18. 反省しない女
「ミレイ様、先日、エトウと話をしてきました。ロナウド様への誤解は解けたようです」
ラナが報告した。
「当たり前ですわ。そもそもロナウド様が、エトウさんの報酬を盗むはずがありません!」
「ミレイ様、ちょっと声が大きいかと……」
ラナは人差し指を口の前に持ってきた。
二人は町中のカフェにいた。平民でも少し余裕がある者ならば通えるくらいの店だ。ミレイは、身分と見かけによらず、こういった気軽に入れるような店が好みだった。
「オホン! 失礼したわね。ちょっと興奮してしまいましたわ。だいだいエトウさんは、なぜ自分だけですべてを抱え込んでいたのかしら? 私に相談しても無駄だったでしょうけど、ラナは幼馴染でしょう? 本当になにを考えていたのかしら」
「ミレイ様、また声が大きくなってますよ」
「そうね。エトウさんのことを考えると、どうしても興奮してしまうわね」
ミレイは気持ちを切り替えるように深呼吸し、新しいお茶とお菓子を注文した。あれだけ甘い物を食べているのに、ミレイはまったく太らない。
ラナが以前にそのことを尋ねると、「魔法は体力勝負です」と言っていた。
「だって、エトウさんに報酬を渡さなかったのは私ではありませんわ。なぜ首謀者のように事情聴取を受けなければなりませんの?」
「もう終わったことですから」
「そうですけど、ここぞとばかりに正義感を振りかざして、謝れ、態度をあらためろと言い始めた者たちもいたそうですわ。彼らは一体何様なのでしょう。与えられた情報だけを信じて、他人を貶めて喜ぶ異常者かと思いましたわ」
「ええ。私も、ロナウド様に洗脳されているのではないかと疑われました」
「そんなことを言っている暇があるなら、領地にもどって、魔物被害を少しでも減らすような対策を考えればよいのです。自分ではなにもせずに、他人をあげつらうだけの者たちの言葉など、耳障りなだけですわ」
「ミレイ様はお強いですね……」
「私にとってエトウさんはライバルでした。魔法師団の団長になるために、蹴落とさなければならない敵だったのです。報酬をもらっていなかったなんて事実がなければ、エトウさんがパーティーを出ていった時点で私の勝利でした! だいたい、どうしてエトウさんは、自分の状況を誰にも相談しなかったのかしら?」
「エトウは護衛騎士や魔道士たちにも、差別的な扱いを受けていたみたいです。ロナウド様とミレイ様とは身分の差がありますし、私は相談するには頼りなかったと思います。そうした状況を、エトウが一人で乗り越えるのは難しかったでしょうね」
「騎士や魔道士は、なぜそんなことをしたのかしら? 連絡係の嘘をうのみにしたのも、不可解ですわね」
「それは……」
「ラナには心当たりがあるの? 言ってごらんなさい」
「失礼なことを言います。後から振り返ってみての私の考えなのですが……」
「ええ。構わないから、言ってみなさい」
「はい。騎士や魔道士を始めとした、いわゆる勇者一行が、あんなに抵抗なくエトウへの扱いを変えたのは、ミレイ様の言動が大きかったと思います」
「私の言動ですって? ふん、続けなさい」
「はい。ミレイ様のエトウへの接し方をみんなが見ていて、そこに連絡係の嘘の影響もあったのでしょうが、ますますエトウを見下すような雰囲気が作られていったのだと思います」
「そんなことが……」
「はい」
ミレイは口の中に砂糖菓子を放り込むと、一人考えに沈んでいった。そのままの姿勢で時が止まったようになる。
そして、カッと目を見開くと、ミレイはラナの両肩をつかんだ。
「ラナ、エトウさんの幼馴染である、あなたを悲しませたのは申し訳なかったわ。でも、これが私です。私はライバルと認めた者とは戦います。徒党を組んだりはしません。いつも一人で戦うのです。そしてこれまで勝ってきましたわ!」
「はい、分かっています」
ラナは笑顔になった。
「なぜ笑うのですか?」
「私はそのミレイ様らしさが憎めないのですよ」
「あら、奇遇ね。私も自分が大好きです」
「ふふふ、私は大好きとは言ってませんよ」
「そうだったかしら」
二人はもやもやした気持ちを晴らすかのように、心ゆくまで甘いお菓子を楽しんだ。そして、キリングワース家の別邸へとロナウドの様子を見に行くのであった。




