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14. 最後の抵抗

「おい、あんた。俺たちがこのままだと死刑になると言ったな?」

「はい。言いました」

「盗賊は縛り首と相場が決まっている。変な嘘で騒ぎを起こすんじゃねぇ」

「ああ、バレましたか」

「へっ、どこまでもなめくさりやがって」

「あなたがドーラさんでしょうか?」

「そうだ。俺がスカルピン盗賊団の団長ドーラだ。煮るなり焼くなり好きにしな」


 ドーラは百八十センチを超える巨体を誇り、二の腕などエトウの太ももほどの太さがあった。

 人相書きには元C級冒険者と書いてある。

 エトウが魔法による遠距離攻撃を持っていなかったら、きっと苦戦していた相手だろう。


「ドーラさん、このままだと前領主代理に関連した罪に問われることになります。命令された訳でもないのに、一味と思われるかもしれませんよ。それはいいんですか?」

「ふん、いい訳ないわな。同じ死刑になるにせよ、貴族の腰巾着と思われたくはねぇ。それで、どんな奴隷を探してるって?」


 エトウは四人の女性奴隷の名前や特徴、襲撃された時期などを述べていった。


「ああ、覚えてる。確か奴隷はその四人だけだったはずだな?」

「ええ、俺もそう聞いています」

「おい、スケロク!」

「へい、お頭」

「おめぇ、その四人をどこかに売りにいくと言ってなかったか?」

「へい、言いました。でも、つき合いのある奴隷商人に売ろうとしたら、買ってもらえませんでした。どうやらきな臭いってんで、避けられたようです」

「それでどうしたんだ?」

「売り先がなくなっちまいましたからね。そのまま連れ歩いても仕方ねぇ。それでおいら思いついたんでさぁ。奴隷ならば、下働きとして教会に引き取ってもらえるんじゃねぇかと。無抵抗の女を殺しちまうのは寝覚めが悪いですから」


 教会は行き場のなくなった奴隷に仕事を与える事業を行っている。

 掃除や炊事などの仕事から始まり、やる気がある者には信者への対応なども教えていくようだ。

 貧しい暮らしだが、仕事をしていれば食事と寝床が与えられる。


「そういえばそんな話だったな。スケロク、そりゃ、どこの教会だ?」

「へぇ、女神教の大神殿でさぁ」

「なんだと、それは本当か!」


 ナルは声を荒らげた。その一言で、今まで聞かれたことになんでも答えていたスケロクの口が動かなくなる。


 ナルはちっと舌打ちすると、ドーラにもう一度確認してくれるように頼んだ。

 口が重いスケロクに対して、もし本当のことを言うならば、ドーラとスケロクが移動するときの食事を豪華にすると約束した。


「スケロク、話せ!」

「へい。おいらは女たちを大神殿に連れていき、そのまま置いてきやした。その後、女たちがどうなったかは知りませんが、神官が保護したと思いやす」

「確かなんだな?」

 ナルは感情を抑えながら訊き返した。

 スケロクはドーラがうなずくのを確認してから、ナルの目をじっと見つめた。

「確かです」


 ナルは勢いよく席を立つと、離れた場所にいた騎士のもとに行ってなにかを告げた。

 大神殿に四人の女性が保護されているかどうかを確認するつもりなのだろう。驚いた表情をした騎士はすぐに指示を出していた。


☆☆☆


 中州の下流側、小型船が陸に引き上げられていた場所に、両手足を縛られたスカルピン盗賊団が並べられていた。

 周囲は魔法の光で照らされ、待機していた騎士団が次々と盗賊を連行していく。


 木が生い茂った中州の中央付近には、いくつかの建物が作られていた。幹部数人には自分の家が与えられ、結婚して子供がいる者もいたようだ。


 下の者たちが共同で生活していた建物には、奴隷たちが下働きなどをやらされていた。

 その者たちも合わせると、この中州に六十人ほどの者が暮らしていたことになる。それはもはや小さな村のような規模だった。


 エトウたちは盗賊団を広く囲むような位置取りをして、不測の事態に備えていた。

 エトウはなんとなく団長ドーラの目が気になっていた。

 もはや処刑までの道筋から逃れることはできないだろうに、一瞬だけ見せたぎらついた目は、なにかの機会をうかがっているように見えたのだ。


 エトウは少し迷ったが、騎士団の責任者にドーラを連行するのは最後にしてほしいと願い出た。

 逃げるための策が用意されているならば、ここで出し尽くしてしまった方がいいと判断したのだ。


 騎士団が用意した小型船が中州と岸を何度も往復している。中州にいる人数も段々と減ってきた。

 いよいよ団長ドーラを連行するために、騎士の一人がドーラの縄に手を伸ばそうとしたとき、木々の間から白い巨体が飛び出して騎士に襲いかかった。


「エーベンタイガーだ!」


 エトウは初めて聞く名前だったが、騎士の右腕に食らいついているその魔物を排除しなければならない。

 ストレングスとヘイストのバフをかけて無造作に距離を詰めた。


 そのとき、すぐ横で縛られていたはずの団長ドーラが突然立ち上がったのである。そしてエトウの剣を奪おうと襲いかかった。


 不意をつかれたエトウは一歩下がってドーラに対応しようとしたが、距離が詰まりすぎていて、接近戦になることは避けられそうにない。


 巨漢のドーラが左手を犠牲にするように前に出して、エトウの腕をつかもうとしてきた。

 魔法付与していない剣では、ドーラの太い腕を断ち斬ることはできないだろう。途中で剣身は止まり、ドーラの右手で武器を奪われてしまうのが予想できた。


 そこでエトウは咄嗟に雷魔法のエンチャントを試みた。いつも行うような魔力操作によるエンチャントではなく、魔力量まかせの強引なエンチャントだった。


 エトウの体から大きな魔力が外にあふれ出す。

 ドーラはその圧力に気圧されたのか、一瞬だけ体の動きが止まった。

 そこに横合いから二筋の斬撃が通り抜けた。あまりに速い斬撃だったため、エトウはなんの反応もできなかった。


 エトウの目の前で動きを止めたドーラは、左手のひじから先を失っていた。そしてゆっくりと前方に倒れてくる。

 エトウが横に避けると、地面に音を立てて倒れ込んだ。

 その衝撃でドーラの頭が胴体から離れて地面に転がる。首からは大量の血が流れ出した。


「ラトナさん、助かりました」

「問題ない。それに私の手出しはいらなかったようだな」


 ラトナはそう言って、エトウが持っているミスリルソードを見つめた。そこにはまだ濃密な魔力がまとわりついている。

 ラトナは両手のククリナイフに血振りをくれて鞘にしまった。


 エーベンタイガーは周囲から駆けつけた騎士によって討伐されていた。

 盗賊に話を訊くと、そのエーベンタイガーは団長のドーラが飼い慣らしていたという。

 これがドーラの奥の手だったのかとエトウはため息をついた。

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