60. 変異ガーゴイル
ラナは、魔王のもとへ行く前に、ウラキとグリフォンのところへ向かった。
ウラキたちは暗黒騎士の触手にはじき飛ばされ、勢いよく地上に落ちた後、戦線に復帰してこなかったのだ。その落下地点に行ってみると、ウラキが脚の折れたグリフォンに魔力を注いでいた。
「ウラキちゃん、なにしてるの?」
「……」
ウラキは首を伸ばしてなにかしらの合図を送ってきた。
ラナに追いついたロナウドが尋ねる。
「そいつらがゴーレムなのか?」
「はい。マーレーさんが貸してくれたんですよ」
それは驚くほど精巧なゴーレムだった。ロナウドがまじまじと見つめても、その少年とグリフォンが土塊からつくられたとはとても思えなかった。
「ラナ、なにをしているか分かるのか?」
「きっとグリフォンの傷を治しているんだと思います」
「ゴーレムがゴーレムを修復するだと……」
ロナウドは驚いた。実際、グリフォンの脚はゆっくりと治っているようだ。
回復魔法を使えるのはこの世界で聖女だけである。なので、これは無生物を修復しているにすぎないのだろう。ヒビの入った泥団子に新たな泥をぬりたくって、きれいに見せているようなものかもしれない。それでもある程度以上の知性がないと、たかがゴーレムにそんなことができるはずがなかった。
脚の修復を終えたグリフォンは体を起こして翼を広げた。ウラキはさっとその背中にまたがり、ラナに視線を送る。
「また乗せてくれるの?」
ウラキはうなずいた。
ラナは礼を言ってグリフォンに飛び乗った。
「ロナウド様もどうぞ。このグリフォン、速いですよ」
「そうか。では、乗せてもらおう」
ロナウドが近づくと、ウラキは右手を前に出して首を振った。
「え? ウラキちゃん、駄目なの? どうして?」
ラナが尋ねるが、ウラキは首を振るだけだ。
面白くないのはロナウドである。なぜ自分が拒否されたのか分からなかった。
「お前、ゴーレムの分際で……」
「ロナウド様……。ウラキちゃん、どうしても駄目なの?」
ウラキはしっかりうなずいた。明確な拒否の姿勢である。
「じゃあ、私も……わわっ!?」
ラナがグリフォンから下りようとすると、ウラキは手綱を振った。翼を広げたグリフォンがふわりと空に浮き上がる。
「なっ!」
ウラキは目を丸くしているロナウドを見て、「ついてこい」というようにあごをしゃくった。そしてグリフォンを魔王のいる方へ向けた。
「……生意気なゴーレムだ。制作者はどういうつもりであんなふうにした」
ロナウドは飛行魔法の詠唱を唱えてグリフォンの後を追ったのだった。
◇◆◇
マーレーは敵の分析をおおよそ終えていた。対峙しているのは、体の大きさ約五メートル、両翼を広げれば十メートルにはなるかという大型のガーゴイルである。魔王が口から吐き出した魔物の片割れだった。
――やはり使い魔的なものなのでしょう。しかし、魔力のつながりは見えませんねぇ。
変異ガーゴイルと戦いながら、マーレーはロナウドたちの戦いにも注意を払っていた。当然、ラナが魔力でできた線のようなものを切断した光景も目にしている。その後、人型の魔物は力を失って倒れていた。
しかし、同じように魔王の口から吐き出された魔物なのに、目の前で飛翔している変異ガーゴイルにはそれらしきものは見当たらない。
――もしかすると、大きなダメージを受けたときだけ、魔王から魔力が供給されるのかもしれませんねぇ。
マーレーはそう推測した。
「まぁ、やってみましょう」
一つの方針が決まったところで、マーレーは土魔法の詠唱を始める。
変異ガーゴイルは翼をはためかせ、刃物ように切れ味の鋭い羽根を幾枚も放ってきた。
それを見たマーレーは、飛行魔法を突然やめた。風魔法で浮いていた体が落下していく。そこにいたはずのマーレーがいなくなったため、羽根の攻撃は不発に終わった。
「ガァァァ!」
攻撃を避けられた変異ガーゴイルは滑空の姿勢に入った。地上に落ちていくマーレーを追いかけるつもりのようだ。
変異ガーゴイルの鋭い爪が迫る中、マーレーは土魔法の詠唱を終えた。ラナを乗せるためのグリフォン・ゴーレムを出したときのように、今度は三つの大きな土の塊が手の平から出てきた。
「クリエイト・ゴーレム!」
マーレーが魔法名を発したと同時に、それぞれが異なる形へと変化していく。一つはレッドホークと呼ばれる大鳥になり、牽制するように変異ガーゴイルの周囲を飛びまわった。それを嫌がった変異ガーゴイルは、一旦体勢を立て直そうと滑空をやめる。
一方、マーレーは飛行魔法を使わずにそのまま地面へと落下した。雪混じりの雨が降り続け、地面は濡れている。その湿った土と水たまりが盛大にはじけ飛んだ。




