4. 模擬戦
エトウは距離をはさんで勇者ロナウドと向き合っていた。
エトウが勇者パーティーに所属していたとき、ロナウドは強さの象徴だった。どんな魔物も聖剣の一太刀で切り捨て、手傷を負ったこともほとんどない。
そんな人物と模擬戦とはいえ対峙しているのだ。
エトウは右手に持った模擬剣で何度か素振りをする。緊張による体のこわばりなどは一切なかった。
エトウにはそれが不思議だったが、自分の力を思いきり発揮できるならそれに越したことはないと思い直した。
「どうしました、エトウくん。今さら戦うのが怖くなりましたか?」
「不思議なんですが、私はあなたがまったく怖くないようです」
「なっ! どうやら力を過信しているようですね。そんな口はすぐにきけなくなりますよ」
審判役を務める騎士が、エトウとロナウドに模擬戦を始めても大丈夫かと声を掛けてきた。エトウは軽くうなずく。
騎士が「はじめ!」と片手を振るうと、ロナウドが再び話を始めようとした。
エトウはこれ以上話をしたいとは思わなかった。身体能力を強化するバトルスペルの魔法をかけながらロナウドとの距離を詰め、大振りな袈裟斬りを放つ。
やはり基本ステータスは高い。素の力ではとてもかなわないと、エトウは冷静に分析していた。
ロナウドには大分余裕がある。笑った顔のままでエトウの剣戟を楽々といなしているのだ。
「エトウくん、君の力はその程度ですか?」
ロナウドは勝ち誇ったような顔で言う。
「私には試したいことがあるのですよ」
「ほう、それはなんです?」
「あなたが役に立たないと決めつけて禁止した補助魔法ですよ」
エトウは補助魔法を一つずつ試していくことにした。
まずはスピードを向上させるヘイストを自分にかける。いきなり最高速度にはせずに、ロナウドの実力を確認しながらスピードを上げていく。
「くっ! なんだこれは!」
それまで余裕を持ってエトウの攻撃をさばいていたロナウドだったが、表情が真剣なものに変わった。
エトウは最高速度で長時間動き回ることができないため、その一歩手前で留めながら剣を振るう。
スピードはロナウドとほぼ同じくらい。少しだけエトウの方が速いくらいだった。
次にエトウが使った補助魔法は、筋力を強化するストレングスである。エトウの剣戟が一撃ごとに重くなっていく。
「ぐぅ……こんなもの!」
ロナウドは歯を食いしばってエトウの剣をはね返した。エトウのパワーに対応はできているようだが、先程までの軽口は鳴りをひそめている。
模擬剣同士がぶつかり合う音も迫力のあるものに変わった。
周囲で二人の戦いを見ている騎士たちには、エトウのスピードとパワーが急激に増してロナウドに迫っているように感じられただろう。
だが、もしもロナウドが聖剣を手にすれば、その力を身の内に取り込んで行使することが可能となる。そうなればロナウドの力は今よりも上がるはずだ。
少し余裕が出てきたエトウは、それもいつか試してみたいと思った。
「エトウ! どこでこれほどの力を!」
「補助魔法だと言いましたよ。もともと私に備わっていた力です。あなたが持つ勇者の称号と同じようにね」
エトウは強い一撃をロナウドに受けさせてから数歩距離をとった。バフ効果の見極めは済んだ。残す検証は武器のエンチャントである。
ロナウドがまた話を始めようとしたが、エトウは一切無視をして、魔法攻撃を強化するマジックフォースをかけた。
そしてファイヤーを模擬剣に付与する。剣の表面を魔力が覆い、炎が燃え上がった。
エトウはすぐさま距離を詰めて剣を振るう。ロナウドも早い反応で剣を合わせてきた。
両者の剣がぶつかり合うような軌道だったが、エンチャント・ファイヤーソードはロナウドの模擬剣を溶かすように切断した。
エトウは切り返した剣をロナウドの首筋に突きつける。剣を覆う炎がロナウドの肌をちりちりと焼いていた。
「勇者様?」
「……ま、まいった」
エトウは剣を引いて、付与した火魔法を解除した。降参の意思を示したロナウドは、ひざを折ってうなだれている。
「勝者、冒険者エトウ!」
審判が勝ち名乗りを上げると、ソラノ、コハク、アモーの三人に加えて、騎士たちからも大きな歓声が上がった。
その一方で、観客席のミレイや貴族たちは言葉をなくしていた。
「エトウ、卑怯だぞ!」
そのときロナウドの声が歓声をかき消すように訓練場に響いた。




