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74. エトウ参戦

 ここからの最終決戦については、一話ずつの分量を増やしました。もとは通常の分量だったのですが、それだときれぎれになり過ぎて全体像がつかみにくいと思ったからです。

 読むのに時間がかかると思いますが、どうぞご理解ください。


「エトウ!」


 ロナウドはやっとエトウの存在に気づいた。

 だが、それが一瞬の隙になる。魔王は自らの巨体を上からかぶせるようにして、右の拳を振り下ろした。


「くっ!」


 ロナウドはぎりぎりでかわしたが、そこに今度は左の拳が振るわれる。驚くべき身体能力で、ロナウドはそれもかわした。身長にこれほど差があると、魔王が地上にいるロナウドをとらえるのは簡単ではなさそうだ。


 エトウが一安心したところに、あるはずのない拳が死角からあらわれ、ロナウドを横から叩いた。ロナウドの体は軽々と吹き飛ばされてしまう。


「なっ、ロナウド様!?」


 いつのまにか、魔王の背中から二本の腕が生えていた。先ほどまではなかったのだから、ほんの短い時間で生やしたのだろう。


「そんなの、でたらめだ……」


 エトウは思わずそうつぶやいていた。


 想定外の角度から新たな腕が出てきたので、ロナウドは意表を突かれたのだ。

 ただ、攻撃を受ける寸前、ロナウドは両手に一本ずつ持っていた剣を交差させ、咄嗟に防御していた。派手に飛ばされたのも、衝撃を逃がしたように見えた。致命傷にはなっていないはずだ。

 エトウは、ロナウドのもとへすぐに向かうよりも、追撃をしようとしている魔王を抑えることにした。


「アモー、魔王に攻撃するぞ! あれの攻撃をまともに受けるなよ!」

「ああ、分かってる!」


 アモーはアラゴンの大楯を左手に、人間族なら両手で振るうような大剣を右手に持ち、見上げるほど巨大な魔王の前に立った。


「来い、デカブツ! 俺が相手だ!」


 アモーが大楯を大剣でガンガン叩きながら大声で言い放つと、魔王の目がこちらを向いた。

 エトウはその後ろから矢継ぎ早に補助魔法をかけていく。手には王城でもらった金の宝玉が握られていた。この宝玉を持ちながら補助魔法を使うと、狭い範囲だが一度で複数人に魔法をかけられるのだ。


「ヘイスト! ストレングス! マジックフォース! プロテクト! シールド!」


 アモーとエトウの体が緑、赤、青といった具合に次々と光を発し、それぞれの能力が向上していく。さらには物理防御と魔法防御の小さな盾が空中に浮かんだ。

 魔法の効果はそれを使用する者の力量によって変わってくる。王城で初めて訓練を受けてから五年がたち、魔物との実戦とたゆまぬ魔力操作の鍛錬を続けた結果、エトウの補助魔法は一皮むけた成長を遂げていた。


「なんだ、貴様らは? 余は勇者と戦っているのだ。邪魔をするでない!」


 魔王の野太い声が上から降ってくる。

 エトウはピュークを救出するときに魔王と一度顔を合わせているが、どうやら覚えてもらっていないようだ。


「前に会ったときより、随分と大きくなりましたね。なにか悪いものでも食べたんですか?」


 エトウが皮肉を言って挑発すると、魔王は簡単に乗ってきた。


「この小虫どもめ! そんなに死にたければ、望みを叶えてやろう!」


 魔王がその巨体を傾けてエトウとアモーを見据えたとき、後ろから光り輝く矢が放たれた。豊富な魔力を宿すその二本の矢は、魔王の魔力障壁を貫いて、両肩に突き刺さった。


「なんだ、こんなもの。うっ!? 腕が……」


 魔王は両腕が上がりにくくなったようで、背中に生えた二本の腕を伸ばして矢を引き抜いた。


「くっ、この矢は一体!? 貴様ら!」


 それはソラノとサニーが放った矢だった。

 二人は世界樹からつくられた弓矢を保持している。ソラノが持つ弓は矢離れの際に鈴のような音を奏でるため『鈴鳴り』、サニーの持つ弓は周囲の空気を震わすほどの威力が出るため『空振』と名付けられていた。


 世界樹の弓には神聖な魔力が豊富に宿っており、そこにソラノとサニーは自らの魔力を加えて矢を放つ。特に今回は貴重な世界樹の矢を使ったことで威力が増していた。


――魔王に一番効くのは、聖属性の魔力かもしれないな。聖女がいれば役に立っただろうに。


 エトウは悔しい気持ちでそう思った。だが、この場にいない者を当てにしても仕方がない。それほど得意ではないが、全属性に適正があるエトウは聖魔法も使うことができた。


「アモー、剣をこっちに!」


 アモーは理由を聞き返すことなく大剣をエトウの方へ差し出した。


「エンチャント・ホーリー」


 まばゆい光に包まれたアモーの大剣に聖魔法が付与された。その後、エトウは自らのミスリルソードにも聖魔法を付与した。

 後衛のソラノとサニーからは弓矢による攻撃が続いている。さらに魔王の頭が一瞬にして黒い炎に包まれた。ミレイの得意とする極大魔法ヘルフレイムである。


「ぐわぁぁぁ!」


 魔王の意識が上に向いたので、エトウは攻撃を足元に集中させた。足の甲や指を剣で突き刺してまわったのだ。


 魔王はそれを嫌がって足で踏みつけてきた。巨大な足が地面につくたびに振動が起きるほどの威力だったが、単調な攻撃は読みやすい。エトウははね返った泥を体に浴びながらも、それらの攻撃を巧みにかわし、注意を自分の方へ引きつけた。

 その間に後ろへまわりこんだアモーは、魔王の踵めがけて大剣を振るった。


「があっ!?」


 アモーの大剣は魔王の足首の深くまでくいこんだ。黒い魔力が壁となって邪魔をしたようだが、エトウの付与した聖魔法がアモーの斬撃を強くしていた。傷口からは血が流れ出し、魔王の動きが止まった。


「エンチャント・ウォーター」


 その直後、エトウは剣に水魔法を付与した。剣を覆うように水流が噴き出してくる。エトウは剣を大きく振るって反動をつけると、その水流を魔王の下腹部に叩きつけた。


「ぐふっ!?」


 魔王は苦しそうな表情で前かがみの恰好になった。

 攻撃を加えたエトウまでも嫌な気持ちになったが、こんなときに遠慮はしていられない。敵の弱点を突くのに躊躇はなかった。


 魔王はアモーに斬られた右足がぐらりと揺れると、たまらず地面に片膝をついた。ズシンとすごい音がして、雪と雨で湿った土が広範囲に飛び散った。


「こ、このっ……!」


 魔王は口惜し気に顔をゆがませ、エトウたちをにらみつける。


「いける! 俺たちは魔王と戦えているぞ!」


 エトウは興奮して叫んだ。アモーも口元をゆるめてうなずき返す。


「おのれ、ふざけたまねを!」


 魔王の周囲に四本の土の槍ができ始めた。それは槍というより、城塞で見る尖塔ぐらいの大きさがある。


「無詠唱か! しかもアモー、土魔法だぞ。気をつけろ!」

「ああ、分かっている」


 アモーの持つアラゴンの大楯は、魔法攻撃をはじき返すという特殊効果がある。だが、苦手とするものもあった。火、水、風の魔法については問題ないのだが、土魔法で生成された質量のある攻撃だけは、他の魔法のようにはじき返すことができなかった。

 これは王国魔法士団が何度も試して出した結論である。


 そのため、敵が土魔法を放ったときには、通常の盾と同様に、盾士の経験と技術で攻撃の勢いを逃がす必要があった。

 魔王が放とうとしている土魔法はことさら重たそうだ。今回ばかりは、盾で受けるのは避けた方がいいだろう。


「来るぞ!」

「アース・ピラー!」


 エトウが警戒の声をあげた直後だった。魔王が魔法名を唱えると、四本の大槍がエトウたちに向かって飛んできた。


「そんなものに当たるか!」


 エトウは槍の軌道を読んで右に左に、ときには飛行魔法で後方へ飛びながらかわしていった。さらに、魔王の追撃を止めるために、急接近して攻撃を加えていく。


 一方のアモーは飛行魔法を使えない。土の大槍が飛んでくる場所を先読みして、直撃だけは避ける。土魔法が地面に衝突してできた破片――それでもかなりの大きさだが――に関しては、真正面から受けずに大楯で衝撃を逃がした。


 たちまち丘の上に瓦礫の山ができあがっていく。なにしろ槍の一本が尖塔ほどの大きさなのだ。足の踏み場もないくらいに瓦礫が広がる。

 そのとき、魔王は片膝をついたまま右手を頭上にかかげた。


「なんだ?」


 エトウは魔王がなにかするつもりだと身構えた。

 魔王の右手に瓦礫となった土塊が集まっていく。一見すると、ファイヤーボールのようなボール系の土魔法だが、大きさが桁違いだ。土玉はどんどん大きくなり、巨体を誇る魔王でさえ抱えるのに苦労しそうな大玉になった。


「アースボール!」


 エトウは「嘘をつけ!」と叫びたかった。土魔法のアースボールがそんなに巨大なはずがないのだ。


――どうする? あんなもの撃ち落とせないぞ。


 後ろにはコハクやソラノたちがいる。吹き飛ばされたロナウドももどってきていない。頭上から迫るアースボールをそちらへ向かわせるわけにはいかなかった。


 そのとき、ロナウドの様子を見にいっていたラナがもどってきた。先ほどと同じように、グリフォンにまたがり空を飛んでいる。ラナは剣を高くかかげて叫んだ。


「風よ唸れ! 剣聖技、風斬!」

「おおっ!」


 エトウは驚きの声をあげた。ラナの一撃によってアースボールが真ん中から左右に割れたのだ。

 続いて、後ろからロナウドの声も聞こえてきた。


「聖剣よ、我が求めに応じ、敵を打ち破る大槌となれ、ライトアックス!」


 ロナウドは二刀流にしたミスリルソードを交互に振り下ろした。すると光の斧が二つ生まれ、大岩に向かってものすごい速さで飛んでいき、空気を震わせるほどの衝撃音が響きわたった。


「あれ、聖剣じゃないよな?」


 エトウがそう疑ってしまうくらい、ロナウドが放ったのは大技だった。


 光の斧は落ちてくる大岩の軌道を大きく変えた。もともとラナによって二つに割られていたこともあり、大岩の片方は轟音をたてて地面に転がった。そして、もう片方はエトウたちを避けて丘の下へ転がっていった。

 大岩の大きさが尋常でないため、一つ間違えたら自分たちがどうなっていたか分からなかった。


「危なかったぁ……」


 エトウは安堵のため息をつく。


 大技を放ったロナウドだが、手に持つ二本の剣は根元近くからぽっきり折れてしまった。やはり勇者の聖剣技に耐えられるのは聖剣だけなのだ。


 ソラノたち後衛からは弓矢と魔法の攻撃が再開され、空からはグリフォンに乗ったラナが剣聖技を連発していた。

 また、大神殿の方角からも遠距離攻撃が行われていた。どうやら勇者パーティーに付き従っていた魔道士や騎士たちが、そちらに集まっているようだ。


 魔王は、うっとおしそうに両腕を上げてそれらの攻撃を防いだ。その隙にエトウはロナウドのもとへ走る。


「ロナウド様!」

「おお、エトウ、来てくれたか!」


 ロナウドの顔を見たエトウは驚いた。眉毛がなくなっていたからだ。それだけで随分と容貌が変わる。魔王との戦いで大怪我を負ったと聞いていたが、それが原因だろう。

 エトウは、自分だけエルフの里で有意義な時間を過ごしていたことに、なんだか申しわけない気持ちになった。


「あの、遅れてすいませんでした」

「謝る必要はない。お前にはお前の考えがあったのだろう。それでピューク殿は大丈夫だったのか?」

「はい。エルフの里で持ち直しました。命に別状はないそうです」

「そうか……。それはよかった」


 ロナウドは安堵したように息をついた。


 エトウはロナウドの手に握られているミスリルソードに目を向けた。剣身が半ばから折れただけでなく、わずかに残った部分にもびっしりとヒビが入っている。もう使い物にならないのは一目で分かった。


「うん、これか?」

「あ、はい」


 ロナウドはエトウの視線に気づいて言った。


「情けない話だが、魔王との初戦で聖剣を失ってしまったのだ……」

「聞いています」

「うん? 伝令にでも聞いたのか」

「いえ、まぁ、そんなところです」


 実際は女神ネメシスから聞いたのだが、ここで詳しく事情を説明するには時間が足りなかった。

 ロナウドはぼろぼろになった剣をエトウに見せながら言った。


「ベールの町でミスリルソードを集めさせたのだが、聖剣技を一度放っただけでこうなる」


 ミスリルソードにはまだ予備があるらしい。ただ、それを預けた部下たちとはぐれてしまったのだという。それを聞いたエトウは背負っていた剣を両手に持ち、ロナウドに差し出した。


「ロナウド様、これを使ってください」

「ほう、趣味のよい鞘だな。しかし、なぜ私に?」


 ロナウドはそう言いながらも、引き寄せられるようにエトウから剣を受け取り、鞘から抜き放った。


「こ、これは、聖剣ではないのか!? エトウ、どういうことだ!」


 ロナウドのそんなにも驚いた顔をエトウは初めて見た。


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