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1. サキの町

 エトウのパーティーメンバーとラトナの五人は、ベールへもどる途中でサキの町に立ち寄った。

 まだ夕暮れまでには時間があるが、この先はベールまで大きな町はない。そこでサキの町で一泊することに決めていたのだ。


 大神殿で世話になっていた誘拐被害者の四人は、騎士団の本隊によってベールまで送られることになっている。

 ナルとニーの二人は、騎士団や冒険者ギルドへの報告を行うために大神殿に残った。


 エトウたちはスカルピン盗賊団から被害者を救出するという当初の依頼を達成している。

 実際は盗賊団から情報を得て、大神殿に保護されている被害者を見つけたのだが、ナルは依頼の完了印を押してくれた。

 ベールで仕事があるエトウたちは、一足先にベールへもどることにしたのだ。


 サキの町は『龍神の迷宮』と呼ばれるダンジョンに近い。

 ダンジョンに挑む冒険者たちが集まり、その戦利品を売り買いする商人も大店から露天商まで店を開いている。

 そこに大神殿へと向かう巡礼者も加わって、辺鄙な場所にもかかわらず、なかなかの賑わいを見せていた。


「ラトナさん、屋台や露天商が集まっているのは町の西側みたいだよ。行ってみよう!」


 コハクは賑やかな町の雰囲気を楽しんでいた。

 その左手には屋台で購入した果物の飴を持っている。串に刺した果物を水飴で包んだだけのものだが、ブルーベリーや杏子の色彩に目が引かれる菓子だ。


「コハクは、なにか買いたいものがあるのか?」

 ラトナは訊いた。

「おいしそうなものがあれば、即買いだね! ラトナさんは?」

「この辺りに来たのは初めてだから、ダンジョン産のものがあれば、ちょっと見てみたいな」

「私も興味ある! 早く行こうよ」

「待て、待て。まずは宿を取るのが先だ。ラトナさんもそれで大丈夫ですか?」

 エトウは横から口をはさんだ。

「ああ、エトウさんにまかせる」

「まずは冒険者ギルドに行って、この町の情報を仕入れよう。冒険者にとって使い勝手のいい宿屋も紹介してもらえるだろ」


 その後、ギルドの近くに適当な宿を見つけたエトウたちは、西門付近の屋台街へと向かった。

 大通りを歩いていくと、次第に通行人の数が多くなる。ダンジョンに近い町というだけあって、装備を身に着けた冒険者の姿が目立った。


 西門の前は広場になっており、屋台街はその広場を中心にして両側へと続いていた。

 城壁と町の区画の間、せいぜい七、八メートルのところに、屋台や露天商がひしめき合っている。

 その中央を通る狭い道は、人が多くて先が見通せないほどの賑わいだ。


「すごい人の数だな。この時間帯は混むのか?」


 エトウは背伸びをして屋台街の入り口を見ていた。

 するとすぐ近くで、カリッという食欲を誘う音が聞こえた。チーズのにおいも香ってくる。横を見ると、ソラノが揚げパンをかじっていた。


「ソラノ、うまそうだな」

「中身はダンジョン産のホワイトクラブって言ってた。ウチが前に食べたカニより身がやわらかい。ダンジョン、いいかも」


 エトウは食い意地でダンジョン行きを決めるのもどうかと思ったが、いずれはこのパーティーでダンジョンの探索にも挑戦するつもりだ。


 誘拐事件に巻き込まれた被害者たちの所在が把握できたため、エトウたちの気持ちは少し軽くなっていた。

 被害者の支援活動が一段落ついた頃に、『龍神の迷宮』に入ってみるのもいいかもしれない。


 エトウたちは買い食いをしながら辺りをぶらぶらと歩いた。特に目的もないエトウは、女性陣に引っ張られるように店をまわることになる。


「へぇー、草木染めってこういう植物から色を取るんだね」


 コハクは表面にイボが無数に飛び出している緑色の実を手に持っていた。


「それはブスという植物だ。夏になる前の今の時期なら、緑や黄の色が取れる。だが、季節や土地によっても色が変わるから、やってみないと分からないところがあるな」

 ラトナは言った。

「ブスというのは毒があるんじゃないのか?」

 アモーが怪訝な表情でラトナに尋ねる。

「ああ、毒あるぞ」

 ラトナがこともなげに言うと、コハクは急いでその実をもとの場所にもどす。

「ははは、大丈夫だ。ごく微量な毒だから、なんの問題もない。そうじゃなければ、染色には使えないだろう?」

 ラトナはそう言って笑う。

「そうだよね。もう、お父さん、おどかさないでよ」

「すまん、すまん。ずいぶん前にブスの話を聞いてな。毒があることだけは知っていたんだ」

「ブスは昔から草木染めに使われてきた素材だから、きれいな色が出るし、利用法を知っていれば安全だ。有毒植物はどうしても避けたいという人には、代用となる無毒の素材がいくらでもある。草木染めは、そうやっていろいろと試せるところが面白いんだ」


 ラトナはエトウたちに草木染めについて説明しながら、植物の実や葉、樹皮などをいくつかの店で購入していた。

 ラトナが身につけている臙脂色のマントも、花から染料を取って自分で染めたものだという。


「きれいな色合いが出ていて、趣味で留めるのはもったいないですね」

 エトウは正直な感想を語った。

「ありがとう。実は、ダイナと共同で草木染めの商品を作ろうかと思っているんだ。ダイナのご両親がやっている商会に置かせてもらって、客の反応も見てみるつもりだ」

「私は草木染めのハンカチがほしいかも」

 コハクが言う。

「ああ。最初は衣類ではなくて、手軽に使えるハンカチやタオルがいいだろうな」

「すごいな。趣味が形になっていくんですね」

「まだ、これからの話だがな」


 ラトナは照れをごまかすように、購入した商品を背負い袋に手早く詰めていた。

 友人であるダイナの分もまとめ買いしたため、持ち運ぶには少しかさばるくらいの量となっている。


「じゃあ、そろそろ宿にもどって夕食にしますか?」


 エトウが提案したとき、路地の奥から女性の悲鳴が聞こえた。

 エトウはコハクたちと顔を見合わせると、声が聞こえた路地に足を踏み入れた。

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