13. 転移魔法
「転移魔法を使うゴブリンだと? そんな化け物をどうすればいいんだ!」
魔道士の一人が叫んだ。魔法の専門家だから転移魔法の難易度が分かるのだろう。震える肩を自らの手で押さえつけているその魔道士の心は今にも折れそうだった。
その一方で、冒険者たちは緊張をゆるめていなかった。A級パーティー『光の矢』のゼニートが、震えている魔道士に話しかけた。
「魔道士さんよ、俺たちは赤目と魔法勝負をする必要はないんだぜ。赤目にかぎらず魔物はいろいろな技を使う。要はその対策法を見つけて、罠にかけてやればいいんだ」
「そんなことができるものか! 敵は伝説の魔法を使うのだぞ!」
「できるか、できないかじゃねぇ。生き残りたけりゃ、やるしかねぇんだよ」
話している間も、ゼニートの目は油断なく赤目を見つめている。『荒神のほこら』のアラムも会話に加わった。
「あんたらにはピューク団長が言った魔力の揺らぎが分かるのか?」
魔道士たちは、自信のなさそうな表情でお互いの顔を見合わせた。
「自分たちには、とても――」
「ウチには分かると思う」
横で話を聞いていたソラノが赤目を注視しながら言った。
ゼニートはソラノの顔を見て、その視線をエトウに移した。アラムもエトウを見つめている。
「私が指示を出しても構いませんか?」
エトウが尋ねると、ゼニートとアラムはうなずいた。
「俺たちをうまく使ってみせろよ」
すでに赤目へと視線をもどしているゼニートは、口元だけで笑っていた。
「よし! ソラノ、魔力の揺らぎを感じたら、『ハイ!』と叫んでその場所に矢を放て。後衛はそれに合わせて魔法と矢の攻撃、前衛は距離を詰めて赤目を攻撃してください。これは短期決戦です。一瞬のチャンスを逃さず赤目を倒しますよ」
エトウは矢継ぎ早に指示を出していった。
冒険者と騎士は「おう!」と叫んで臨戦態勢をとった。出遅れた魔道士も目に覇気がもどり、油断なく杖を構えている。
エトウは支えられてやっと立っているピュークを見た。彼は口元を笑うように歪めて「大丈夫です」と言った。
よし、仕切り直しだとエトウは赤目を見た。赤目もエトウをじっと見据えている。
デバフ効果は切れてしまったようだ。魔法耐性の高い魔物などは、自力でデバフ効果を打ち消すことができる。赤目もそのタイプだとエトウは思った。
だが、赤目はまだゆっくり動いていた。ダークの効果は切れている。ペインは効果がなかったのかもしれない。グラヴィティかスロウの効果は続いているようだった。
エトウが赤目と目を合わせていると、赤目の姿がかすかに揺らいだように感じられた。その直後、ソラノの「ハイ!」という合図が聞こえ、エトウの上空一メートルほどのところをソラノの矢が通り過ぎた。
その付近はダンジョンから流れてくる魔力が淀んでいるように感じられる。すかさずエトウはその場所を指さし、「ここだ!」と攻撃の指示を出した。
ポーションで腕の傷を癒やしたアモーは、右手に持った大剣をその場所に突き入れた。
「ギィギャー!」
耳をふさぎたくなるような大きな鳴き声とともに、赤目が空中にあらわれた。右肩から先をアモーの大剣で切り落とされている。赤目の顔には苦悶の表情が浮かび、肩からは緑色の血が噴き出していた。
間髪入れずに、魔法と矢の集中砲火が赤目を襲った。
赤目は左手で肩口の傷を押さえながら着地すると、決死隊の間を縫うようにしてダンジョンの入り口にもどった。
エトウはその動きを見て、赤目は連続して転移魔法が使えない可能性が高いと思った。
「エトウくん、あれを見てください」
ピュークは赤目の頭上を指差す。
そこにはダンジョンからあふれ出した魔力が渦巻いており、それがゆっくりと赤目の体に吸い込まれている。
「おそらく赤目は……ダンジョンの魔力を取り入れることで、転移魔法を……可能にしているのでしょう。現代で転移魔法が実現できない……最大の理由は、魔力量の不足であるといった……研究結果があります」
ピュークは息を切らせながら自分の見解を説明した。
赤目を攻略する糸口が段々と判明してきた。転移魔法の出口はソラノによって察知できる。
そして、もしもピュークの見解が正しければ、赤目はダンジョンの近くでしか転移魔法を使えない。
エトウはこのまま押し込んでいけば赤目を倒せると思った。
決死隊のメンバーにも当初の絶望的な雰囲気はなくなり、通常の討伐依頼を行うような覇気と冷静さが見てとれた。
だが、エトウたちは時間をかけすぎていたようだ。後方からゴブリンの鳴き声が聞こえる。
魔道士たちが放った上級魔法の効果はすでになくなっていた。
このままゴブリンの群れに飲み込まれれば、決死隊に生き残る術はないだろう。
エトウはふーと大きく息を吐き出した。
「ゴブリンの群れは私が相手します。アモーとコハクも一緒に来てくれ。ソラノは赤目の探知を続けるように。騎士の皆さんには、ソラノや魔道士たちの護衛に回って頂きたい。冒険者は、パーティー単位で赤目に攻撃を仕掛けてください。他に意見はありますか?」
エトウの提案はそのまま受け入れられた。
「それじゃあ、最後の一踏ん張り、気合いを入れましょうか」
エトウはそう言うと、馬をゴブリンの群れに向けたのだった。




