しかし……」
タマラはなにかを言いかけてから、サイドレイクの方を見た。
「ええ。タマラさんのおっしゃるとおり、奴隷証明書は正式なもののようです。ただ、ギルドの調査員からの報告によって、その証明書自体が不法な手続きで発行されたものではないかという疑いが生じました」
「証明書が不法な手続きで発行された? それはどういうことですか?」
エトウは前のめりになる。それはソラノが奴隷にされたことと、なんらかのつながりがありそうな話だった。
「その証明書を発行した人物も、この犯罪に深く関わっている可能性が出てきました。それが事実だとすれば、彼らは奴隷証明書を自分たちの都合で発行できることになります」
「なんですって? そんな馬鹿なことが……」
エトウは信じられない気持ちでサイドレイクの顔を見つめていた。




