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1. ワイバーン討伐

 マンティコア討伐から半年間、エトウたちはギルドの依頼を受注して成果を出していった。

 エトウは昇格試験に合格してB級冒険者となり、それ以外の三人はC級までほぼ最速の昇格を果たしている。


 飛ぶ鳥を落とす勢いのエトウたちは評判になっていた。

 奴隷をパーティーメンバーとして尊重する姿勢や、報酬の五%を積立金にして、その貯金が奴隷の購入費用を超えれば解放するといったやり方も高く評価された。


 エトウたちのやり方を取り入れるパーティーもあらわれ始める。

 奴隷の命を軽んじるようなこれまでの風潮に疑問を感じていたギルド職員が多かったこともあり、奴隷の自由を尊重しているパーティーには奨励金を出すなどの取り組みも始められた。


 ギルド内では時代の寵児のように扱われ始めたエトウだったが、本人もそのパーティーメンバーもいたって通常運転を続けている。

 

 エトウは自分の鼻が伸びそうになると、いかんいかん、勇者のようになるのは勘弁だと自重して、足下を見直すことが常だった。

 ましてマンティコア戦の失敗もある。調子に乗れば簡単に命を落とすのが冒険者稼業なのだ。


 パーティーメンバーもエトウにならって、何事にもおごらない姿勢を心がけていた。こうしたエトウたちの謙虚な姿勢は、多くの冒険者たちから好意的に受け入れられたのだ。


「おい、エトウのパーティーがワイバーンの群れを討伐したらしいぞ。人だかりになってるから俺たちも見に行こうぜ」


 まだ若手の冒険者たちが連れだってギルドの外に駆け出していった。


「まったく! 人のことよりも自分の仕事をしっかりしなさい!」


 ギルド受付嬢のサリーは怒り心頭である。

 サリーはこの十年間、受付嬢として冒険者たちの栄枯盛衰を見てきた。チャンスをつかんで大きな富と名声を手に入れるのはいつも一握りの冒険者のみだ。


 彼らに続けと上を目指す若者たちはいつもキラキラと輝いて見えたが、その新米冒険者たちの何割かは生きて帰って来ることができなかった。


 王国内の地域にもよるが、冒険者が一人前といわれるD級に上がれる確率は七割、仕事の幅が広がるC級には五割程度しか上がることができない。

 それ以外の者たちは冒険者の道をあきらめて他の仕事につくか、実力に見合わない無謀な挑戦のために帰らぬ人になるかだ。


 冒険者は魔物が多く生息する場所を仕事場にしているため、想定外の強大な魔物があらわれてパーティーが全滅するケースもある。

 周囲から順風満帆だと思われていた高ランクパーティーが、ちょっとした油断や不運から全滅の憂き目を見るのが冒険者という職業だった。


 さまざまな冒険者パーティーがあらわれては姿を消していく中で、エトウたちのパーティーは新進気鋭ながら依頼受注数と依頼達成率でトップクラスの実績を上げていた。

 今回も、王都北部の山で数を増やしていたワイバーンの間引きに成功したという。

 現在、エトウがギルドマスターの部屋に招き入れられ、ワイバーン討伐についての報告を行っていることをサリーは知っていた。


 大きな成果を上げ続けているのに、いつも穏やかで低姿勢なエトウはギルド職員の間でも人気だった。若い女性職員などは露骨にアピールを行っているが、エトウは相手を傷つけないようにやんわりと距離をとっていた。


 そうしたエトウの姿勢を見ると、サリーは見た目よりもエトウが苦労人なのかなと思った。弱小商人として方々に頭を下げながら商売をしていた自分の父親を思い出したのだ。


「お疲れでしょう。エトウさんならば、多少強引に話を切り上げても文句は言われないと思いますけどね」

 サリーはエトウにそう言ったことがある。

「調子に乗って嫌な人間になることが怖いんですよ。以前、そういった人につらく当たられて苦労したことがあるのでね。いつも気をつけているんです」

 エトウは困ったように笑いながら答えていた。


 なるほどとサリーは思った。そうした経験があるから、彼は決しておごらずに、淡々と依頼をこなしているのだ。

 エトウさんはまだ十代の若者でしょうに、どこでそんな苦労をしたんですかねと思ったが、王都ギルドにやって来る前のエトウの経歴は誰も知らなかった。


 ギルド上層部によって情報封鎖が行われているようだと同僚から聞いたことがある。

 サリーにはエトウの過去を調べたいという欲求はまったくなかった。エトウが見た目よりも苦労人であることが分かり、身近に感じるようになっただけだ。


 そんなことをつらつらと考えながら書類整理を行っていると、エトウがギルドの奥から歩いてくるのが見えた。


「エトウさん、お疲れ様です」

「ああ、サリーさん、お疲れ様です」

「今回はワイバーンの群れを討伐したらしいですね。若手冒険者たちが大騒ぎでしたよ。何匹のワイバーンを討伐したのですか?」

「新米冒険者にとってワイバーンは強敵ですからね。俺も頼もしい仲間がいなければ、とてもかないませんでしたよ」


 エトウはいつものように控えめだった。


「彼らの高い戦闘能力のおかげで、ワイバーンを十二匹討伐することができました」

「十二匹! それはすごいですね。一度の討伐数では新記録ではないですか?」

「ギルドマスターが言うには二十年ほど前、A級冒険者のパーティーがワイバーン二十二匹を討伐したのが最高記録らしいですよ。上には上がいると思い知りました」


 エトウはそう言ってまぶしい笑顔を見せた。

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