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48. 魔王の目的

 龍神セイは、魔王の行動に不可解なものを感じていた。


――なぜ執拗に北を目指すのか。


 これである。


 隙あらば北へ抜けようとする敵というのも戦いづらいもので、しかもいくら攻撃しても傷が治ってしまうのだから厄介極まりなかった。足止めしているつもりでも、戦いの場は少しずつ北へと移動し、それが数日間続いたことでけっこうな距離をかせがれていた。


 ここより北にあるのは女神教の大神殿ぐらいのものだ。

 ポーターのミキオから、大神殿が聖女と聖騎士なる者たちに占拠されたという話は聞いていた。おそらく魔王はそこを目指しているのだろう。帝国軍が領内に攻め入ってきた時期を考えれば、聖女たちは帝国と裏で通じているものと考えられる。

 ただ、その者たちと合流するためだけに、ここまで北へ向かうことに固執するだろうか、とセイは疑問に思ったのだ。


「おい、ゴーレムキングよ、魔王が人為的につくられたという話、本当なのじゃろうな? それに、あれが帝国の皇帝というのも確かなことなのか?」


 昨日、南から飛んできた男が魔王との戦いに加わった。元魔王のゴーレムキングである。

 セイはかつて領内をうろちょろしていたこの男を滅ぼそうとしたことがあるが、うまく逃げられてしまった。顔を合わせたのはそれ以来である。


「本当ですよ。龍神様に嘘なんてつくわけないじゃありませんか? それに私、今はマーレーと名乗っているので、そう呼んでくださいねぇ」

「……」


 どこかこちらを小馬鹿にしたような態度は昔と変わらない。セイは無言でマーレーをにらみつけた。マーレーはたいして気にした様子もなく、肩をすくめて笑っている。

 二人は会話している間も、北へ向かおうとする魔王の足止めを忘れなかった。だが、魔王は超再生で回復してしまうので、消耗しているように見えるのはセイたちばかりという状況になっている。


 どうやら魔王は大気中の魔力を吸収して超再生を行っているようだった。

 この辺りは地下深くを流れる龍脈の通り道となっているため、大気に含まれる魔力量がかなり多い。自然豊かで、ダンジョンが生まれやすいのもそうした理由なのだが、魔王にとっては戦うのに都合がよい場所だった。


「しかし、魔王も必死ですねぇ。なぜなんでしょう? 大神殿に着いたとしても、これ以上の魔力があふれているわけではありませんよねぇ」

「大神殿は、とくに太い龍脈の流れの上に建てられておる。それでも地上にまでもれ出してくる魔力量は、この辺りとそう変わらないはずじゃ」


 歴代の魔王にしても、大神殿を目指すようなことは一度もなかった。魔王たちは目についたものをなんでも破壊していくような、手の付けられない化け物だったのだ。今代の魔王はそれらとまるで違っている。


「本当になんなのでしょうねぇ。やはり、人工的につくられた魔王には、なんらかの欠陥があるのでしょうか? もともと帝国軍が大神殿を目指していたので、その通りに動いている、とか?」

「知らぬわ! しかし、腐っても魔王じゃ。聖剣を持つ勇者でなければ、とどめを刺すことはできん。今代の勇者は、なにをしておるのじゃ!」

「ああ、それもありましたねぇ。もうそろそろ追いついてくるんじゃないですかぁ……」


 セイは長大な体をくねらせ、マーレーに牙をむいた。


「お主、なにか知っておるのか?」

「いやぁ、私もちょっと小耳にはさんだだけなんですけど、今代の勇者は魔王と戦って大怪我を負ったらしいですよぉ」

「なぜ、それを先に言わんのじゃ!」

「ははは、私にとっては、この魔王の方が重要でして。それに勇者のところには、カンナバーロさんが行っているので、きっと大丈夫ですよぉ」

「あやつが……」


 セイも呪いの人形カンナバーロのことは承知していた。人間族の行く末を見守るなどと言って、いつの時代も勇者と魔王の戦いにかかわってくる。今回も勇者に肩入れしているようだった。


「そんなことより、大神殿が見えてきましたよ」

「ちっ、とどめを刺せないのでは、いくら攻撃してもきりがないわ!」

「うん? 魔王が大神殿の方を見ていますね。なんでしょう?」

「なんじゃと?」


 セイとマーレーが大神殿へと注意を向けたとき、魔王は自らの体を爆発させるように急加速した。


「なっ!?」


 ものすごい風圧にセイたちは吹き飛ばされる。


「オロロロロロロロロォォォ!」


 魔王は奇妙な声をあげていた。その顎は外れてしまったように大きく開かれ、両頬には蛇が獲物を飲み込むときのような薄い膜が張っている。

 大神殿に張られた聖結界が一瞬で食い破られて穴が空いた。魔王は飛行速度をわずかに落としただけで、大神殿の上階に頭から突っ込んだ。


「あやつは、なにをしているのじゃ?」


 空中で体勢を立て直したセイが言った。


「さて、なんでしょう。我らも行ってみますか。しかし、聖結界を破るとは、さすがに魔王ですねぇ」

「のんきに感心している場合か! それ、行くぞ!」

「はい、はい、分かりましたよ」


 セイとマーレーが大神殿へ向かおうとしたとき、穴が空いただけで修復が始まっていた聖結界が崩れ落ちた。そして魔王がゆっくりと外に出てくる。


「せ、聖杯よ、この地を、龍脈の魔力で、み、満たすのだ!」


 魔王がそう叫んだ直後、地上では大きな地震が起き、あちこちに地割れができていった。大神殿を囲んでいた王国軍の兵士たちが逃げまどう中、その地割れから光り輝く魔力の奔流が一斉にあふれ出した。


 魔王はその魔力の奔流に身を投げるようにして飛びこんだ。するとその体がどんどん大きくなっていき、魔王の魔力がこれまで以上に膨れあがった。


「なっ、なにが起きたのじゃ!? 魔王はなにをした!?」


 セイは自分の鱗がぴりぴりと引きつるのを感じていた。魔王の変化は尋常なものではない。その威圧感はこれまでとはまったくの別物に変わっていた。


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