4. アンドレア部隊長からの呼び出し
その数日後、女神教の大神殿から送られてきた四人の女性被害者が五号棟に入った。
医師や薬師による診察が行われ、自助グループに参加することも決まる。
彼女たちにとって、大神殿で顔を合わせたエトウたちが近くにいるのは心強いようだった。
エトウは誘拐被害者を支援する体制が整った後は、もっと多くの犯罪被害者を五号棟の自助グループに受け入れていくつもりだ。
それが実現できれば、教会がこれまで行ってきた自助グループ活動と今以上に連携がはかれる。
支援の輪が広がることで、被害者の変化を見逃してしまうリスクも減らすことができるだろう。
ただ、物事をあまり性急に進めると、現在の体制を維持するのが難しくなる。
これまでのような場当たり的な対応ではなくて、中長期的な視野に立った活動が求められていた。
エトウが執務室でサリーナやフィリップとそのような話をしているとき、部隊長のアンドレアから呼び出しを受けた。
エトウは同じ建物内にある彼の部屋へと向かう。
アンドレアからはスカルピン盗賊団を壊滅させた礼を言われる。
川の中洲を拠点にして、街道を荒らしていたスカルピン盗賊団は、騎士団としても悩みの種だったようだ。
しかしアンドレアがエトウを呼び出した本題はそのことではなかった。
彼はエトウが休みもとらずに働いている状況を知り、働き方を変えるべきだと提案したのだ。
「ちょっと私の話を聞いてください。エトウ殿は王都から誘拐被害者を辺境伯領まで送ってきた後、南の砦の奪還、被害者支援の立ち上げ、民政官就任、トーワ湖のアンデッド退治、そして今回のスカルピン盗賊団の捕縛と被害者の救出と、目覚ましい働きをされています」
「それにはギルド経由で依頼された案件もありますし、私一人で実現したものではありませんよ」
「それでもです。エトウ殿、あなたに正面きって文句を言える者は、今のベールには誰もいません。それくらいあなたの功績は飛び抜けています」
「……ありがとうございます」
「現在の支援活動を続けていくにあたって、今が一番大切なときだというのは理解しているつもりです。しかし、だからこそ、エトウ殿が倒れたりすれば、どれだけ大きな問題になるとお思いですか?」
「はぁ」
エトウはその辺りのことはまったく無自覚だった。
やるべき仕事があって、それは自分が望んだことなのだから、誠心誠意努めようという気持ちだったのだ。
「エトウ殿は、南の砦の奪還後、ほとんど休みをとっていませんね」
「まぁ、そうですね……」
「エトウ殿は被害者支援においてカリスマ的存在です。あなたの代わりはいません。過労で倒れられたりしたら困ります。それに私も気をつけていることですが、上が休まないと下の者もなかなか休めないのですよ」
「そういった配慮も大事なんですね」
「ええ。誘拐被害者の行方が把握できて、事件は一段落着いたと思います。この辺りで長期休暇をとってみてはいかがですか?」
「長期というと、三日くらいですか」
「いやいや、もっと長くです。少なくとも一週間以上ですね。その間は、私も支援活動の方へ目配りしておきますし、サリーナにとってはいい経験になると思いますよ」
一年間という民政官の任期が終われば、エトウは冒険者にもどるつもりだった。
サリーナには自分の後を引き継いでもらわなければならない。
「いい機会かもしれませんね。休暇の件は、アンドレア部隊長におまかせします」
「そうですか! ご理解頂いてありがとうございます」
エトウの休暇は十日間という長いものになった。
民政官補助として働いているコハクとソラノについては、本人の希望を尊重するとのことだ。
エトウは自分の執務室にもどり、サリーナとフィリップに休暇の件を告げる。二人の反応はめずらしく一致していた。
「エトウ民政官、休むことも仕事のうちですよ」
フィリップは諭すようにエトウに告げた。
「気がつくのが遅いくらいです。この間の休暇も、結局はアンデッド退治になってしまいましたから」
サリーナも苦笑しながら同意する。
もうその頃には、エトウの頭は切り替わっていた。
自分の休暇中に引き継ぎの問題が起きないように、サリーナやフィリップと確認をしていった。
その日の仕事を終えて家路をたどるエトウは、十日間もあればダンジョンに潜れそうだと考えていた。




