6. スタンピード
城壁近くの尖塔へは冒険者ギルドの馬車で向かうことになった。
馬車を操る御者の他、一人の男性職員がエトウたちと一緒に馬車に乗り込み、これまでの経緯について詳しく教えてくれた。
ゴブリンの襲撃が王都に迫ったのは今から二時間ほど前。騎士団と守備兵が城壁の上から魔法と弓矢を放って、二百匹から三百匹のゴブリンを一掃したという。
その後、鳥の魔物を配下に加えているテイマーに協力してもらい、王都周辺の索敵を行ったところ、東部の森の中に数万から数十万のゴブリンの群れが確認された。
ゴブリンは隊列を組むような動きを見せており、王都に向けて第二陣、第三陣と送り込んでくるのは間違いないようだった。
そこで住民に危険を伝える方針に切り替えて、騎士団、魔法士団、守備兵、冒険者には迎撃の態勢を順番にとってもらい、ゴブリンが城壁を越えてくるようなときには、最終手段として住民への避難勧告が出されるそうだ。
ゴブリンの第二陣が城壁に到達するのが今から数十分後、それからは間髪入れずに第三陣、第四陣と攻撃が続くことが予想されている。
現在、冒険者以外の部隊は城壁と城門に集結していた。
冒険者は遠距離攻撃が行える者は城壁からの攻撃要員として、近接攻撃専門の者は城門前の広場で待機となるだろうとギルド職員は語った。
馬車が目的地の尖塔に到着すると、中から若い魔道士が出てきた。
ギルド職員は馬車を降りて魔道士と二言三言話をすると、エトウたちにあいさつをしてから馬車で帰って行った。
その魔道士がエトウたちを団長のところまで案内してくれるという。
エトウたちは尖塔の最上階まで続く長い階段を登り、粗末な扉の前まで連れて行かれた。魔道士が扉をノックしてエトウたちの来訪を告げると、部屋の中から入るように指示される。
「私はここで失礼させて頂きます。どうぞ部屋の中にお入りください」
そう言って案内役の魔道士は去っていった。
「失礼します」
エトウが扉を開けると、一人の魔道士がエトウたちに背中を向けて城壁の外を眺めていた。
「やぁ、久しぶりですね、エトウくん。男は背中で語るというけれど、私の背中はなにかを語っていますか?」
その魔道士はエトウに背中を向けたまま話しかけた。
「ふふ。ピューク様は相変わらずですね。ええと、魔道士の服はたっぷりしすぎていて、ピューク様の背中の形がわかりませんねぇ。なで肩であることは分かりますが」
「ほーほー。勇者パーティーから離脱したと聞いていましたけど、元気でやっているようじゃありませんか。私の好物はワイバーンの肉だと教えたはずですけどね」
その魔道士はやっと振り返ってにやりと笑った。長い黒髪が背中まで伸び、部屋に置かれた松明は男性の整った顔立ちと青白い肌を照らし出している。
「お久しぶりです、ピューク様。こんな状況ですが、あなたと再会できたことをうれしく思います」
「私もですよ、エトウくん。さて、君が来てくれれば百人力ですね。一緒にゴブリン退治といきましょう」
ピュークはどこかへ遊びに行くような軽い調子でそう言うのだった。




