9. 決死隊
エトウたちが夜通しにわたるゴブリンとの戦いを終えて常宿にもどってくると、冒険者ギルドの職員が待っていた。グランドマスターの用件で、昼過ぎにギルドまで足を運んでほしいという。
その夜の籠城戦参加は免除となるようなので、エトウはギルドへの呼び出しを了承して昼まで体を休めた。
職員に案内されるままにギルド内の一室に入ると、そこにはグランドマスターのトライエや王都ギルドマスターのサイドレイクに加えて、騎士団団長、魔法士団団長、王国軍団長、王都守備隊隊長がそろっていた。
さらにエトウを驚かせたのは、宰相のビスマルクがそこに座っていたことだ。宰相は国王を支える文官のトップである。
エトウは勇者パーティーに所属していたときに面識があったが、不世出の宰相と言われるほどに有能で厳しい性格をしていると噂されていた。
「来たか。エトウくんたちはそちらに座ってくれ」
トライエの厳しい表情は、事態が切迫していることを如実にあらわしていた。
エトウはこの顔ぶれの中で着席を許されるのかと不安になったが、座れと言われているのだから四の五の言うのは逆に失礼だと考え直して、指示された席に腰を下ろした。
パーティーメンバーもエトウの隣に着席する。
部屋に集められた者の中でエトウたちが最後だったようで、エトウの近くにはギルド内で少し話をしたことがあるA級冒険者のパーティー二組が座っていた。
彼らとB級パーティーであるエトウたちは、現在、冒険者の中で最精鋭となっている。
ゴブリンの襲撃後は王都と他の町へのルートは軒並み閉鎖された。
昼間はゴブリンの襲撃がないとはいえ、あれほどの大群がすぐ近くに潜んでいる状況では、冒険者であってもおいそれと移動することはできなかったのだ。
たまたま王都に残っていたA級パーティーは二組だけ。B級パーティーは他にもいたが、A級に匹敵する戦闘力を持っているのはエトウたちだけだった。
「皆に来てもらったのは、ゴブリンの襲撃に関して、こちらから提案があるからだ。最初の襲撃から一週間連続で、ゴブリンの大群が王都を攻めてきているのは周知のことだと思う。昼間の襲撃がなかったとしても、これが続けば王都の都市機能は麻痺してしまう。守備側の消耗も看過できないレベルにまで来ているのだ。そこで我々は決死隊の結成を提案する」
トライエは真剣な眼差しで冒険者たちを見ながら呼び出した理由を説明した。
宰相を始めとした王国の重鎮たちは、トライエの提案を知っていたのだろう。誰もが正面を向いて静観の姿勢を保っている。
「その決死隊には我々冒険者だけが参加するのですか?」
A級パーティー『光の矢』のリーダー、ゼニートが尋ねた。
彼は会議に参加しているお偉方の真意を見極めるように目を細める。その表情には、自分たちだけが犠牲になるのは受け入れられないという感情がありありと見てとれた。
「決死隊の目的はゴブリンの頭目を討伐することだ。そのため、魔物の討伐に一番慣れている冒険者が中心となる。そこに騎士団から十人、魔法士団から五人の精鋭を集う。さらに、ゴブリンの大群を抜けるために、騎士団と王国軍から二千人規模の騎兵隊を結成して露払いを行うことになっている」
「参加する冒険者は『光の矢』と、我々『荒神のほこら』、それに彼らというわけですか?」
大盾を自在に扱うことで知られる『荒神のほこら』のリーダー、アラムが訊く。その視線の先にはエトウたちがいた。
「そうだ。エトウのパーティーはB級だがA級に匹敵する戦力を有している。それはお前たちも十分に理解しているだろう? ワイバーンの群れを無傷で討伐できるB級パーティーなど聞いたことがない。ふふ、いい加減、分かりやすいようにパーティー名くらいつけてほしいがな」
トライエは頬をゆるめながらエトウに視線を移した。
「トライエ様のお話は分かりました。決死隊の標的はゴブリンの頭目とのことですが、現在分かっている情報について教えてください」
エトウは決死隊の参加については回答を保留にした。白い肌のゴブリンについて、できるだけ情報を仕入れる必要があると感じていたからだ。対策を立てるには情報が少なすぎるのだ。
トライエとサイドレイクは、調査隊が見たという赤目、白肌のゴブリンについて説明をしていった。そのゴブリンはすでに「赤目」と名付けられているようだ。
赤目は夜の襲撃には姿を見せず、その存在が確認されたのは調査隊の報告によってのみだった。
ソラノがピュークに請われてエルフの伝承について話をしたが、強力な魔法を使うと言われても、どのような魔法か分からなければ対処の仕様もない。
対策を立てられるほどの情報がないということが確認されただけだった。
「赤目に関する情報は少ない。敵のことをほとんど知らずに討伐依頼を出すなど、冒険者ギルドとしては片手落ちどころか、無責任もいいところだと思う。だが、このままの状況が続けば王都は干上がっちまう。ゴブリンの総数がどれだけいるのか分からない中、あいつらの王様を討ち取っちまうのは有効な作戦の一つだ。お前ら冒険者に使命だなんだと小難しいことは言わん。どうすれば生き残れる確率が上がるのかを考えて決めてくれ。報酬は一人五百万、成功すればさらに一人一千万ずつ追加だ」
トライエは話しているうちに興奮してきたのか、口調がどんどん荒くなった。冒険者時代の感覚がよみがえってきたのかもしれない。
トライエの話を聞いた冒険者たちは、その高額の報酬に驚いた表情を見せた。
しかし、そこはさすがにA級冒険者である。決死隊に参加するリスクと報酬額、それからこのままの状況が続いた場合、王都がどうなるのかなどについて話し合いを始めた。
エトウがパーティーメンバーを見ると、全員がエトウの目をしっかりと見つめてうなずいた。エトウは目線で頼もしいメンバーたちに感謝の意を伝えた。
「俺たちは参加するぞ。このままだと俺たちの故郷にまで被害が広がるかもしれん。王国上層部の協力が得られるなら、ここでゴブリンどもを討つべきだ」
アラムは決死隊への参加を受け入れた。
アラムたちの故郷は王都から西へ向かったところにある小村だと聞いたことがある。
村の近くに荒神のほこらという地元の神様が祀られている場所があって、そこからパーティー名を頂いたのだと本人が語っていた。
「我々も決死隊に参加したいと思う。このままではじり貧だ。A級冒険者として逃げるわけにはいかない」
ゼニートも後に続く。他のパーティーメンバーたちも覚悟を決めた目をしていた。
「私たちも決死隊に参加します。事前に決死隊の皆さんには私の補助魔法を受けてもらって、感覚を確かめてもらった方がよいでしょう。補助魔法で戦力の底上げができれば、突破力や生存率も上がるでしょうから」
エトウも決死隊への参加を表明した。
危険を冒すことになるが、このまま待っていても事態は悪化するだけだった。
騎士団や王国軍の兵力に余裕があるうちに、実現可能な打開策を試すべきだとエトウは考えていた。




