16. ご苦労さま
赤目を討伐したソラノとA級冒険者パーティーのメンバーは、ダンジョンの調査をピュークたちにまかせてエトウの元へ向かった。
赤目はゴブリンのボスだった。その赤目が討伐されたのだから、ゴブリンたちは統制を失ってちりぢりになっている可能性が高い。
「エトウ、コハク、アモー、どうか無事でいてくれ」
ソラノは祈るような気持ちで皆の元に馬を駆けさせた。
「これは、なんだ?」
ゼニートがつぶやいたが誰も答えない。
まばらに木々が生えている平地に出ると、おびただしい数のゴブリンが死んでいたのだ。
これをエトウたちがやったのか、誰か助っ人が来たのか、それとも強大な魔物があらわれたのか。いろいろな可能性が頭に浮かぶが答えが出ないのだ。
「エトウ! どこにいるんだ! コハク! アモー! どこにいる!」
ソラノは馬を駆けさせてパーティーメンバーに呼びかける。
「そんな……みんなどこだ! ウチを一人にするな! エトウ! コハク! アモー!」
ソラノは泣きながら三人の名前を呼び続けた。一緒にここまでやって来た冒険者たちも、三人の名前を呼んで辺りを探し回った。
しかし、いくら探してもエトウたちの姿は見えず、声も聞こえない。それでも探すのを止めないソラノに冒険者たちは声をかけられずにいた。
「おい、あれ。エトウたちじゃねぇか!」
冒険者の一人が森を指差した。
ゴブリンの死体の果て、森の奥から馬を引いたアモーがあらわれたのだ。
馬にはコハクとエトウが乗っている。エトウはかなり消耗しているようで、コハクにおぶさるようにして首を前後に揺らしていた。
「お前たち! 生きていたのか! よかった。本当によかった」
ソラノは馬から降りて走り寄ると、馬上のコハクに抱きついた。コハクは涙を流しているソラノに驚いたが、ふっと笑ってソラノの髪をやさしくなでる。
「ソラノも無事でよかった」
エトウとアモーもほっとしたような表情になる。ゼニートやアラムたちとも、生き残ったことを喜び合った。
ひとしきり泣いた後で、少し落ち着いたソラノはエトウを見つめた。
傷は手持ちのポーションで癒やしたようだが、服を汚す血の跡はひどいものだった。ワイバーンの革鎧も傷だらけになっている。
ゴブリンの群れを押し留めるために無理をしたのは間違いない。
「エトウ、赤目は倒しておいたぞ」
いろいろと言いたいことはあったが、ソラノはその一言だけを告げた。
「そうか。ソラノ、ご苦労さま」
エトウはソラノに笑いかけた。疲労の極致にあるエトウの力のない笑顔だったが、ソラノはそれがうれしかった。




