1. 再会
褒美の品を選んだエトウたちを、老人は王城の前庭まで送ってくれた。
「ご老人のおかげでいい道具を選ぶことができました。ありがとうございます」
「わしも面白いものが見れたわい。後はそこの騎士に案内してもらうのじゃな。それじゃあの」
その老人は最後まで名前を名乗ることもなく、足早に立ち去った。
名前ぐらいは尋ねてもよかったのかもしれないが、宝物庫の番人のような存在にどう接するべきか、エトウには分からなかった。
その場所で待機していた騎士は、エトウたちがスタンピードの解決に大きな役割を果たしたことを承知しており、最初から好意的な態度で接してくれた。
エトウたちは美しく整えられた前庭を抜けて、隅々にまで細かな彫刻が施された歴史のある廻廊や、定期的に貴族を集めて舞踏会が開かれる鳳凰の間などを見物しながら王城内を歩いた。
エトウのパーティーメンバーは全員がのどかな田舎出身である。
王城に一年間滞在していたエトウ以外は、このような歴史と伝統のある建築物をじっくりと見てまわったことなどなかった。
彼らは柱や壁の美しい細工に目を奪われながら騎士の後をついていった。
長い廻廊の両脇に置かれた絵画や彫像にソラノは興味を示していた。コハクは廻廊の天井につるされたたくさんのシャンデリアを見上げて目を輝かせている。
コハクはずっと顔を上げているせいで足元が若干ふらついていた。アモーはコハクの肩を支えながら、騎士が解説する王城の歴史に耳を傾けている。
これが本当のご褒美みたいだなとエトウは思っていた。穏やかな気持ちで王城観光を楽しみながら、四人は出口に向かったのだった。
「ここが王城に勤務する騎士や兵士の訓練場になります」
騎士に説明されて入った建物の中には、屋内とは思えないほど広い訓練場があった。
訓練場の足元には石が敷き詰められている。周囲は二メートルほどの壁で仕切られており、観客席も設けられていた。
「立派な造りですね。この訓練場を見ただけでも、王国が練武の精神を受け継いでいるのがわかります」
エトウの言葉に騎士はうれしそうにうなずいた。
「年に数回ですが、王城内の騎士や兵士による勝ち抜き戦も開催されます。そこで活躍できれば、大きな仕事に抜擢してもらうきっかけにもなります」
騎士の勧めでエトウたちは訓練場の中に足を踏み入れた。数人の騎士が剣や槍の訓練をしている。
そこに騎士と普段着の一群が連れ立ってあらわれ、先頭の騎士がエトウたちを見ると近くに寄ってきた。
「謁見の後で早速訓練ですか。頭が下がりますね」
エトウが話しかけた男は、赤目と対峙した決死隊のメンバーだった。騎士の一人として、常に先陣を切る活躍をしていた。先程までエトウたちと国王に謁見していたのだ。
「いえいえ。今度騎士団に入ることになる同郷の者が訪ねて来たのですよ。前から予定していたものですから、断れなくて」
その騎士は苦笑いを浮かべながら、同郷の者にエトウたち一人一人を紹介していった。そして、決死隊の作戦の間、エトウたちがいかに勇敢に戦ったかを語り聞かせた。
騎士の後輩たちは、スタンピード騒動についてある程度のことを教えられているのだろう。騎士の言葉を疑うこともなく、エトウたちを尊敬の眼差しで見つめていた。
エトウたちがそろそろ立ち去ろうかというときに、一見して貴族と分かる者たちが訓練場に入って来た。
騎士たちの立ち姿や訓練に励む姿勢を見ていたせいだろうか、エトウにはその貴族たちがなんとなくだらしないように見えた。体の軸がくずれていて、武闘訓練どころか体を動かすこともあまりなさそうだった。
彼らは冒険者の格好をしたエトウたちを見つけると、露骨に顔をしかめた。
「なんだ貴様らは。薄汚いなりをして、誰の許しでここまで入ってきた」
その若い貴族は顔をしかめ、見たくもないものが視界に入ったと言わんばかりだった。
エトウは、はいはい、こういう人たちね、と怒るまでもないと判断し、城内を案内してくれている騎士に向けて、目線だけでこの場所を離れるように促した。
騎士も状況を理解してうなずいた。
「この方たちは先のゴブリン・スタンピードの解決に尽力され、陛下への謁見を許された方たちです。ご無礼があっては、王城の品位を汚すことになるかと。この後予定がございますので、我々は失礼させて頂きます」
騎士は簡単に説明しておいた方が問題を避けられると判断したのだろう。最低限のことを貴族たちに告げてから、エトウたちを促して訓練場の出口へと向かおうとした。
すると彼らの中央から、真っ白な鎧を身に着けた若い男性があらわれた。
その姿を見たエトウは一瞬息をのんで固まり、すぐに脱力して、あーあ、ついに会ってしまったと心の中でつぶやいた。
あごを上げてこちらを見下ろすような表情をしているのは、久しぶりに再会した勇者ロナウドだった。




