2. 変わらぬ二人
「ほう、お前たちが王都を救った英雄と言われている者たちか。なかなか頼もしそうではないか。うん? お前は……。お前は逃げ出したエトウではないか! なぜこんなところにいるのだ!」
勇者ロナウドは一人芝居のように感情をあふれさせた。
エトウはその姿を冷めた気持ちで眺めている。
ロナウドの話し方の変化に気がついたが、パーティーメンバーではなくなった平民相手にはこんなものなのだろうと理解した。
「お久しぶりです、ロナウド様。私は勇者パーティーから逃げ出したのではなく、あなた方に追い出されたのですよ。お忘れですか? それと、私が王城にいるのは、数日前のスタンピードを解決した功績で、本日、陛下との謁見が許されたからです。謁見も終わり、これから帰るところですが、騎士殿のご厚意で王城内を案内してもらっているのです」
エトウは一息に説明すると、再び騎士に目線を送った。エトウからの合図で、騎士はここにいても問題が起きるだけだと判断したようだ。
「我々は失礼させて頂きます」
騎士はエトウたちを連れて訓練場の出口に足を向けた。
「あら、久しぶりの再会だというのにつれない態度ですわね、エトウさん。いえいえ、英雄エトウとお呼びした方がよろしいかしら」
ロナウドの後ろからそう声を掛けてきたのは魔聖ミレイだった。
エトウは視線をそちらに向けなくても声でミレイだと分かったが、以前の余裕たっぷりだった彼女に比べて、なんとなく言葉づかいが下品だと感じていた。
エトウはミレイに視線を向けると、軽く頭を下げた。
「ミレイ様、お久しぶりです。私は英雄などと呼ばれる人間ではなく、あくまで一介の冒険者として依頼を受けた仕事を達成しただけです。その作戦には私たちだけでなく、他の冒険者や騎士、兵士、魔道士が数多く参加して、多大な犠牲を払って王国の脅威を取り除くことができました。英雄というならば作戦に参加したすべての者が英雄といえるでしょう」
エトウはちょっと模範的すぎるかなと思いつつも、この人たちに隙を見せてはいけないと完璧な返答を心がけた。それに話している内容は、エトウが本当に思っていることでもあったのだ。
ロナウドとミレイは悔しそうな表情を浮かべてエトウをにらみつけた。自分たちがスタンピードを解決して英雄と呼ばれたかったのかもしれない。
ロナウドは周囲からの視線に気がつくと、すぐにとってつけたような笑顔を見せた。
「いやいや素晴らしいことだよ、エトウくん。私たちのパーティーを抜けた後でも君は王国のために力を尽くしているのだね。噂は聞いているよ。奴隷をうまく使っているのだったね」
ロナウドは見下したような目つきでエトウを見た。それまで険しい目つきをしていたミレイも、余裕を取りもどしたかのように笑っている。
ああ、この視線には覚えがあるとエトウは思った。
当時はエトウの中にも勇者は人格者であるという思い込みがあった。そのために、いつも見下した視線を向けてくるロナウドを責めるのではなく、自分に責任があるのだという気持ちが強かったのだ。
そんな固定観念がきれいに取り払われた今となっては、ロナウドの視線をはっきりと不愉快だと感じていた。
「スタンピードといっても相手はゴブリンだったのでしょう? もしもロナウド様と私が王都にいれば、エトウさんたちの手を煩わせることもなかったでしょうに。残念ですわ」
ミレイは持ち前の余裕たっぷりな態度を取りもどしたようだった。
「ゴブリンといえども数がいれば多少の脅威にはなる。それを討伐した彼らはやはり英雄に違いない。私たちの活躍はもっと強大な魔物退治にとっておけばいいではないか」
ロナウドの言葉には、王都のために命がけで戦った者たちに対する敬意などまったく感じられなかった。




