5. 冒険の準備
オーガ族のアモーの体に合う衣類がどこにも売っていなかった。最終的には、数着の古着を購入してコハクが縫い合わせることで決着した。
多種族が集う王都であっても、アモーほど体の大きなオーガ族はめずらしいようだ。
アモーはタマラの奴隷商館に服を数着残してきたそうなので、後で取りにいくことにする。
装備品に関しては、エトウが自分の防具を新調する前に使っていたワイバーン革の防具を弓士のソラノにつけさせ、もう一つ予備で持っていたオーク皮の防具をコハク用に仕立て直すように注文を出した。
アモーの防具は手持ちのワイバーン革をすべて使い、割安で作ってもらえることになった。その代わり次にワイバーンを討伐した際には、シルフィード防具店と最優先で取引を行うという条件つきである。
防具を選び終えた後は、エトウがミスリルソードを購入したガルム武具店へと向かう。
アモーは大剣、斧、盾であれば、どれもうまく使えるということだった。その中でも大剣がもっとも得意らしい。
エトウの補助魔法について説明したところ、大剣にすると相性がよいようだ。
アモーのような大男用の大剣は、鉄であれ鋼であれ相当な量が使われ、製造コストも高くつく。
自分の装備品を新調し、奴隷を最初の予定よりも一人多く購入したエトウは、残金でアモーの大剣が購えるのかビクビクしながら店主のガルムに相談した。
すると、すでに作られた剣でアモーの要望に合ったものがあるという。
そのような大剣を使いこなせる者がいないため、もしアモーがその剣を振れるのであれば、格安で提供するという話だった。
「ガルムさん。その大剣をアモーが扱えれば、本当に格安で提供してくれるのですね? 本当ですね? お願いしますよ」
手元に残っているお金が心許ない中、渡りに船とはこのことだった。
「ええい、うるさいわい! 男が一度口にしたんじゃ。なかったことになどするものか。その大剣は倉庫の奥にしまいこんでいる。アモーとやら、わしについてこい!」
ガルムは声を張りあげた。
エトウがうなずくと、アモーはガルムの後についていった。パーティーメンバーもそれに続く。
「お前らがついてくる必要はない! その大男だけで十分じゃ!」
「いやいや、どうせならその大剣が振られるところを見てみたいです。今後戦うときの参考になりますしね」
出会ったばかりのパーティーメンバーだが、面白いものが見られそうだという感覚は同じだった。ガルムに怒鳴りつけられても三人の足は止まらない。
倉庫の奥に無造作に置かれた大剣は、剣先から柄まで黒色だった。刀身は馬の頭を楽に切り飛ばせそうなほど分厚く幅広い。長さも相当なもので、身長二メートルを超えるアモーでも腰に差すことはできないだろう。背負って持ち運ぶことになりそうだ。
「これじゃ。アモーとやら、振れるものなら振ってみせい! ただ振るだけではいかんぞ。鋭く早く振り抜き、この大剣が使えることをわしに示してみろ!」
ガルムの言葉にアモーは黙ってうなずくと、おもむろに大剣に手を伸ばして柄をむんずとつかんだ。
アモーは特別力を入れているようには見えなかった。普通の剣を持つように自然な形で剣を引き寄せると、大剣を両手持ちにして一息発したと同時に袈裟斬りにした。
ゴーという大気を切り裂く音が倉庫に響いた。アモーは確かめるように何度も大剣を振るった。
ゴーという音は最初の数回だけで、あとは空気を鋭く切り裂くビュンという音に変わった。
「うーむ。ここまで簡単に振るえるとは驚きじゃ。よし、アモーよ。その大剣はお主に譲ることにする」
ガルムは顔をほころばせた。
アモーは大剣を片手でつかむと、ガルムに向かって一礼し「ありがたく」と答えた。
ガルムはアモーのことがたいそう気に入ったようで、大剣の値段を格安にしてくれただけでなく、背負って持ち運びできるように革製の鞘も作ってくれることになった。
エトウたちはガルム武具店でコハク用の短剣二本と、ソラノ用の短剣一本、弓矢一式を購入した。
店頭にある物はその場で引き取ったが、エトウが注文している物も含めて、すべての商品は三日後にそろうようだ。
コハクは二刀流が使え、ソラノは近距離用の短剣術を修めているという。
弓矢一式は一級品とはいえなかったが、予算の都合上ソラノには我慢してもらった。
弓矢に合う木材さえあればソラノは自作が可能というので、余裕ができたら弓矢製作のための木材探しをしてもよい。エルフが手作りする弓矢にはエトウも興味を引かれたのだ。




