17. 帰還
赤目を倒した決死隊の主要メンバーは、新しいダンジョンの調査もそこそこに、生存者の救助のために来た道をもどることになった。
ダンジョンは魔物が出入りできないように、ピュークの結界魔法によって簡易封印が施されている。
赤目のところまでたどり着いた決死隊の主要メンバーには犠牲者が一人も出なかったが、それは騎兵隊が自分たちの身を犠牲にして道を作ってくれたことが大きい。
騎士のうち二人は王都への報告に先行している。彼らの報告によって、騎兵隊の救助にも人手が割かれるだろう。
命を拾った騎兵隊員をポーションで回復させながら一行が王都に向かっていると、報告を受けてやって来た騎士の一団と出くわした。この先の道は彼らが仲間の捜索と治療を行ってくれるという。
彼らから戦力を少し分けてもらって、ピュークと魔道士たちはダンジョン調査にもどっていった。
喜んでいるのはピュークばかりで、魔道士たちは休みたかったようだ。
致命傷から回復したばかりにもかかわらず、すこぶる活動的な上司というのはどうなのだろうか。
ただ、スタンピードのゴブリンたちが、なぜ夜間だけ攻撃してきたのかはいまだに不明なままである。ダンジョン調査でその秘密の一端でも明らかになれば、スタンピードの謎を解く鍵になるかもしれない。
騎兵隊が仲間の捜索と治療のために作った森の中の駐屯地で、エトウたちは少し休ませてもらった。騎士や冒険者の特に前衛職の者たちは疲労困憊だった。
携帯食を口にして、温かい白湯を飲むと、自分が生き残れたという実感が湧いてきた。
赤目は倒したが、今晩ゴブリンの襲撃がないとは言い切れない。
エトウたちは日が暮れる前に王都までもどってきた。救出作業を続けていた騎士たちも、日が沈む前には王都に帰還を果たした。
ギルドで報告を終えたエトウは宿にもどって来たが、どうにも落ち着かない気持ちだった。今夜ゴブリンの襲撃があれば、もう一度作戦の練り直しとなるからだ。
体は疲れているのに横になっても眠れず、結局はアモーと二人で東門まで行ってみることになった。
東門には『光の矢』と『荒神のほこら』のメンバー数人も来ており、考えることは同じだとお互いに笑い合った。
守備隊に事情を話すと城壁の上まで案内され、好きなだけいていいとのことだった。
三パーティーとも朝まで城壁の上を動かなかったが、ゴブリンの襲撃はなかった。多くの犠牲者を出した今回のゴブリン騒動は、どうやら一応の解決を見たようだ。
エトウとアモーは宿にもどると、朝食をとってから眠りについた。
夕方頃に起き出して一階の食堂に行くと、コハクとソラノが食事をとっていた。
エトウたちが寝ている間に王城から使いがやって来て、三日後に開かれる国王との謁見について説明していったという。宿まで馬車の迎えを出してくれるようだ。
「そうか、使者の相手ご苦労だったな」
「そういえば、いろいろ立て込んでいて聞けなかったけどさ。エトウは国王様と知り合いなの? それと、あの腹黒魔道士! 名前なんだっけ? ほら団長の、そうピューク様! あの人が勇者パーティーを離脱したとか言ってたよね。あれってどういうこと?」
コハクの中でピュークが腹黒魔道士になっていることにエトウは驚く。ソラノが嫌なことを言われたと話していたので、その影響なのかもしれない。
「ああ、言ってなかったな。ちょうどみんなと会う前のことだよ。そんなに楽しい話じゃないけど、聞きたいの?」
三人とも聞きたいと声をそろえた。これまで気を使って尋ねるのを我慢してくれていたのだろう。
エトウは自分が勇者パーティーの一員だったことや、理不尽な差別を受けたこと、嫌になって勇者パーティーを抜けたことなどを話して聞かせた。
「ワイバーンの討伐報酬と勇者パーティーで未払いだった報酬、それから不当な扱いを受けていたことへの賠償金がまとめて入ってきたんだ。そのお金を使って、俺は自分の装備を新調して、お前たちをパーティーに加えることができたんだよ」
エトウはこれまで隠していた種明かしがばれたような少し情けない気持ちになった。
「なんだか、エトウは波瀾万丈なのか。単なるかわいそうな人なのか、分からないわね」
コハクは馬鹿にしているのではなくて、心底そう思っているといった表情だった。その正直な感想は、不思議とエトウを楽な気持ちにさせた。
「勇者がそんな性格でいいのか? 大丈夫か、人間族?」
ソラノは勇者の存在について疑問を持ったようである。
「しかし、賠償金が支払われたということは、王城や教会も勇者の悪行を認めたということだな。それで勇者たちはどうなったんだ?」
アモーはエトウに尋ねた。
「勇者たちがどうなったのかは分からない。正直なところ、あまり興味がないんだ。でも、表だって責任を取らせるようなことはなかったと思うよ。影響が大きすぎると思うから。偉い人からお説教くらいはあったかもしれないけど」
エトウは特に気にしていないというふうに答えた。
世界でたった一人しか選ばれない勇者を、こんなつまらないことで罰することはないだろう。それならば、エトウも過去の嫌なことは忘れてしまって、自分の冒険に集中した方がいい。
「俺としては勇者パーティーと関わらないで済んだことが最善だったな。パーティーにもどれなんて命令されたら、他国に逃げてたかもしれない。勇者と魔聖には会いたくないな。会っても不愉快な気持ちになるだけだと思うから」
勇者パーティーはエトウにとってすでに終わったことだった。
補助魔法を禁止された悔しさは残っているが、ロナウドとミレイに対して憎しみのようなものはない。関わり合いになりたくないという忌避感だけだった。
「剣聖はどうなの? 同郷の幼馴染みなんでしょ?」
「ラナのことは、幼馴染みの俺の言葉よりも勇者を信じるのかって、当時はやるせない気持ちだったな。でも今考えれば、もう少しラナに相談してもよかったかもしれない。俺は勇者たちに差別されていることが情けなくて、恥ずかしかった。それをラナに知られるのが嫌で、こちらから壁を作っていたんだ」
エトウは深いため息をついた。
今のパーティーメンバーに接するようにラナとも正直に話ができていれば、また違った結果になったのかもしれない。
「今度会ったときにラナさんと話せばいいんじゃない? 遅すぎるってことはないと思うよ」
コハクがエトウを気遣った様子で言う。
「そうだな」
そんな機会がこの先あるのか分からないが、そのときにはきちんと話をしようとエトウは思った。




