19. 宝珠
その老人は王城の曲がりくねった通路をどんどん進んでいく。
エトウはすぐに帰り道が分からなくなった。こんなところで迷子になったら恥ずかしいので、老人の姿を見失わないようにぴったりと後ろをついていく。
地上なのか地下なのかも分からなくなった頃、老人の足がやっと止まった。
「この部屋じゃ」
そこにはアモーの身長を優に超えるほどの大きな両開きの扉がついていた。扉の表面には唐草模様の見事な装飾がされている。
老人がなにか口ずさむと、扉の内側からカチリと鍵の開く音が響いた。魔法的な仕掛けで防犯対策をしているようだ。
「この中には王家が所有する宝物が千点以上所蔵されておる。お主たちが見られるのはそのうちの十分の一程度だが、それでも貴重な品々が集められていると言えよう。ほれ、本当に大切な宝は王家由来のものじゃから、冒険者が持っていても意味がないからの」
老人はおもむろに宝物庫の扉に手をかけて開け放った。魔道具の明かりが自動で点灯し、部屋の中の宝物を照らし出す。
最初に目に飛び込んできたのは、正面の大テーブルに置かれている黄金色の武具と防具だった。いかにもなお宝である。
向かって左手には奥まで続く棚が設置されていて、色とりどりの鉱石が並んでいた。コハクとソラノはそちらに目を奪われているようだ。
右手にも棚が設置され、道具類が置かれていた。老人によると、それらはすべて魔道具なのだという。これには意外なことにアモーが強い関心を示した。
金ぴかの武具・防具、貴重な鉱石、魔道具。正直なところ、エトウにはあまり興味が持てない品物だった。
「この部屋にある品物はどれを選んでもよいぞ。奥には魔法付与がついた武具もあるから見てみるとよい」
エトウは魔法付与については並々ならぬ興味がある。迷わず部屋の奥に足を踏み込んだ。
老人に目録を見せてもらい、気になった品物については込められた魔法の効果などを確かめた。しかし、エトウのエンチャントを超えるような物はなかった。
「なんじゃ、お主は魔法付与がついた宝物に興味があったのではないのか?」
エトウは目についた剣を手に取って、「エンチャント・ウィンドソード」と風魔法を付与した。剣を上にかざすと、まとわりついた風が渦を巻いて辺りを吹き抜けていく。
「私は補助魔法が使えるんですよ。人にも武具にも魔法を乗せられるんです。これまで見せてもらった品物を使うならば、自分で魔法付与してしまった方が高威力ですね」
「うーん」
うなった老人は部屋の一番奥まで歩いて行くと、手で握ると隠れてしまうくらいの金色の玉を持ってきた。
「これは魔法効果を高める宝珠とされておる。ただ、攻撃魔法で試しても効果がなかったという話じゃ。お主の補助魔法で試してみてはどうかな」
エトウはちょっと面白そうだなと思った。効果がないならば他のお宝にすればいい。
エトウはパーティーメンバーに集まってもらって事情を説明すると、宝珠を握ったままヘイストをかけた。
「な、なんじゃこれは! 体が早く動くぞい」
ヘイストをかけていないはずの老人が叫んだ。
一番近くにいたコハクにだけかけたつもりが、エトウ自身も含めて全員にヘイストがかかっている。
エトウはヘイストを解除してから、自分だけ四人から一歩離れてヘイストをかけ直した。驚いたことに、それでも全員にヘイストがかかった。
パーティーメンバーによると、いつものヘイストと違和感はないという。
エトウは距離を少しずつ離して検証を繰り返した。すると、この宝珠を握ったまま補助魔法を使うと、魔法効果が範囲内の人間すべてに及ぶようだった。
どのくらいの人数まで効果が及ぼせるのかは不明だが、効果範囲は宝珠を中心にして半径二歩程度だと分かった。
魔力消費もかなり少ない。正確な数値は分からないが、人数分のバフをかけるよりも魔力の節約になるのは間違いなさそうだった。
問題はデバフ効果も範囲指定となることだが、解決策がすぐに見つかった。
範囲魔法に変わるのは宝珠を握った手を突き出したときだけなので、デバフ使用時にはそれとは違う手で魔法を使えばいいのだ。
ほとんどの魔道士は片手で魔法を使う。そのため、両手を使って違う魔法をかけるのは難しいかもしれない。
だが、エトウは魔法を習い始めたときから、両手で器用に魔法を使うことができた。
「ほうほう。まさにお前さんのためにあるような道具じゃな」
老人は感心したようにうなずいていた。
「すいませんが、こういった宝珠は他にありませんか? とても興味が出てきたのですが」
「いや、私が知るかぎり、このような効果のある宝物はこの宝珠だけじゃ」
「そうですか。このような宝珠がいくつもあれば、補助魔法の使い方が大きく広がると思ったのですが」
「残念じゃが、心当たりはないの」
最終的にエトウは宝珠、コハクとソラノは貴重な美しい鉱石、アモーは野営のときに結界を張って魔物の侵入を防ぐ魔道具を選んだ。
エトウはいい物をもらったと宝珠を勧めてくれた老人に礼を言った。




