14. 大金の使い道
その日、エトウはグランドマスターの呼び出しを受けてギルドの一室に案内された。
部屋にはグランドマスターとギルドマスターが待っており、王城と教会からお金が振り込まれたことと、国王陛下による宣言書が届けられたことがエトウに告げられた。
「それでエトウくん。これは大変聞きにくい質問なのだが、君は勇者パーティーにもどるつもりはあるかい?」
お金や宣言書などの確認が終わった後、グランドマスターはエトウに尋ねた。
いつも豪快な印象があるグランドマスターだが、めずらしく苦々しい表情を浮かべている。
「これは一応訊くことになっているんだ。王城や教会の上層部としても、エトウくんが王都にもどって来てからの活躍は耳に入っている。女神様が選定した賢者であり、有能な補助魔法使いであるエトウくんを手放すのが惜しくなったのだろう。今さら過ぎて阿呆らしいと俺でも思う。それで、エトウくん、どうなんだ?」
「自分は勇者パーティーを役立たずだと追い出された人間です。私は彼らを信頼することができません。パーティー内で連携をとるにしても、長い期間旅を続けるにしても、それはパーティーに致命的な亀裂を生む可能性が高いです」
「そうだな。あいつらはパーティーというものがどんなものか、まるで分かっていないんだ!」
グランドマスターはそう言って頭をガシガシとかいた。かつては冒険者として名を馳せた彼には思うところがあったのかもしれない。
「私はこれから一人の冒険者として自分の人生を生きていきたいです。補助魔法の価値を証明するという目標もできました。勇者パーティーに再び加わることは考えられません」
エトウはグランドマスターの目をしっかりと見つめながら答えた。
「そうか、分かった」
グランドマスターはそれだけ言うと、これでギルドでの確認はすべて終わったとエトウに告げたのだった。
☆☆☆
会合の後、エトウはギルド内の食堂兼酒場に腰を落ち着けた。
ギルド内は冒険者たちが依頼書を奪い合う朝の喧噪が過ぎて閑散としていた。
「おっちゃん! 炭酸水と軽くつまめるものちょうだい」
エトウは店主に声をかける。
「おう! つまみはナッツでいいか? それともがっつり肉でも焼くか?」
熊のような大きな体格をした店主が、腰をかがめて厨房から顔をのぞかせた。
「ああ、ナッツでいいや。頼むね」
エトウが王都にもどってから三ヶ月が過ぎていた。
季節は夏から秋に変わろうとしている。窓際の日差しは透明感が増したようで、室内の気温も汗ばむほどではない。
ほんの数日前までは、体温調節の衣類を持っていないエトウには耐えられないほどの猛暑日が何日も続いていたのだ。
ワイバーン討伐の報酬と素材を売却したお金を得たエトウは、王都にやって来たときから借りていた安宿から、冒険者ギルドに近く、生活必需品などの買物にも便利な地域に引っ越した。
宿暮らしは変わりないが、路上を歩くとすえたような臭いのする貧民街から、一般市民が暮らす住宅街に引っ越せたことは一つの区切りのように感じていた。
このまま冒険者としての仕事を頑張っていけば、自分は十分に生きていけるという実感があった。
今日、ギルドの口座に振り込まれたお金があれば数年間は食べていけるだろう。これまでエトウが持ったことのないほどの大金である。このお金をどう使えばよいのかエトウは考えていた。
「はい、お待ち! 呼び出しを受けたみたいだが、お前なんかやらかしたのか?」
店主は気安く話しかけた。
ワイバーン討伐の際には飲めや歌えの大騒ぎだった。そのときに店主にはしっかりと顔を覚えられ、それ以降は気安く話をするようになっていた。
「いや、頼んでいたことがすべて片付いたんだ。これでなんの心配もなく、依頼を受けられそうだ」
「そうか。そりゃ、よかったな!」
店主は顔をくしゃっとして笑うと厨房にもどっていった。
エトウはナッツをかじり、レモンを搾った炭酸水で喉を潤しながら、大金の使い道について優先順位をつけていくのだった。




