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55. 暗黒騎士

 魔王が生み出した人型の魔物は、ねばねばした黒い汚泥のようなものの中から立ち上がった。体全体を黒い魔力が覆っているが、その魔物が身に着けている兜や鎧、剣などは判別できた。まるで騎士のような装備である。


「……暗黒騎士みたい」


 グリフォンに乗ったラナは、その人型の魔物を見下ろしながらつぶやいた。


 暗黒騎士とは、幼い頃に読んだ『聖龍の導き』という物語に出てくる悪役の一人である。主人公こそ勇者ではないが、ラナはそうした冒険譚を読み漁っていた。その物語の中で、神出鬼没にあらわれる暗黒騎士は、主人公たちを何度も窮地に追い詰めた。目の前の人型魔物は、挿絵に描かれていた暗黒騎士に見た目がそっくりだ。


「あっ、王国軍を襲うつもりね。ウラキちゃん、アレの前に回りこめる?」


 ウラキは握っていたグリフォンの手綱を一振りした。すると、グリフォンは即座に空を駆けて暗黒騎士の背中を追いかける。


 魔王が巨大化してから、王国軍は陣形を大きく変えていた。それまで一個中隊を三つの部隊に分けて大神殿を取り囲んでいたが、ちょうど裏手に布陣していた一部隊だけを残し、あとの二部隊は魔王を遠巻きに挟みこんでいた。

 暗黒騎士はそのうちの一部隊に向けて走り出したのだ。


 だが、空を駆けるグリフォンの方が速かった。

 ラナはグリフォンの背中に片膝立ちになり、「えいっ!」と一声あげると、暗黒騎士と王国軍の間に飛び降りた。落下の衝撃を膝でやわらかく抑え、次の瞬間には鋭い踏み込みで暗黒騎士に迫る。右手に握った疾風の剣を横なぎに振ると、暗黒騎士は剣を合わせて受け止めた。


 ラナの攻撃はそれで終わらない。つむじ風のようにくるくると回りながら、素早い斬撃をくり出していく。

 段々と暗黒騎士は対応できなくなり、やがて強烈な一撃が肩口に入った。ラナはそれ以上の深追いをせずにぱっと飛び下がったが、その目が大きく見開かれる。


「その再生力……魔王だけじゃないんだね……」


 暗黒騎士の肩から胸にかけてできた傷は、ぶくぶくと噴き出した黒い泡がふさいでいき、やがて傷跡さえも見えなくなった。


 その直後、空からウラキとグリフォンが突撃した。暗黒騎士の頭にグリフォンの鋭い爪が届くかと思われたとき、ウラキたちは思いきり吹き飛ばされた。


「ウラキちゃん!」


 ウラキたちは体勢をもどすことができず、離れた場所に墜落した。ラナのいる場所からでは、ウラキたちがどうなったのか確認できなかったが、かなりの勢いがついていたので無傷ではいられないだろう。


「ガァァァァ!」


 暗黒騎士が獣のような咆哮をあげる。その背中から黒い触手が生えていた。その触手によってウラキたちを迎撃したのだ。


「なにそれ……」


 最終的に触手は八本にまで増えた。クモの脚のように長さがある。騎士の恰好こそそのままだが、八本もの触手を背中に生やし、雄叫びをあげてこちらを威嚇する姿は、もはや化け物にしか見えなかった。


 間を置かず、暗黒騎士が飛びこんできた。片手で持った剣を上段から振り下ろしてくる。

 ラナはそれを受けずにかわし、隙をついて攻撃に転じようとしたが、続けて触手が襲ってきた。


「くっ!」


 両手と触手を合わせると、十本の手があるようなものだ。しかも、触手はうなりをあげて向かってくる。地面に衝突したところは爆発したように土が吹き飛んだ。

 先ほどの攻防とまったく反対になった。今度はラナの方が、相手の手数の多さにさばききれなくなっていた。


「このっ!」


 ラナは自分に迫っていた触手の一本を斬り飛ばした。続けて、もう一本も斬り落とす。攻撃を受けていれば、さすがに触手の軌道や速度にも目が慣れてくる。

 こうなったら全部の触手を斬り落としてやる、と躍動するラナだったが、触手の切断面から黒い泡が噴き出してきて、元の形を取りもどしつつあった。


「触手も再生するのね……」


 これで戦いが長引くのは避けられない状況になった。魔王のときと同様、高い再生力を持つ暗黒騎士に、とどめを刺せるかどうか分からない。

 それでもラナは戦闘をやめるわけにはいかなかった。こんな化け物が王国軍を相手に暴れまわったら、相当な被害が出るだろう。それに魔王や大型ガーゴイルの方に加勢されても厄介だ。


「あなたの相手は私よ。剣の戦いに、剣聖が負けるわけにはいかない!」


 ラナは自分を鼓舞するように言った。

 敵の攻撃を受けきれないのであれば、こちらから攻めるしかない。触手が再生するなら、何本でも斬り落としてやる。ラナは覚悟を決めて暗黒騎士に斬りかかろうとした。


 ちょうどそのとき、上空から甲高い声が聞こえた。


「お待ちください! その方は操られているだけかもしれないのです!」


 飛行魔法で地上に下りたったのは、神官のような青い衣を着た少女と象牙色の防具を付けた騎士だった。


「あなたは……聖女キーナレーン……」


 ラナはすぐにその少女の正体に気づいた。

 勇者パーティーの随行員が仕入れてくる情報の中に、聖女と聖騎士のものもあった。主だった者が集まって開かれる会合で、ラナは彼女たちの来歴や絵師の描いた似顔絵を見ている。


 目の前の少女は長い黒髪に水色の瞳、そして代名詞ともなった青いドレスを着ていた。前に確認した情報通りの容姿だ。それに彼女たちが大神殿を占拠していることは周知の事実となっている。これで聖女でなかったら、その方が驚きだろう。


――なぜ、聖女がここに? 操られているって、どういうこと?


 ラナは暗黒騎士の動きを警戒しながら、キーナレーンにも注意を払わなければならなくなった。


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