6. エルフの里からの迎え
ソーマの罪が暴かれてから三日がたった。
あれからもミルコは毎朝稽古に参加している。「騎士になるのが私の夢だったのです」とミルコはロナウドたちに話した。
兄の代わりに次期当主となれば、ミルコはその夢を諦めなければならない。本人もそのことは理解しており、だからこそ「私の夢だった」と過去形で言ったのだろう。
ロナウドたちと剣術に打ち込むその時間は、ミルコにとって思い描いていた夢そのものなのかもしれない。
「はい、私の勝ちー。腕立て二十回!」
「あー、負けました」
ラナとミルコはハンデ戦を何度も行っていた。
先程は、ラナが右腕と左足を使わずに戦うというもので、片足で飛びながら間合いを詰めたラナの奇襲にミルコはやられてしまったのだ。
「ラナは相変わらず大人げないですね」
射撃場からもどってきたミレイはロナウドに声をかけた。
「あれでなかなかいい勝負を演出しているようだぞ」
「そうなのですか?」
「ああ。ラナは子供の扱いがうまいな」
腕立て伏せ二十回を早々に終わらせたミルコはラナに再戦を挑んでいる。
ミルコの剣筋は、以前よりも安定して鋭いものになっていた。
「朝稽古は今日で最後ですわね」
「ああ」
二人の模擬戦を見ながら、ロナウドは少し物悲しい気持ちになった。
昨晩、エルフの里から迎えが来たと伝えられたのだ。明日の朝にはノバクの町を去ることになる。
まっすぐな気持ちで接してくれたミルコを、ロナウドたちは好ましく感じていた。
「よし、私もミルコの相手をしてくるか」
「ええ、それがよろしいですわ」
ロナウドは傍らに控えていた騎士から模擬剣を受け取ると、ミルコたちのいる方へ向かった。
☆☆☆
「エルフの里からおもどりになる際には、是非お立ち寄りください」
ミルコは名残惜しそうに言った。
「皆様がいらっしゃらなかったら、どうなっていたことか。本当にありがとうございました」母親のマドラも頭を下げる。
「長らく世話になってしまった。ミルコ殿との再会を楽しみにしているぞ」
ミルコとマドラは、二人並んでロナウドたちを見送った。
ミルコは馬車が城の門を越えた後も、長い間その方向を見つめていた。
馬車にはロナウド、ミレイ、ラナに加えて、もう一人、エルフの女性が座っていた。
そのエルフは黒みがかった金髪をあごの辺りで切りそろえている。草色の上下を着て、腰には短刀を刺し、弓矢は馬車の壁に立てかけてあった。
「エルフの里からの迎えが遅れたのはどうしてなのかしら? なんの説明もないようですけど?」
ミレイが高圧的に迫る。
「勇者は男と問題を起こすと聞いた。だから、迎えには女を送ることになったが、適任者が見つからなかったのだ。私が外から里にもどると、すぐに迎えに行けと言われて、ここにいる」
「男と問題? それはどんな根拠があって言っているのです?」
「なんだったかな……忘れた。そもそも勇者に興味ない」
「あなた、無礼ですわよ!」
「うん? 勇者に興味がないと無礼なのか?」
「それは……、いえ、そうではなくて、それをわざわざ言葉にするのが無礼なのです。あなたには一般常識がないのですか!」
「ないとよく言われる……。こんなにすぐにバレるとは、お前なかなかやるな」
「私は、お前ではなくて、ミレイという名前があります」
「ミレイか、私はイザベラ、よろしく頼む」
「なんなのですか、あなたは! とにかく、私たちに迷惑をかけないでください。よろしくお願いしますね!」
「ああ、分かった」
ミレイがここまで感情を見せるのは、いつ以来だっただろうか。
ロナウドはエトウのことを思い出していた。ミレイがエトウにつらく当たっていたときは、ちょうどこんな様子だったのだ。
私が男と問題を起こすとは、もしかしてエトウのことか? そう思ったが、わざわざ確認する必要もない。
イザベラはエルフの里への道のりを騎士や御者に伝えていた。そして自分がここにいれば、迷いの結界に行く手をはばまれることはないと断言したのだ。
迷いの結界の仕組みについて尋ねてみると、イザベラ自身もよく分かっていない様子だった。
結界を抜けるためにはなにか秘密がありそうだが、その点にふれるとなにも話さなくなる。言動は非常識でも、そういったところは徹底されているようだ。
ノバクの町の南に広がる森はエルフ大森林と呼ばれている。
多種多様な生物が生息し、奥に行けば行くほど強大な魔物が縄張りを争っているという。
エルフ大森林を仕事場にする冒険者は多いが、その奥地にまで踏み込めるのは一握りという話だ。
エルフの里は結界を重ねて張ることで魔物たちの侵入を防いでいるらしい。
朝にノバクを出発した一行は、夕方にはエルフの里の入口にまでたどり着いていた。




