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10. 謁見

 決死隊の出撃は三日後の朝、ゴブリンの群れが王都周辺の森から引き上げたタイミングで行うことが決定した。


 エトウたちは消耗品の確認や、他の決死隊メンバーに補助魔法の効果を試してもらうなど、慌ただしい日々を過ごした。

 決行の前日は決死隊の主要メンバーが王城に集められて、国王に拝謁することになっている。


 エトウが国王に拝謁するのは、勇者パーティーが王都の外へと冒険に出るときが最後だった。魔物の討伐を行って王国民の安寧を得ることを、国王の前で誓ったのである。

 エトウが勇者パーティーを離脱したことは国王も当然知っているだろう。国王が自分のことをどう思っているのか分からず、エトウは謁見まで落ち着かない気持ちで過ごすことになった。


 謁見の日、呼び出された決死隊の面々は待合室で顔をそろえた。

 冒険者はエトウたち四人、『光の矢』の四人、『荒神のほこら』の五人の合計十三人。騎士は近接戦闘を得意とし、魔法も使うことのできる精鋭十人。魔道士は赤目の弱点属性が不明なため、火、水、風、土の四大魔法のうちで上級魔法の使い手を五人そろえていた。


 そこには魔法士団団長であるピュークも入っている。

 全属性の魔法が使えるピュークは、周囲の反対を押し切って決死隊に参加することを認めさせたのだ。


 ピュークの参加表明に関してエトウは、使命感というよりゴブリン希少種への興味が勝ったのだろうと思っている。

 好奇心を満たすためには命の危険も顧みない、多くの人にとっては信じられないことだが、ピュークにはそんなところがあるとエトウは知っていたのだ。


 案内人に促される形で決死隊のメンバーは待合室を出て、謁見の間に足を踏み入れた。

 やわらかな赤じゅうたんが懐かしい。田舎から出て来て国王に初めて拝謁したとき、この赤じゅうたんのやわらかさに驚かされた。並んで歩いていたラナも、恐る恐るじゅうたんを踏んでいたことを思い出す。


 所定の位置でヒザをつき、頭を下げる。宰相のビスマルクの言葉に顔を上げると、数年前と変わらずに威厳のある国王が玉座に座っていた。

 国王は田舎から出てきて緊張しっぱなしのエトウたちに笑いかけ、「ご苦労だな。よく励めよ」と激励の言葉を与えてくれた。

 その後、王城内では平民だからといって差別されることもなく、快適に過ごすことができた。


 エトウは心の中で、(陛下、申し訳ありません。自分は陛下のご期待にそえず、勇者パーティーを離脱してしまいました。今回、決死隊に参加することで、少しでも陛下に恩返しができればと考えています)と謝罪と決意を語った。


 国王の激励の言葉が続き、謁見は終わりにさしかかっていた。

 あとは自分たちが退場するだけというときに、国王は視線をエトウに向けた。


「エトウ、久しいな」


 国王の目元は優しげに細められており、その口調は古い友人に向けるような穏やかさがあった。

 予定になかった発言だったため、宰相のビスマルクがなにか言いかけたが、国王は目でそれを制した。


「エトウにはいろいろと心労をかけた。穏やかに過ごしてくれたらよいと思っていたのだが、再び苦労をかける」


 国王は先程までの穏やかな表情から、威厳のある表情にもどっていた。


「いえ、苦労などとは。陛下のご期待にそえなかった自分ですが、民の安寧のため、今回は陛下のお役に立てるように誠心誠意努めたいと思います」


 エトウは心に留めていたものを口に出せたことで、知らず知らずのうちにこわばっていた心身がほぐれていくようだった。


「そうか。エトウは余との誓いを覚えていてくれたのだな。励めよ」

「はっ」


 エトウの瞳からは涙が流れていた。勇者パーティーを離脱したことへの罪悪感を、国王陛下はやわらげてくださったのだと感じていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エトウの瞳からは涙が流れていた。 おもわず。もらいなきですよ・
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