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14. 記憶との折り合い

「ちょうどあの頃は、ロナウド様がお母様を亡くされて、間もない時期でしたね」

「知っていたのか」

「ええ、ロナウド様はいつもどこか寂しそうでした」

「そうだったか? 自分ではいつもどおりに振る舞っているつもりだったのだが」


 ロナウドとラナは、砦の地下にある訓練場に行くために階段を降りていた。

 来賓と貴族用の階段のため、一般の兵士の立ち入りは許されていない。早朝から仕事をさぼるような者でなければ、足を踏み入れることはないだろう。

 二人は王城での訓練が終わり魔物討伐の旅に出かける頃のことを話していた。


「……王城の訓練場に、鳥が巣を作っていたのを覚えていますか?」

「うん? ああ、覚えているが」

「あの頃、ロナウド様が、巣から落ちて死んでしまったひな鳥を土に埋めているのを見たことがあります。手が汚れるのもいとわずに。最後にはお花を供えて祈っていました」

「お前は、それを見ていたのか?」

「はい。貴族様でもそんなことされるんだなと思いまして。それに、ちょっと声をかけづらい雰囲気でした」

「そうだったか」

「その後も、しばらくの間、お花が供えられていました。ロナウド様がされたんですよね?」

「そうだろうな」

「……私が勝手に想像していただけですが、ロナウド様はそのひな鳥のお墓に祈ることで、お母様のことを考えていらっしゃるのではないかと思っていました」

「……」

「すいません、おかしなことを言ってしまって」


 ロナウドはひな鳥の墓のことを覚えていた。

 だが、亡くなった母を思い出していたのかは分からない。

 死んでいた動物を土に埋めて墓を作るというのは、自分にとってめずらしい行為だったのは間違いないのだが。


「いや、そうかもしれない。気持ちが弱くなっていたのだな」

「私は優しいお方なのだと思いましたよ」

「そうか」


 ロナウドがひな鳥の墓に祈りを捧げている背中を、ラナは今でも覚えている。

 それは気まぐれで行っているとはとても思えないほど真摯な祈りの姿だった。


 ラナは女神に頭を垂れる勇者という代表的な宗教画を思い出した。ロナウドの姿がその絵と重なって見えたのだ。

 そして、剣聖に選ばれた自分がお助けするのはこの方なのだと強く思った。


「エトウのことで悪かったのは、ロナウド様だけではありません。私も自分でしっかりと考えることをせずに、流れに身をまかせていました。エトウがパーティーを離脱した後、私が学んだのは、そんな自分ではだめなのだということです。このパーティーが間違った方向に進んでいるのが分かれば、自分の考えを言葉できちんと伝えなければならないと思いました」

「そうか」

「砦の攻略戦では、ロナウド様やミレイ様に失礼なことも申し上げました」

「いや、そのおかげで、私はエトウの話を聞いてみることにしたのだ。そうでなければ、いつまでも拗ねて難癖をつけていただろう」

「ふふふ、やっぱりロナウド様は変わられましたよ。一体なにがあったんですか?」

「……昔のことを思い出してな。そうした記憶と折り合いをつけるには、どうすればいいのかを考えているのだ」


 訓練場ではラナや騎士たちと模擬戦などを行って汗を流した。

 体に残っていた酒とともに、胸の奥にわだかまっていた感情も幾分すっきりした。


☆☆☆


「勇者様、勇者様ってばぁー、起きてよー」

「またお前か、カンナバーロ。今度はどんな悪夢を見せるつもりだ?」

「悪夢なんてひどいなぁ。結局は勇者様の自業自得なんだけどな」

「……」

「まぁ、いいや。とりあえず勇者様には移動してもらいます。それっ!」


 暗闇の中でカンナバーロが掛け声をかけると、ロナウドの体がベッドから浮き上がった。


「おい! なにをする!」

「まぁ、まぁ、落ち着いて。ちょっと見てもらいたいものがあるだけだよ」


 ロナウドがいくら叫んでも、体は操られたまま、まったく自由がきかなかった。

 体が地上に降ろされると、ちょうど後ろに肘掛けイスが用意されていた。腰を下ろすと適度に沈みこむ。上質な皮の手触りだった。


「ほぉ、なかなかいいイスだな」

「そうでしょう。勇者様に出し物を用意したから、しばらくの間楽しんでよ」


 カンナバーロが例のごとくパチリと指を鳴らすと、幕が取り払われたように部屋が明るくなった。

 ロナウドの目の前には、さまざまな楽器を持った人形たちが並んでいる。


「演奏、始め!」

「おい、カンナバーロ」

「しー。静かに聴いて」


 静寂の中でドラムスの音が響いてきた。その独特のリズムは振動となり、ロナウドの足元から腹の辺りを揺らす。


 そのリズムに合わせるように、トロンボーン、トランペット、サックスが音色を重ねていく。その軽快な音楽はロナウドの体を自然に動かし始めた。


 イスの肘掛けにチョコンと座っていたカンナバーロが手拍子を始める。なるほど、この音楽には手拍子が似合う。


「カンナバーロ、おかしな編成のオーケストラだな」

「違うよ、ビッグバンドだよ! もっと刺激的で自由な音楽さ!」


 カンナバーロが声をあげると、どこからともなく男女の人形があらわれ、音楽に合わせて踊り始める。

 体全体を使った激しい踊りがあり、女性が男性に抱きついたかと思えば、縦や横にくるりと一回転して着地した。そしてそのまま踊り続けるのである。

 いつの間にかロナウドも手拍子を始め、三十分ぐらいの演奏と踊りを存分に楽しむことができた。


「勇者様、楽しんでもらえたようでよかったよ。僕はちょっと用事があってね。残念だけど、しばらく勇者様とは会えなくなりそうなんだ。用事が済んだら、また遊びに来るからね。バイバイ」


 カンナバーロは自分の用件だけ言うと、ロナウドが止めるのも聞かずに立ち去ってしまった。

 自室で目覚めたロナウドは、「なんなのだ、あいつは!」と声を荒らげた。

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