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10. 公開処刑

 前領主代理が南の砦で捕縛されてから約半年がたった。

 元上級裁判官のテレーロが自供して以降、他の容疑者の取り調べや裁判も迅速に進み始めた。


 ソラノが奴隷解放された後、誘拐被害にあった者たちも次々と奴隷から解放され、ステインボルト辺境伯の名のもとに被害者の名誉回復と賠償金の支払いが行われている。


 事件を主導していたリーゼンボルト前領主代理、テレーロ元上級裁判官、奴隷商人カブスと側近二名、誘拐の実行犯グドー一味は全員死刑に決まった。

 南の砦で人質の拷問や殺人に関わった貴族と私兵たちも同じ日に処刑される。


 彼らの起こした犯罪は影響があまりに大きいということで、公開処刑が行われることになった。

 非人道的という意見が多く、近年ではめずらしい処刑方法である。


 前領主代理の取り巻きたちは、貴族家の当主だった場合には爵位の返上と財産の没収。その家はお取り潰しとなった。

 貴族家の第一子つまり跡取りだった場合には、当人の廃嫡に加えて、家の爵位が一段下げられた。被害者への多額の賠償金も課されることになる。

 取り巻きが第二子以降ならば、廃嫡の後に平民への降下が命じられ、こちらも貴族家に賠償金の支払い義務が生じる。


 四月下旬、まだ肌寒さが残る曇り空の日、辺境伯の城門前にある広場で公開処刑が行われることになった。

 厳重に警備された馬車から、死刑囚が処刑場に連れ出されてくる。彼らは全員、厚手の布を重ね合わせただけのような灰色の服を着せられていた。

 奴隷商人のカブスは王都で処刑されることになったのでこの場にはいない。


 エトウは公開処刑を見に行くつもりはなかった。

 だが、誘拐被害にあった女性たちの半分以上が、自分たちの目で刑が執行されるところを見たいと言ったのだ。

 その中には南の砦で人質にされていた者が特に多かった。


 騎士団所属の医師にどうすべきか尋ねると、被害者に処刑を見せることで事件がやっと終わったと思える者もいるという話だった。

 ただ、衝撃が強すぎるようならば、途中からでも離れた場所に移動する態勢をとっておいた方がいいと注意も受けた。


 そこでエトウが頼ったのが、長年、教会の自助グループで活動しているルーリーだった。

 彼女を中心とした自助グループのメンバーは、エトウの支援活動が始まった当初から協力してくれた。

 今回は被害女性をいくつかのグループに分けて、ルーリーたちが必ず近くについているようにしてもらった。

 少し離れた場所には医師や薬師も待機している。


 被害女性の周囲には、騎士団所属のサリーナ担当官や護衛の女性騎士たち、被害女性ダイナの親友である双剣使いラトナの姿もあった。

 コハクやソラノも彼らと連携して護衛についている。

 エトウの隣にはアモー、サニー、フィリップ行政官が並び、処刑台の方を厳しい視線で見つめていた。


 死刑囚たちは木で作られた処刑台への階段を上がっていた。処刑場が見渡せる台の上にたどり着くと、横並びになってひざをつく。


 前領主代理のすぐ後ろには、頭全体を黒い布で覆い、右手に大きな鉈のような大剣を持った処刑人が立っていた。

 そこに真新しい白シャツを着た小男が近づいてくる。彼は前領主代理の罪状を高らかに読み上げると、最後に言いたいことはあるかと訊いた。


 前領主代理の口が少しだけ動いた。その言葉を小男は大衆に向けて発表する。


「死刑囚リーゼンボルトの最後の言葉は、『失敗した。ただそれだけだ』」


 途端に大きな罵り声があがった。

 被害女性のうち数人が、泣きながらなにかを叫んでいる。

 このままでは収拾がつかなくなりそうなところで、小男は処刑の執行を告げてその場から下がった。

 

 別の者が灰色の布を手に前へと出てくると、前領主代理の頭をすっぽりと覆うようにかぶせた。

 そしてそのすぐ後に、処刑人の大鉈によって彼の首と胴は永遠に離れることになった。


 それ以降は泣き叫ぶテレーロや下級貴族たちと、黙って処刑された上級貴族やグドーといった対比があっただけだ。

 エトウに足を斬り落とされたグドーは一人では歩くことができず、処刑台に上がるときには両腕を持たれて運ばれていた。

 そして木で作られた特別な台に体を固定されて、そのまま処刑人に首をはねられた。


 すべての処刑が終わった後、集まっていた人々は去っていき、被害者たちも騎士団から借り受けた馬車に乗ってもどっていった。

 閑散とした広場には、急ごしらえの不格好な処刑台が残されているだけだった。


「これでようやく終わったな。ソラノを不当に扱った者たちは、その報いを受けた」

 エトウの隣にやって来たサニーは言った。

「そうですね」

「エトウ、ずいぶん長いこと世話になってしまったな。明日、俺はエルフの里に帰る」

「ずいぶん急ですね。ソラノが寂しがりますよ」

「ふふ、お前たちがいれば妹は大丈夫だ。だが、エトウ、手は出すなよ」


 そう言ってサニーは笑った。

 その笑顔に気が抜けてしまったエトウは、この事件がやっと一段落したことを実感したのだった。


「今晩はおいしいものでも食べますか」

 エトウは気持ちを入れ替えるように言う。

「おお、いいな。では、俺が食材を買って帰るから、そのことをソラノに伝えてくれ」

「わかりました。それでは家で」

「ああ、後でな」


 夕飯は盛り上がって、明日の別れは多少湿っぽくなるのかなとエトウは思っていたが、まったくそうはならなかった。

 あまりに帰りが遅いサニーに業を煮やした里長が、三人の屈強なエルフを迎えに寄越したからである。


 すぐに連れて帰るという三人のエルフに、せっかくだから夕飯だけでも食べていってほしいとエトウは取りなした。

 そうでなければサニーは強引に連れ去られていただろう。


 迎えの三人にも夕飯を振る舞って、さすがに今晩はベールに泊まっていくのかと思えば、食休みもそこそこに今から出発するという。

 それがエルフのやり方だと言われれば、エトウにはどうすることもできなかった。


「妹を頼んだぞ!」


 サニーは三人の怪力に引きずられながら手を振っていた。感動の別れとならないところも、サニーらしいのかもしれない。

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