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5. 遠方からの訪問者

「なるほどね。コハクの弟子入り志願は断られたと」


 夕食後にリビングでくつろいでいたエトウは、数日前に湿原で出会った女性冒険者の話をソラノから聞いていた。

 なぜその日の夜に話してくれなかったのかを尋ねると、コハクに口止めされていたらしい。


「しかしククリナイフの二刀流ね。聞いたことないな。戦闘スタイルの似ているコハクから見てもそんなにすごかったんだ」

「すごいなんてもんじゃなかった。踊ってるみたいに戦うんだよ。攻撃と回避と牽制と防御、とにかく全部がつながってるし、同時にやってるの!」

「ほー、それは達人クラスじゃないか?」

「達人というか、とびぬけた才能を実戦で鍛えた感じ」

 ソラノが言う。

「ソラノがそこまで言うのはめずらしいな」

 頭にルーペを装着して魔道具をいじっていたアモーが顔を上げる。


 滑り止めの手袋がはめられたアモーの両手には、異なる形のピンセット二本が握られていた。

 こちらも二刀流かとエトウは思いながら、その女性冒険者に話をもどす。


「それで、そのラトナさんが五号棟にあらわれたんだって?」


 エトウやサリーナたちは騎士団施設の五号棟で症状が重い被害者を保護している。

 そこにククリナイフを二刀流で使う凄腕冒険者のラトナがあらわれたのだ。ラトナは五号棟に入院している被害女性ダイナの家族とともにやって来た。


 ラトナとダイナは長いこと文通をしていた親友だった。二人が出会うきっかけは、旅先で魔物に襲われていたダイナ一家をラトナが助けたことだったという。


 手紙のやり取りは距離が離れれば高くつくが、ダイナはベールの裕福な商人の一人娘、ラトナは稼ぎのいいB級冒険者だった。

 二人は偶然にも草木染めをする趣味があった。天然の植物から染料を採取し、衣類や生活雑貨などを染めてお互いに送り合っていたようだ。


 ダイナからの手紙が途絶えたことをラトナが心配していると、ダイナの母親から娘が行方不明になったことを知らせる返信が届いた。

 その後、ダイナが誘拐事件に巻き込まれたことや、犯人たちの拠点から救出されて騎士団施設で保護されていることなども手紙で知らされた。


 それで心配になったラトナは護衛依頼を受けながら、ベールの町までやって来たのだ。

 ベールに到着してすぐに滞在費を稼ぐためにギルドの仕事を受けたところ、コハクたちと出会うことになった。


「ラトナさんはダイナさんよりも少し年上みたい。ラトナさんは両親が亡くなっていて、一人暮らしなんだって。でも、冒険者の仕事があるから、家にいるのは一年の半分もないって言ってた」

 コハクはラトナ本人から聞いた話を伝えた。

「ダイナはラトナを見ると抱きしめて泣き始めた。感情があふれ出しているみたいだった。それにつられてラトナも泣き始めて大変だった」

 ソラノは二人の再会の場面を語る。


「ラトナさんはダイナさんの家族にも信頼されているんだな」

「うん。ラトナさんに魔物の襲撃から助けられたのはダイナさんだけじゃなくて、そのご両親と妹さんも一緒だったみたい。だからラトナさんは、ダイナさん家族の命の恩人になるんだよね。それとダイナさんはあんまり社交的な人じゃないから、文通相手のラトナさんのことを本当に大切に思ってたんだって。それをご両親も知ってたからだろうね」

「それはおそらくラトナも同じ。冒険者はどこでも仕事ができる。でも、友人が心配だからといって、遠くからわざわざ訪ねてくるような人は少ない。ラトナもダイナを大切に思ってる」

「なるほどなぁ。これでダイナさんが少しでも回復してくれればいいな」


 コハクとソラノの話にエトウは相槌を打った。


「それがねぇ、なんだか面白いことになってるのよ」

「面白いこと?」

「うん。ダイナさんとラトナさんが落ち着いた後、五号棟にいるみんなでお茶にしたの。それで私がラトナさんの戦う姿がいかにきれいだったかを説明したんだよね。私の弟子入り志願が断られたことも。そしたらダイナさんが、そんなにきれいな戦い方なら私も習いたいなってボソッと言ったの。それで他のお姉さんたちも習いたいって言い始めて、最終的にラトナさんに剣術を教わることになったんだ」


 コハクの言ったことにエトウは驚かされた。


「ええ。俺のところにそんな報告上がってきてないぞ」

「その話が出たのは今日の夕方。許可もとってない」

 ソラノが説明する。

「そうか。でも刃物とか女性たちに見せて大丈夫か? それに短剣をそこそこ使えるようになったとして、まさか……復讐なんて考えないよな」

「うーん、そういうのじゃないと思う。戦闘技術を身につけてなにかしたいというよりも、自分に自信を持ちたいんじゃないかな。それに刃物なんて使うわけないでしょ。騎士団から模擬剣を借りるつもり」


 コハクは犠牲者の女性たちと長い時間を過ごして相談にも乗っている。そのコハクの言うことは、彼女たちの気持ちをとらえているのではないかとエトウは思った。


「自分に自信か」

「うん。いざというときに自分は戦えると思えるのは大きい。その気持ち一つで強くなれる」ソラノもコハクの意見に同意する。

「そうか。じゃあ、サリーナさんと話し合ってからだけど、戦闘訓練は前向きに検討します。その場合にはラトナさんに指名依頼を出せばいいな。でもコハクは本気になりすぎないように!」


 コハクがこの機会を使って、ラトナから剣を学ぼうとしているのは分かっていた。その期待感はコハクの表情をゆるめていたのだ。


「分かってるわよ!」


 コハクは無理に厳しい顔を作ろうとしていたが、口元のゆるみは消えていなかった。

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