4. 調査報告
勇者一行の主だった者たちが、定期会合のためにロナウドの部屋に集まっていた。
ノバクの町に来てからすでに十日がたっている。
定期会合の話題は、いまだ日程を組むことができないエルフの里についてのものになった。
「ティーダ、エルフの里からの迎えはまだなのか?」
ロナウドは勇者一行のまとめ役である聖騎士ティーダに尋ねた。
「申し訳ありません。エルフの里と連絡はついているのですが、もうしばらく待ってほしいの一点張りでして」
「そうか。しかし、エルフの迎えがなければ里にも入れないとはな。彼らの結界とはそれほどのものなのか?」
「エルフたちが使っているのは迷いの結界といわれています。外部の者が無断で里に近づくと、結界があることすら気がつかず、いつの間にか森の中で迷ってしまうのです」
魔道士のグラシエラが答えた。
「エルフも質の悪いイタズラのような真似をするのだな」
「結界が見えれば対処法もあります。しかし、迷いの結界のように目視できないものについては、よほど結界術に精通した者でないと突破は難しいです。私の知るかぎり、そんなことが可能なのはピューク団長ぐらいですね」
夢幻のピュークか。
異名で呼ばれる魔道士は少ない。実力と実績を兼ね備えていなければ、魔道士に異名などつかないためである。
ロナウドは王城でピュークから魔法指導を受けたことがあった。
そのとらえどころがない性格に振り回されることもあったが、全属性の魔法を自在に使える才能と精緻な魔力操作の技術に、この男こそ女神に選ばれた者ではないかと思ったものだ。
「しかし、迎えが来ていないのは、この際ちょうどよかったかもしれん。ティーダ、あの件はどうなった?」
「ロブ殿におまかせして調べてもらいました。こちらが調査結果になります」
ロナウドはティーダから書類を受け取ると、ざっと目をとおしてから、もう一度読み直した。そして何度かうなずいた後、隣に座っているミレイに調査結果を手渡す。
「こんなことだろうとは思ったが、ソーマは分かりやすい男だな。ロブはどこにいる?」
「最終確認のため、その高利貸しの男に話を訊きに行っています。このノバクの町で手広く商売をしているやり手の商人です」
「この町では利子の上限などは決められていないのか?」
「それはベールと同じです。高利貸しと言いましたが、あくまで他の者たちと比べると高利というだけで、当局が取り締まりの対象とするほど暴利を貪っているようには見えません」
「ぎりぎりの商売という訳か。部外者の私たちが手をつけるのは避けた方がいいな。すべてが終わったら、調べた資料はミルコの執事あたりに渡しておけ」
「はっ、分かりました」
「あとはミルコと事実のすり合わせをして、作戦を詰めるだけだな」
それほど大事にならずに済みそうでロナウドは安心した。ウィンザーズ家の内々で話をすれば片付きそうである。
だが、金貸しのところからもどってきたロブは、まずい事態になったことをロナウドに告げたのだった。
☆☆☆
その日、ソーマ・ウィンザーズは、甥であるミルコから重要な話があるので城まで来てほしいと呼び出しを受けていた。
ミルコは十歳という年齢ながら、ベールにいる当主に代わってノバクの領主代理のような立場にいる。身内だからといってその呼び出しを無視する訳にはいかなかった。
「一体なんだというのだ? トーシェ、お前は私が呼び出された理由を本当に聞いていないのか?」
ソーマは城内の一室へと案内している執事のトーシェに尋ねた。
「はい、ソーマ様、私はなにも知らされておりません。今回の件は、勇者様がミルコ様にご相談されたと聞いています」
「ロナウド様が……?」
ソーマは城の温室でロナウドに失礼な態度をとってしまったことを思い出していた。
あれぐらいのことで後日わざわざ呼び出すことはないだろうが、あの男がかかわっているならばうれしい話ではなさそうである。
ソーマの眉間のしわはますます深くなった。
「こちらの部屋で皆様お待ちでございます」
「うむ」
トーシェが目の前の扉を開けると、部屋の奥にミルコとその母親マドラ、そして勇者ロナウドが座っていた。
この部屋は当主が出席する会議で使われることもあり、中央に大きなテーブルが置かれている。
そのテーブルを囲むように、魔聖ミレイ、剣聖ラナ、それからソーマが会ったことのない三人の人物が着席していた。
「叔父上、呼び出しに応じてくださってありがとうございます。どうぞそちらの席へお座りください」
ミルコがいつになく厳しい顔つきで言った。
「皆様お集まりでなにかあったのでしょうか? マドラ殿までいらっしゃるとは、お体の具合はいかがですか?」
「お久しぶりですね、ソーマ様……。私も詳しいことは聞いておりません。ロナウド様がソーマ様になにかお話があるということです」
「なるほど、なるほど」
ソーマはロナウドに視線を移す。
「無駄話をするために呼び出した訳ではない。いいから席に着け! それとも力づくで座らせるか?」
ロナウドはあいさつもなしにいきなり怒気を放った。
たちまち部屋の空気が緊張を帯びる。
そこに騎士服を身に着けた男が、ロナウドとソーマの間に割って入るように席を立った。
「ソーマ様、初めてお目にかかります。私はロナウド様の護衛騎士ロブ・コーラルと申します」
ロブは一度頭を下げてから言葉を続ける。
「本日は私が進行をまかされておりますので、まずは着席して頂いて、私の方から趣旨説明の方をさせて頂ければと思います」
ソーマはその言葉にうなずくと、ロナウドの怒気で固まった体をなんとかテーブルまで運んだ。
ロブはソーマが着席したのを見届けてから説明を始める。
「ソーマ様、数日前にロナウド様に対して不敬な態度をとったと伺っていますが?」
「ああ、それは……」
「そのことは今回の件とは関係がありません。ですが、そのとき、ロナウド様はソーマ様に不審を抱きました。そして我々にソーマ様のことを調べるようにお命じになられたのです」
「なっ! どんな権利があって、そんなことを!」
「権利ですか? ロナウド様には、不審人物の調査や捕縛の権利が認められています。断罪であっても、正当な理由があれば事後報告で処理することが可能です」
「そんな……」
「今回は、ロナウド様にそのような権利を行使して頂く必要はないかと思います。ソーマ様には調査のきっかけについてお伝えしただけですので」
「……分かった。続けてくれ」
ソーマはことを荒立てても状況はよくならないと悟ったようである。
深くうなずいたロブは、テーブルの上に置いてある書類を近くに引き寄せると、いよいよ今日の本題へと切り込んでいった。




