1. 王都からの書状
「ロナウド様、王都からこちらの書状が届いております」
ロナウドが定例会議のために会議室に行くと、勇者一行のまとめ役を務める聖騎士ティーダが封をされた羊皮紙を手渡した。
「羊皮紙とは、王城はいつまでも古風なのだな」
ロナウドは呆れたように言った。
「使者の話では正式な命令書ということなので、昔ながらのやり方を踏襲したのでしょう」
「正式な命令書だと? ティーダは内容を知っているのか?」
「いえ。聞いておりません」
ロナウドはおもむろに書状を開くと、書かれてある文章に目を通す。確認のために二度、三度と続けて読んでから、ティーダに書状を手渡した。
「読んでみろ」
「はっ。読ませて頂きます」
ティーダもロナウドと同様に書状をしっかりと読み込んだ。そして何度もうなずいている。
その頃には、ミレイやラナを始め、勇者一行の面々が会議室にそろっていた。
「このまま会議を始める。各々着席せよ」
ロナウドはティーダから書状を受け取ると、皆に声をかけてから席に座った。
「王城から命令書が届いた。その内容は、エルフの里へ出向いて、二百年前に暴れまわった魔王の情報を得ることと、大昔から伝わっている『試しの儀式』を私、ミレイ、ラナの三人が受けることだ」
「それはすごい! エルフの里への立ち入りが許可されたのですな」
魔道士のリーダーであるグラシオラが声をあげた。
「ああ。この書状を見せれば、今すぐにでも里に入れるようだぞ」
「同行人数を絞る必要がありますか?」
騎士のまとめ役である部隊長ロブが尋ねた。
「そのようなことは書かれていなかったから、問題ないだろうと思う。なんだ? エルフの里というのは、それほど排他的なところなのか?」
「許可なく立ち入れば、弓矢を射掛けられることもあるといいます。他種族との関わりは、中継となる町や村を通して行われることがほとんどですね」
ティーダがロナウドに答える。
「話で聞いていたのと同じだな。誇張されて伝わっていると思っていたが、そのままなのか?」
「私の知るかぎり、他種族に寛容という話はあまり聞きません。今回、里への立ち入りが許されたのは、勇者であるロナウド様がおられるからだと思われます」
「そうか。ならば、もたもたせずに命令を果たすのがいいだろう。皆の者、準備ができ次第、エルフの里へ向かう。その心づもりでいるように。ティーダ、今日の報告を始めよ」
「了解しました」
一つの場所に留まらずに次の町に向かうのは、魔物討伐の旅に慣れた勇者一行にとって当たり前のことだった。
目的地が決まってしまえば、準備にそれほど時間はかからない。
ロナウドはティーダに出発の準備をまかせると、ミレイとラナを夕食に誘った。命令書の内容について、二人に確認しておきたいことがあったのである。
☆☆☆
長テーブルの主人席にロナウドが座り、右手にミレイとラナが並んで座っている。
今夜のメインディッシュである鹿肉のローストを切り分けながら、ミレイは王城からの命令書について尋ねた。
「王城で、過去の勇者様の偉業について教えられたときにも思ったのですが、二百年前にあらわれた天魔王の記録が王国には少ないですよね。民の間でも魔人と呼ばれるばかりで、天魔王という言葉もあまり使われていない様子。それにはなにか理由があるのでしょうか?」
「私が聞いているのは、天魔王がもともと天空人だったという話だ。彼らが住む浮島『天』を追放された男が、魔王となってこの世界を破壊しようとした」
「ラナはその話を聞いたことがありましたか?」
「いえ、王城で学ぶまでは知りませんでした。ミレイ様がおっしゃるように、私が村にいたときには魔人と呼んでいましたね。一番最近の魔王なのに、なんだかその存在が隠されているみたいです」
「その辺りの事情も、エルフの里へ行けば分かりそうですわね」
有翼種族である天空人は、空に浮かぶ島に住み、他種族との関わりはエルフ以上に少ない。
自由に空を飛べる彼らを、神の使いや伝説上の存在のように崇めている者たちもいるようだ。
ロナウドは王城に特使としてあらわれた天空人を見たことがあった。
聖職者のような白い衣装を身に着けた使者とその従者たちには、確かに背中から白い翼が生えていた。
「ロナウド様、『試しの儀式』というのはどんなものなのでしょうか? 私、エルフの里にそんなものがあることすら知りませんでしたわ」
「私もだ。書状によると、すでにエルフの里長に話は通してあるようだから、そこに行ってみる他にできることはなさそうだ」
「はい! 私、『試しの儀式』について聞いたことがあります!」
ラナは片手を挙げて目を輝かせている。ロナウドとミレイは、その大げさな反応に驚いて顔を見合わせた。
「本当ですか? ラナ、どこで聞いたのです?」
「村の教会に置いてあった子供向けの絵本です。腐り神と戦った勇者トキカゼ様が、『試しの儀式』を受けて本当の強さを得るのです! 私はそのお話が大好きで、子供の頃はトキカゼ様が憧れの人でした。腐り神との戦いはですね、トキカゼ様が聖剣を――」
「はい、ラナ、その話は後で聞きますから、『試しの儀式』にもどりましょうね」
ラナは興奮して勇者トキカゼの冒険譚を語り始めたが、ミレイによってなだめられた。それで本題が『試しの儀式』であることを思い出したようだ。
「はい……。すいません」
「子供向けの絵本に書かれてあるとはな。私は知らなかった」
「ラナ、それはエルフの里にある『試しの儀式』だったのですか?」
「場所については……曖昧な記述でしたね。腐り神との一度目の対決に敗れたトキカゼ様が、長旅を経てたどり着いた場所で『試しの儀式』を行うといった描かれ方でした」
「内容についてはどうだ?」
「えーと、試練ではもう一人のトキカゼ様があらわれて、激しい戦いの末に自分自身に勝つといった内容でしたね」
「幻影を見せるのか? 『試しの儀式』を突破するヒントになるかもしれん。頭に入れておこう」
ロナウド、ミレイ、ラナの三人はうなずきあったのだった。




