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8. エトウのエンチャント講座

「あのー、なんでタンゲさんとテオくんがいるんですか?」


 エトウがエンチャントのコツを教えると約束した日、拠点の庭にはアモーに加えて、その師匠であるタンゲと年若いアモーの兄弟子テオが待っていた。

 先程、一緒に昼食をとったコハク、ソラノ、サニーも、エトウの後についてきている。


「エトウさんのエンチャントはすごいとアモーから聞かされましてな。魔道具職人にとってエンチャント技術は秘中の秘。おいそれとは教えてもらえないものなんです。それだけエンチャントに長けた者が少ないのですな。基礎的なことだけでもエトウさんに教授してもらえれば、大いに助かるのですが、お願いできないでしょうか?」


 タンゲは真剣な顔つきでエトウに頼み込んだ。隣のテオも一緒に頭を下げる。


「エトウ、師匠たちにもエンチャントを教えることはできるか? 今日の午後から休みをもらってたんだが、エトウからエンチャントを教わると話したら、師匠が興味を持ったんだ。俺たちはエトウの補助魔法をいつも見てるからそれほど驚かないが、やっぱりすぐれたエンチャント使いは稀少らしい」


 エトウはアモーの言葉を聞いた後でタンゲに話しかけた。


「全然構いませんけど、そこまで特別な技術はありませんよ。結局は魔力制御をいかに正確に行うことができるかということなので、本人の素質と努力次第ですね。それでいいならば、どうぞ聞いていってください」

「そうか! それならば是非参加させてくれ。エトウさん、よろしく頼む」

「師匠ともども、よろしくお願いします」


 タンゲとテオが揃って頭を下げた。

 予想外の参加者を加えたエトウのエンチャント講座はこうして始まったのである。


「武器や防具などに魔法を付与するエンチャントの基本は、魔力を薄く伸ばすようにして対象を覆ってから、その上に属性魔法をまとわせることです。今からやってみるので見ていてください」


 エトウはそう言うと、腰にあったミスリルソードを抜いて剣先を上に向けた。


「まず剣を魔力で包むようにします」


 エトウの右手からミスリルソードに魔力が流れていき、それが薄く剣を覆うように広がっていく。


「ここで属性変化させた魔法を使います。今回は見た目が分かりやすいファイヤーにしますね」


 ミスリルソードの表面を炎が走っていく。あっという間に剣身を包み、そのまま燃え続けている。


「もう一度言いますが、これがエンチャントの基本です。魔力をまとわせて、その上から属性変化させた魔法を放つ。そして、それを維持すればこのように攻撃手段になる訳です」


 エトウが剣を上空に向かって振ると、剣身から炎の斬撃が飛び出し、はるか空の上で消えていった。


 エトウのエンチャントを見慣れていないタンゲ、テオ、サニーの三人は、終始「おー」という驚きの声をあげていたが、炎の斬撃が空高く上がっていくのを見て呆気にとられていた。


「なんという……ここまで完璧にエンチャントを制御できるものなのか? 俺はこんなもの、見たことがないぞ」

 タンゲが驚嘆の声をあげる。

「俺もここまでとは思わなかった。あのとき我らの矢に使ったエンチャントは、全力でもなんでもなかったんだな。これは是非とも覚えて帰りたい」

 サニーは興奮を隠せない様子だった。


「これができるようになるには、魔力を正確に操作しなければなりません。そこで僕が毎日行っている魔力操作の練習をみんなでやってみましょう。まず肩幅に足を開いて、楽な姿勢で立ってください。そしてへその下に意識を置いて、魔力を集めるようにします。焦る必要はありませんから、集中して行ってください」

「へその下だな。魔力を集める場所なんざ、あんまり考えたことがなかったな」


 タンゲも素直に従っている。

 普段、エンチャントを使っている職人なので、魔力操作も慣れているようだ。タンゲはそれほどの苦労もなく、魔力を体の中心に集めることに成功していた。

 テオは苦戦しているようだが、それでも魔力操作の基礎はあるようで、時間をかけて魔力を動かしていた。


 エトウのパーティーメンバーは、全員が毎日魔力操作の反復練習を行っている。魔力を動かす速さと正確さは、他の者たちよりも一段上だった。

 エトウが驚いたのは、サニーもすぐにそのレベルに追いついてきたことだ。魔力の扱いに関して、エルフには大きな才能が与えられているようだった。


「テオくんはそのまま時間をかけていいからね。集中して、へその下に魔力を集めるイメージだよ」

「はい、分かりました」

「他の人たちは、すでに魔力を集めることには問題ありませんね。次は、その魔力を体の隅々にまで行きわたらせてください。体中をめぐっている細い管に魔力を流すイメージです。頭の先から手足の指先まで、体がぽかぽかと温かくなるくらい、魔力を十分に流しましょう。そして流した魔力はまたへその下にもどってきます。やってみてください」


 それから三十分ほど、魔力を体内で循環させる訓練を続けた。

 タンゲとテオくんはかなり疲れているようだったので、飲み物を与えて休ませた。

 まだ余裕がありそうだったサニーには、パーティーメンバーとともにそのまま魔力循環を続けさせている。


「エンチャントは、今のその状態から魔力を放出し、魔法を使います。右手でエンチャントを行うからといって、右手だけに魔力を集中するようなことはしません。あくまで体全体の大きな流れの中から、魔力を流し出すようなイメージです。結局、その方が大きな魔力を扱うことができますし、制御もしやすいんです。意識せずにそれができるようになるといいですね」

「なるほど。そういった発想はなかったな。エトウは誰にそれを教わったんだ?」

 サニーが訊いた。

「魔法士団の幹部の方に魔法を教わる機会がありまして、基礎を教えてもらいました。あとは自分がやりやすい方法を探していった感じです。ですから、みなさんも基礎を大事にしながら、自分に合ったやり方を見つけていってくださいね」


 その後、休憩をはさんで、魔力を属性に変化させる訓練が始まった。


「タンゲさん、魔道具製作で使われているエンチャントは、属性変化させた魔力を魔道具の部品に定着させるという認識で大丈夫ですか?」

「ええ、それで合っています」

「それではタンゲさんには当たり前のことになりますが、属性変化における注意点を話しておきましょう」


 エトウは庭の板塀に立てかけてあったもう一本の剣を持ってきた。鞘から抜き放つと、先程のものとよく似たミスリルソードだった。


「これは僕が前に使っていたミスリルソードです。雷魔法のエンチャントを長時間行ったせいで、それ以外の属性変化を受けつけにくくなっています」


 エトウはファイヤーをエンチャントしてみせた。


「先程とまったく同じ魔力量を使ってファイヤーを付与しました。結果はこのとおり。ファイヤーの威力が弱くなっているのが見ただけで分かります」


 エトウが空に向けて剣を振ると炎の斬撃が飛び出したが、先程よりも低い位置で消えてしまった。


「武具などにエンチャントする場合には、このようなことが起こりやすいので注意してください。その反対に、付与する属性魔法があらかじめ決まっているならば、何度もエンチャントしておくことで効果が出やすくなります」

「それはいいことを聞いた」


 サニーが声をあげた。

 あらかじめエルフの矢に貫通力を高める風魔法を付与しておけば、いざというときに必殺の武器となるだろう。


「それでは、これから魔力を属性変化させる練習をしていきます。最初に使うのはこれです」


 エトウは懐から金属片を取り出した。その金属片は光沢のある黒色で、エトウの手の平ほどの大きさである。


「それは、もしかして……」

 タンゲはエトウの持つ金属片から目を離さない。

「タンゲさんは、一目でこれがなにか分かったんですね?」

「やはりそうなのか! この辺りではほとんどお目にかかれない代物だ」

「親方、あれはなんですか?」

 テオ少年が訊いた。

「お前は初めて見るのだったな。あれは神の鉱石といわれる稀少金属、オリハルコンの欠片だ」

 タンゲはエトウの手元を見つめたままテオの問いに答えた。

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