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6. あのとき話せなかったこと

「これであの男も自らの小ささに気づいたはず。何事も経験」


 エトウを勇者との模擬戦に引き込んだ張本人は上機嫌に言ってのけた。

 そんなソラノの横顔を見ながら、エトウはため息をつく。生来小心者のエトウは、あんなことをして問題にならないかが心配だった。

 

 観戦していた騎士にそのことを尋ねると、あくまで模擬戦のため問題にはならないという。むしろ聖剣で斬りかかろうとした勇者の責任が問われそうだった。


 エトウたちが建物の出口までやって来ると、後ろから自分の名前を呼ぶ懐かしい声が聞こえた。エトウは振り返って幼馴染みの顔を見つめる。


「ラナ……久しぶりだな」


 短く切りそろえた銀色の髪と日に焼けた肌、焦げ茶色の瞳がエトウをとらえている。一年ぶりに会った幼馴染みは、少し大人びた雰囲気をまとっていた。


「うん、久しぶり……。勇者様との模擬戦、途中からだけど見てたよ。強くなったんだね」

「見てたのか」

「動きもそうだけど、付与魔法の威力がすごかった」

「勇者パーティーにいた頃は、補助魔法を禁止されていたから、力を発揮できなかったのもあるよ」

「私、そんなことも知らなかったんだよね……。旅の途中で、エトウの戦い方が変わった理由も分からなかった」


 そう言ってラナはうつむいた。

 その頼りない姿は、勇者パーティーの一員として力をつけていた剣聖ラナの雰囲気ではなかった。


「エトウがパーティーを去ってから、いろいろなことが分かったの。私、エトウになにもしてあげられなくて……」

「俺は勇者様たちに差別されているのが情けなくてさ。ラナにバレるのが恥ずかしかったんだよ。そのことがラナにまで知られてしまったら、自分があまりに情けなくてどうにかなってしまいそうだったんだ。だから本当のことは話せなかった」

「そのことを最後に話してくれたんだよね。私が宿の馬小屋でエトウの帰ってくるのを待っていたときに……」

「ああ。それまで隠してたのに、あのとき初めて言ったんだよな。ギルドの仕事から帰ってきたのを見られたのもあるけど、いろいろ限界だったのかもしれない」

「一緒にいたのに、気づいてあげられなかった。ごめんなさい」


 ラナは深々と頭を下げた。

 今のエトウにラナを責める気持ちはなかった。幼馴染みだからといって、お互いになんでも分かり合える訳ではない。

 もしもラナに理解してもらいたかったのなら、自分の窮状を相談すべきだったのだ。あのときの短いやりとりのようなものではなくて、時間を作って向き合う必要があった。


 だが、エトウは一つだけ、うまく飲み込むことができない気持ちを抱えていた。


「どうして――」

 エトウはなにかを言いかけて止めた。そのエトウの顔をラナは見つめている。

「どうしてあのとき、自分の話を聞いてくれなかったんだ? そんなに勇者様を信用していたのか?」


 宿の馬小屋の前で、エトウは報酬をもらっていないことをラナに打ち明けた。

 それはラナに隠していた事実だったが、それを言葉にした後は、幼馴染みのラナならば自分を理解してくれるのではないかと期待する気持ちもあったのだ。


 しかし、ラナはエトウの話をまったく信じてくれなかった。勇者様が報酬を渡してくれないという話を嘘と決めつけて、エトウを責めたのである。

 そして、立ち去ろうとするラナにエトウが呼びかけても、振り返ることなく宿の中へと入っていった。その光景をエトウは忘れることができなかった。


「……ずっとエトウの悪い噂を聞かされていたの。いろいろな町で女性問題を起こしているとか、勇者パーティーで活動する使命感や責任感がなくなっているとか、エトウが原因でミレイ様との関係が悪くなっているみたいな話だった」

「そんなデタラメを誰が言っていたんだ。勇者様か?」

「違うわ。私たちの雑用をしてくれていた人たちよ。彼らの間でエトウの悪い噂が流れていたの。そして、その噂の出所は王城と教会の連絡係だったそうよ」

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