9. 執着
町と町の間をつないでいる定期馬車に揺られて、エトウたちは襲撃のあった場所に向かった。
馬車にはエトウたちの他にも冒険者パーティーが乗っており、途中馬に乗って走り抜けていく顔見知りの冒険者たちの姿もあった。
ギルドが設定した二倍の報酬は魅力的だった。
それに緊急依頼を達成した冒険者は、実力ありとギルド職員や依頼人に評価される。自分たちの信用度を上げることにつながるため、報酬以上にこれからの利益が見込めるのだ。
襲撃現場に着いたエトウたちは馬車を降りた。
襲われた馬車はすでに片付けられており、痕跡のようなものはほとんど残されていない。
東西に街道がとおっており、その両脇はうっそうとした森が続いていた。
「手がかりらしいものはないね」
コハクが周囲を眺めながら言った。
現場付近を歩き回っている冒険者たちも、マンティコアの痕跡を発見できていないようだった。それでも森の中に入っていくパーティーもある。
「これだけ武器を持った者たちがうろついていれば、マンティコアも出てこないだろうな。俺たちも森に入ってみるか」
「エトウ、ちょっとついてきて」
ソラノが真剣な様子で森の入口を見据えている。
「どうした?」
ソラノを先頭にエトウたちは森の中に踏み込んだ。
ソラノは黙って歩いていく。そして一本の木の前で立ち止まった。その木はエトウの腰の辺りの樹皮が剥がされていた。
「これ、マンティコアが尻尾をこすりつけた跡だと思う。ウチの故郷の近くには、マンティコアの生息地があった。木にこの跡があると、里の警戒度が上がる。さっき森に入るところにも同じ跡があった」
エトウたちは目を見開いて驚いた。そんな狩人のような技能を、ソラノが身につけているとは知らなかったのだ。
「ソラノ、すごいじゃないか!」
「ふふん、実力!」
ソラノは胸を張っている。
「よし、他の冒険者たちを出し抜いて、マンティコア討伐を成功させるぞ」
「おう」
エトウたちは控えめな声で気合を入れたのだった。
それからソラノを先頭に森の中を進んでいくと、確かに樹皮のえぐれた木が先に続いている。そしてついに川べりで水を飲んでいるマンティコアを発見したのだ。
周囲に他の冒険者の姿はない。マンティコアはこちらに背を向けて、小川に顔をつけていた。エトウたちの存在に気づいている様子はなかった。
エトウは身体能力を強化するバトルスペルの魔法に、速度を強化するヘイストを重ねがけした。筋力強化のストレングスも続けて使う。
目の前のマンティコアを倒せば、あの頃の情けない自分を乗り越えることができるような気がした。そうすれば補助魔法を禁じられた屈辱の日々をくつがえすことができる。
エトウは真新しいミスリルソードを引き抜くと、火魔法をエンチャントしながらマンティコアに突っ込んでいった。
散々練習を繰り返したパーティーの連携などは、頭の中からすっかり消え去っている。
エトウが加速に乗る直前、目の端に動くものが見えた。次の瞬間、右足の太ももに強烈な熱さを感じたと思ったら、いつの間にか地面に転がされていた。
「エトウ!」
コハクの叫び声が聞こえる。
必死で視線をめぐらせると、川べりにいたのとは異なるマンティコアが自分を見下ろしていた。その背中の辺りには、ゆらゆらと揺れる尻尾が見える。
エトウは自分が毒の尻尾で刺されたことを知った。




