4. 暗雲
アモーとソラノが試験から帰ってきた三日後、二人は晴れてB級へと昇格を果たした。
コハクはギルドの食堂の机に体を投げ出しながら、二人のギルドカードを手に持って眺めていた。
「いいなぁ。シルバーかっこいいなぁ」
コハクは先程から同じ言葉を繰り返している。
C級のブロンズからB級のシルバーに変わった二人のカードが、うらやましくて仕方がないといった様子だった。
「もう、いい加減返して。コハクも十五歳になれば昇格試験を受けられる」
「二年は長いよー」
ソラノがなにを言っても、コハクは相変わらずアモーとソラノのギルドカードを眺めていた。
B級冒険者の昇格試験を受けるには、十五歳以上の成人でなければならない。十三歳のコハクにとって、二年間も待てないという気持ちなのだろう。
そこにギルドマスターと面会していたエトウがもどってきた。ソラノが感じた視線のことを、ギルドマスターに報告していたのだ。
パーティーで一番索敵能力が高く、感覚に優れたソラノが感じたことである。気のせいで済ませるべきではない。
「ギルマスの反応は?」
ソラノはエトウに尋ねた。
「うーん。ソラノの感覚は無視できないけど、それだけで大規模な調査を行うのは難しそうだな」
「そうでしょうね」
「それなら、私たちで森の異変を見つけようよ! ソラノが言うんだから、間違いないじゃない」
コハクは元気を取りもどしていた。B級に昇格できない鬱憤を、冒険の成果で晴らそうというのだろう。
それまでカウンターで食堂の店主と話していたアモーが、エトウたちのテーブルにもどって来た。
「いや、コハク、森の調査には慎重になった方がいい。ソラノが感じた視線は自分には分からなかったが、あのとき本当に嫌な気持ちになったんだ。あれからいろいろ考えてみたんだが、初めてダンジョンを見たときの印象に似ていた」
「ダンジョン?」
「そうだ。俺がまだ子供の頃、村の近くに新しいダンジョンができたことがあった。俺はそれを見に行ったんだ。怖い物見たさってやつだな。そのときの感覚によく似ていた。得体の知れない存在が奥にいるような、気味の悪い感覚だ」
魔物への恐れなど口にしたことのないアモーがそこまで言うのだ。エトウは王都東部の森におけるギルドの依頼は、警戒度を一段階上げることに決めた。
王都に急変が知らされたのはその日の深夜だった。
住民に異常を知らせる鐘の音が鳴り響き、大通りを騎乗した騎士や兵士が慌ただしく通り過ぎて行った。
エトウたちはそれぞれ装備を整えて、なにが起きているのかを知るために冒険者ギルドに向かうことにした。
ギルドは冒険者だけでなく付近の住民であふれていた。誰もが状況を知るためにギルドまでやって来たのだ。
エトウたちが人の壁を押すようにギルド内へと歩みを進めると、それを目ざとく見つけた受付嬢のサリーがエトウの元に寄ってきた。
「エトウさん、ギルドマスターが至急話をしたいとおっしゃっています。そのままギルドマスターの部屋まで進んでいただけますか?」
「分かりました。すぐに向かいます」
エトウは二つ返事で答えると、人の群れをかきわけてギルドマスターの部屋に向かった。




