14. パーティーの一人として
ティアムの記憶を見ているロナウドは、彼が天魔王になることが信じられなかった。
勇者シーラと会ったときには、どこか不安定でうらぶれた感じはあった。
だが、それでも無差別に他人を傷つけるような人物には見えなかった。
(どこかに転換点があるはずだ。ティアムが天魔王へと変わるための大きなきっかけが。それを見逃さないようにしよう)
しかし、それからもティアムは勇者パーティーで自分の役割を果たしていく。
パーティーには、東の国出身で刀という細身の剣を巧みに使うミナトや、腕のよいエルフの弓士であるワラビが加わった。
ティアムを除く勇者パーティーの六人は、シーラを支えた六英傑として名前が残っている。
ロナウドが見たところ、ティアムはパーティー内でシーラに次ぐ活躍をしていた。
それにもかかわらず歴史書からティアムが除外されているのは、天魔王になってしまったからだろう。
(ティアムはシーラを騙しているのか? しかしとてもそんなふうには見えない。本当にティアムが天魔王になるのだろうか)
☆☆☆
その日、シーラたちは新たに発見されたダンジョンの調査に出向いていた。
まだダンジョンの規模は小さいが放置する訳にはいかない。
たまたま近くで魔物狩りを行っていたシーラたちに、王国から調査命令が下ったのである。
「今日は一階層だけ様子見で回ってこよう。魔物の種類、数、強さ。それから階層の広さかな。調べたことを報告書にまとめて提出する。本格的な調査は専門家が到着してからだね」
シーラがパーティーメンバーに方針を伝える。
「ダンジョンか……」
ティアムが小さくつぶやいた。
「ティアム殿はダンジョンがお嫌いか? いつになく憂鬱そうな表情をしているが」
魔道士のゴーサムが不思議そうに訊いた。
「嫌いという訳ではないが、天井が低い場所は息苦しさを感じてな。それに俺の場合、戦闘方法も限定される」
「なるほど。翼を使っての戦闘が難しくなるのだな」
騎士トールがうなずきながら言った。
「ああ。索敵もムーランとソリトにまかせることになるな」
「空から索敵ができるティアムには、いつも楽させてもらっているからね。こんなときこそ、斥候役の私たちが頑張るわよ。ねぇ、ソリト!」
ムーランがソリトの背中をバンと音がするほど叩いた。
「痛いよ、ムーラン! 本当に手加減てものを知らないんだから……」
ムーランに愚痴を言うソリトの近くに従魔である二匹の狼犬が寄ってきた。
「ポタ、クー、ダンジョンの中では頼んだぞ」
「ガウッ」
「ワウッ」
狼犬はムーランに返事をする。
「それじゃ、ダンジョンに入るわよ。みんな、気を引き締めて!」
シーラたちは地面が小山のように盛り上がったダンジョンの入り口を抜けた。
すぐにゴーサムがライトの魔法を唱える。光の玉があらわれて、真っ暗闇だったダンジョン内を明るく照らした。
シーラたちのいる場所は広場のようになっており、幅三メートルほどの通路がまっすぐ奥へと続いている。
斥候のムーランとテイマーのソリトが使役する狼犬二匹が先頭を進む。
その後ろを剣士ミナト、シーラが続き、近接戦闘が苦手な魔道士ゴーサムと弓士ワラビを守るように動く。
最後尾はティアムと大盾を構えたトールが警戒をしている。
(いいパーティーだ。各々が自らの役割を理解している。なにが起こるか分からないダンジョン内であっても、これだけしっかりと陣形を整えて進んでいけば、大くずれすることはないだろう)
新しいダンジョンということもあって、魔物はダンジョンの掃除屋であるスライムを始め、ゴブリンや食人キノコなど低ランクのものばかりだった。
シーラたちの実力ならば危なげなく討伐できる。
壁の数カ所はくずれて道をふさいでいた。行き止まりとなる道も多く、これからダンジョンが広がっていくところなのが分かった。
シーラたちはダンジョンの地図を作るための情報を集めながら、進んだりもどったりを繰り返す。
辛抱強く奥へと歩みを進めていると、ようやく下層へと続く階段にたどり着いた。
「やっと一階層の調査が終わったわね。一日で終わっただけよかったのかも」
シーラが深いため息をついた。
「これからもどると町へたどり着くのは深夜になるな。シーラ、どうする?」
ティアムは訊いた。
「そうね。今晩はここで野営して、明日、もう一度一階層を確認しながらもどりましょうか」
「今晩のうちにわしが簡易的な地図を作っておくわい」
ゴーサムが請け負った。
階段近くの開けた場所に大きめのテントが二つ設置された。周囲には魔物を寄せ付けない結界が魔道具によって張られている。
シーラは魔導コンロでスープを作っていた。持参した野菜や干し肉を手早く切って煮込み、味付けをしていく。
その様子を見ながら、ティアムはあれから二年がたつのかと考えていた。
貢物を持ってくる人間たちのところで無聊の日々を過ごしていた自分を、シーラが無理やり連れ出してくれた。
それからの二年間は、ティアムにとってなかなか刺激的で面白いものだった。なによりも、人間やエルフたちと背中を預けて戦うのが新鮮だったのだ。
天空人はどこか下界の者たちを見下しているところがある。
ティアムはへそ曲がりなので、仲間たちの価値観をそのまま引き継いだりはしていなかったが、それでも自由に空を飛べる自分を上位の存在だと思う感覚は持っていた。
その自負心はシーラとの模擬戦で砕かれ、それ以降のパーティーでの戦いでは、役割分担がどれほど大切なのかを教えられた。
それぞれが役割を果たすことで、自分たちには荷が重いような大物でも倒しきることができたのだ。
パーティーにおける信頼と尊重。そういった当たり前のことも、唯我独尊で生きてきたティアムは一から学ばなければならなかった。
そんなティアムが他のメンバーと衝突したときに、間に入って仲を取り持ってくれたのがシーラだった。
「感謝しなければならないのだろうな」
ティアムはつぶやいた。
「え? ティアム、なにか言った?」
シーラが訊き返す。
「……いや、なんでもない」
「なになに? シーラのこと見つめちゃって。ティアムにも青春がきたの?」
ムーランがすかさずからかい始める。
「ばかなことを……」
「あらー、照れちゃて、ティアムかわいい!」
「うるさい。ムーラン、お前の頭の中にはそれしかないの――」
勇者パーティーの全員が下層に続く階段を見た。
装備を外していた者は、戦闘準備を素早く整える。階下から強大な魔力が上がってくるのが感じられたのである。




