5. いざダンジョンへ
ベールからもっとも近いダンジョンである『龍神の迷宮』に挑むため、エトウたちはサキの町にやって来た。
数日前に大神殿の帰り道に宿泊したばかりなので、もどってきたと言った方がいいかもしれない。
先日、エトウが十日間の休暇をとってダンジョンに挑戦したいと言ったとき、コハクは働きすぎてエトウの頭がおかしくなったのかと思ったようだ。
ソラノも目を丸くしてエトウを見つめていた。
「エトウ……私がしつこくダンジョンに行きたいって言ったのが悪かったのよね。休みをとるのは賛成だけど、ダンジョンはまた違うときにしましょう」
「ウチもコハクに賛成。エトウは明日から休んで。私がサリーナに言っておく」
「……俺は正気だ!」
エトウがアンドレアに言われたことを説明すると、コハクとソラノはやっとエトウがおかしくなった訳ではないと納得してくれた。
「でも、いいの? 前の休暇のときも、トーワ湖で戦ってたじゃない? それで今回の休みはダンジョンを探索するとなれば、気を使ってくれた部隊長やサリーナさんたちに悪いように思うけど」
「ダンジョン探索といっても、深層に挑戦する訳じゃない。俺にとっては初めてのダンジョンだから、危険の少ない場所を見て回るだけだ。観光旅行みたいなものだろ? アモーはダンジョンに潜ったことがあったよな」
「ああ。一階層からゆっくり進んでいけば、それほどの危険はないと思うぞ。コハクはダンジョンに行きたいんじゃなかったのか?」
「そうだけど……エトウの事情を考えるとねぇ。私も五号棟で働いているから、サリーナさんたちの気持ちも分かるし」
「分かった! 最初の一日はゆっくり休む。二日目は馬を借りてサキの町へ向かい、その日も町の散策や宿の部屋で穏やかに過ごす。三日目、ダンジョンの情報集め。四日目か五日目、ダンジョン探索開始。無理をせずに探索を行いつつ、遅くても九日目にはベールにもどってきて、最後の十日目はまたゆっくり休む。どうだ、完璧だろう?」
「そうなるとダンジョン探索は長くて五日間か。初めて挑戦するには、いいところだな」
エトウとアモーはコハクを見つめた。彼女は急に視線を向けられて驚いたような表情をする。
「ちょっと! なんで私が反対みたいになってるの。エトウがちゃんと休めれば、私だってダンジョンに行きたいわよ! そもそもお父さんは仕事休めるの?」
「明日、師匠に相談してみる。ダンジョン産の素材は魔道具職人にとって必要なものだから、あちらから頼まれるかもしれないな」
「ホワイトクラブはおいしかった。他のカニも食べてみたい」
「エトウは休暇中の観光気分、お父さんは素材集め、ソラノは食材採取、なんだか動機が不純だよなぁ」
「コハクはダンジョンになにを求める?」
「目指せ一攫千金! 冒険者のロマンよ!」
コハクは右の拳を高くかかげると高らかに言い放った。三人は思わず吹き出してしまう。
「なんで笑うのよ!」
「悪い。うん、頑張れ」
ソラノが涙を指でふいている。
「いいんじゃないか? どうせなら宝箱も見てみたいしな」
エトウはどこまでも観光気分だ。
「コハク、あまり無理せんようにな」
アモーは父親目線でコハクに笑いかける。
「はぁ、だめだこりゃ」
そんな夜のやり取りがあってから数日後、エトウたちはサキの町にある冒険者ギルドの前にいた。
今日一日はサキでゆっくり過ごす予定だったが、簡単な下調べをしつつ、案内人兼荷物持ちであるポーターの目星をつけておいた方がいいとアモーが提案したのだ。
「初めて潜るダンジョンはポーターを雇った方がいい。いくら下調べをしても、毎日のようにダンジョンに潜っている者の体験には及ばないからだ。それに俺たちはB級冒険者が三人いる有力パーティーだ。ギルドとしても適当なポーターを紹介できないと思う」
「探索の目的はどうする? 遊び半分ですとは言いにくいだろ」
「そんな言い方をしたら、誰も紹介してもらえないぞ。本格的なダンジョン探索の前に、数日間潜ることで慣れておきたいとでも言っておけばいい」
「なるほど。期間は明日から六日間にするか。今日これから下調べをして、明日は無理のないところで実際に潜ってみたいな」
ダンジョンは目と鼻の先にあるのだ。エトウはすぐにでも潜りたい気持ちになっていた。他のメンバーも同じ気持ちだったようで、エトウの提案に同意する。
ギルド職員にポーターを紹介してくれるように頼むと、エトウの名前を聞いて対応が変わった。
エーベン辺境伯領では、エトウはなかなかの重要人物になっているのかもしれない。
ポーターとの顔合わせは、その日の夜、ギルド併設の酒場で行われることになった。
その後、エトウたちは資料室に向かい、『龍神の迷宮』についての基礎情報を調べた。
歴史の古いダンジョンで、数百年前からこの土地にあったそうだ。
最高到達階層は二十六階層。
川や湿地、湖などの水辺のフィールドが多い。
辺境伯領の自然をそのまま写し取ったようなダンジョンだという。
その資料には、龍神様はかつて小さな子供の姿でダンジョンの外にあらわれ、人々とも交流があったと書かれていた。
「アモー、ダンジョンマスターがダンジョンの外に出てくることってあるのか?」
「聞いたことがないな」
エトウは資料の信憑性が急に疑わしくなってきた。そして、有能なポーターを雇う必要性を強く感じたのだった。




