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4. ククリの舞い

 ソラノを先頭に剣士ボーガン、弓士カキン、コハクの順番でぬかるんだ土を踏んでいく。

 地面にはボートマンが起こした波の跡が続いていた。この跡を追っていけば、ラースのもとにたどり着けるはずだ。


 ソラノは先程から魔物の姿が見えないことに違和感を覚えていた。

 進めば進むほど地面のぬかるみがひどくなる。

 一旦足を止めて周囲の様子を探ろうかと考えたとき、前方に泥の壁に捕らわれたラースの姿が見えた。


「ラース!」


 ボーガンは叫び声をあげて、ソラノの前に出ようとする。


「こういうときこそ慎重に。仲間を助けたいのであれば冷静になって」


 ソラノは腕でボーガンを押さえながら早口で言った。

 ボーガンは歯を食いしばってうなずく。


 ソラノは弓に矢をつがえていつでも打てるように準備した。

 ボーガン、カキン、コハクは、背中を預けながら周囲の様子を探る。そのままの陣形で一歩一歩ラースのところへと近づいていった。


 ラースが捕らわれている泥の壁のすぐ近くで、地面からゴポッゴポッと空気がもれているのにソラノは気がついた。

 その地点に注意を向けていると、地面からブヨブヨした水の固まりが浮かび上がってきて人型を取ろうとする。


 ソラノはすかさず速射で人型の頭付近を射抜く。

 水の固まりは形を作ることができずにそのままくずれさり、ラースを覆っていた泥の壁も溶けるようにくずれていった。


 ボーガンはソラノを見て、ラースのもとに行っていいかと目で尋ねた。ソラノがうなずくと、カキンとともに駆け出していく。


「ラース! 大丈夫? ケガは?」

 カキンがラースの肩を持って声をかけた。

「ああ、カキン、ボーガン。ケガは……ないみたいだ。少し気を失ってた」

「ばかやろう! 心配したんだぞ」

 そう叫んだボーガンは涙をふいて、ラースの体にこびりついた泥を落としにかかった。


「あなたたち、ちょっといい? この場所は嫌な感じがする。すぐに離れるから準備して」


 いくらソラノといえども三人の雰囲気をこわしたいとは思わなかったが、どうにも嫌な感じがする。できるだけ早くこの場所を離れた方がいいと判断した。


 ボーガンがラースを背負ったのを確認してから、ソラノはやって来た道へ一歩踏み出した。

 そのとき、一行を囲むように無数の泥の手が地面の下からあらわれた。


「マッドハンド。この数は……ここはマッドハンドの巣だ!」


 ソラノが叫び声をあげる。

 マッドハンドはランクEの魔物であるが、十匹以上だとランクD、二十匹以上だとランクCになる。

 土魔法を巧みに使って連携した攻撃をしてくるため、実力のある冒険者でも単独でマッドハンドの群れを相手にするのは避けるのだ。


 ソラノたちを囲んだマッドハンドは、体から魔力の光を放つと、全方向から泥の波を放ってきた。

 ソラノは咄嗟に二本の矢を速射で放つ。風魔法が付与された矢は、泥の波の一角をかき消した。


「あそこから逃げる。コハク、先に行って!」

「分かった!」


 ソラノに先頭をまかされたコハクは、泥の波が欠けている方向へと走り出す。

 後ろからソラノの矢が飛んできて、目の前で道をふさいでいたマッドハンド数匹を吹き飛ばした。


「そのまま止まらずに駆け抜けて!」


 ソラノが叫ぶ。

 コハクは両脇から寄ってきたマッドハンドを斬り捨てると、速度を落とさずに敵の囲いを突破した。

 後ろからは、ラースを背負ったボーガンとカキンがしっかりとついてきている。

 ソラノも泥の波に穴を空けながら、もうすぐ包囲網を抜け出せる位置にいた。


「このまま安全な場所まで止まらずに進みます。ついてきてください」

 コハクはボーガンたちに言った。

「おう、わかった!」


 ボーガンの体力にはまだ余裕がありそうだ。

 これなら大丈夫だと前を向いたコハクは、自分のすぐ近くをなにかがすれ違ったことに気づいた。


「え? 今の?」


 速度をゆるめたコハクは、ボーガンたちを先に行かせて後ろを振り返る。

 コハクのすぐ近くまで来ていたソラノも後ろを見ていた。

 その先には、マッドハンドの群れを蹂躙する女性冒険者の姿があった。


 その冒険者は黒い短髪と褐色の肌を持ち、鮮やかなえんじ色のマントを羽織っていた。両手には、剣身の半ばほどが内側に折れ曲がった奇妙な短剣を持っている。

 その二振りの短剣を自在に操り、回転運動をしながら有効範囲に入った敵を殲滅していた。

 コハクは故郷の村で見た巫女の舞いのようだと思った。


「ククリナイフ」

 ソラノがつぶやいた。

「ククリナイフ? あの女の人が使っている短剣のこと?」

 コハクはソラノに近づきながら話しかけた。


 女性冒険者が大暴れをしているせいで、すべてのマッドハンドが引きつけられていた。コハクたちの周りはすでに安全圏になっている。


「うん。山岳地方の部族が使うと聞いた。でも二刀流なのかは知らない」


 数匹のマッドハンドが連携して泥の波を放つ。

 その冒険者は反対側の敵を倒していたため反応が遅れた。

 危ないとコハクが声を出そうとしたとき、冒険者の姿が視界から消えた。そして次の瞬間には、少し離れた場所で片っ端からマッドハンドを斬り捨てていた。


「かなり速い。フェイントも混ぜているから消えたように見える。すごい技術」


 ソラノがうなる。

 コハクは夢中になってその動きを目で追っていた。

 自分と同じ二刀流。しかしその技の冴えは自分と比べものにならない。


 その冒険者は風魔法を使って速度と跳躍力を上げているようだった。

 着地のときにも巧みに風魔法を使っている。泥の波を跳び越えた後、足が泥に沈み込んでいなかった。

 ぬかるんだ地面の上でも次の動きがまったく阻害されないため、舞うように敵を屠ることができるのだ。

 辺りにいたマッドハンドは、彼女一人の手によって全滅した。


「あ、あの、私を弟子にしてください」

 マッドハンドの蹂躙を終えた女性冒険者に、コハクは突撃していた。

「うん? いや、断る」

「どうしてですか? 指導料がいるならば払います! よろしくお願いします!」

「いや、私は君のことを知らないし、それにこちらにも都合がある。弟子にとることはできない。すまんな」


 そう言った女性冒険者は、拾い集めたマッドハンドの魔石を背負い袋につめると、足早にその場を立ち去った。

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