10. 反省
目の前のマンティコアは髭面の顔でにやーと気味悪く笑うと、鋭い尾でエトウの首筋をねらってきた。傷の痛みと毒のために、エトウは体を動かすことができない。
これまでかと諦めかけたとき、ソラノの短剣がマンティコアの尾の先端を斬り落とした。その後ろから走ってきたアモーは大剣を振り下ろす。
マンティコアは辛くもその一撃をかわしたが、二人を難敵と判断したのだろう。もう一匹のマンティコアと連携するような動きを見せた。
「エトウ、なんで突っ込むの! 死にたいの?」
コハクはエトウの両脇に手を入れて、マンティコアから少しでも距離をとるために後ろ向きで引きずっていく。
「す、すまん……」
エトウは震える声でそれだけを言った。
「もう、びっくりしたんだから! これ、毒消しね」
コハクは事前に用意していた毒消しポーションをエトウの口の中に放り込んだ。
エトウが毒消しを飲んだのを確認すると、すぐに傷の手当に移る。随分と手慣れた様子だった。
エトウとコハクのところにはソラノが護衛についた。弓矢を手にして、アモーの援護も行っている。
アモーは大剣を使ってうまく攻撃を防ぎながら、二匹のマンティコアをエトウたちがいる場所へと近づけないように立ち回っていた。
「か、過去の、克服には失敗したか……」
エトウは息も絶え絶えにつぶやいた。
「過去の克服どころか、未来を失うところだったわよ!」
コハクは手当を続けながら叫ぶ。
「コハク、う、うまいことを、言う、じゃないか」
「もう、エトウは黙って回復に専念して!」
毒消しがしっかりと効果をあらわしたのを待ってから、コハクはエトウに回復ポーションを飲ませた。傷にも少量をふりかける。エトウの太ももの傷は間もなくふさがった。
「ソラノ、コハク、補助魔法をかけるから、アモーの援護に行ってくれ。俺は大丈夫だ」
エトウは二人に対して、ストレングスとヘイストを重ねがけした。ソラノの矢には、風魔法の付与をかける。
「お父さん、連携していくよ!」
コハクが一人で戦っているアモーに呼びかけた。
「おう!」
アモーが返事をした直後、風魔法で速度と貫通力の上がった矢がソラノから放たれた。その矢は髭面のマンティコアの目に深々と突き刺さる。
「グワー!」
苦しそうに鳴いたマンティコアは動きを止めた。そこにアモーの大剣が振り下ろされる。大剣はマンティコアの首筋を斬り裂き、大量の血があふれ出した。
アモーは倒れ込んだ個体には目もくれず、もう一体のマンティコアに向かう。その頃には、ソラノが放った矢が何本もマンティコアの顔や体に突き立っていた。
暴れ回るマンティコアの反撃を冷静に防御したアモーは、隙をついて前足を斬り落とした。体勢をくずしたマンティコアの尻尾も斬り落とす。最後に、首筋に向けて鋭い突きを放つと、大剣は体の反対側まで突き通った。
エトウをすんでのところまで追い詰めたマンティコアだったが、頼りになるパーティーメンバーのおかげで討伐は成功に終わった。
エトウはコハクに再度叱られて反省していた。
一人で突っ込むような戦い方は、勇者ロナウドのように個人の力しか信じないような者にまかせておけばいい。自分は補助魔法を駆使したパーティーでの戦闘を目指していく必要があるのだ。
勇者パーティーから離脱して以降、エトウにとっては初めての大きな失敗だった。




