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11. 強さへの誇り

 大蜘蛛の女王を討伐した後は、素材の剥ぎ取りや死体の処理、周辺の環境調査を行った。

 逃げた大蜘蛛は数匹確認されただけで、群れのほとんどは東側の丘と中央の岩場で討伐できたようだ。


 南の砦にもどった勇者一行は熱烈な歓迎を受けた。

 砦にもどってきていた騎士や兵士からロナウドたちの戦いぶりが伝わり、大蜘蛛の脅威が取り除かれたこともあって、どこに行っても浴びるほどの賛辞を送られたのだ。


 特にロナウドは、貴族位を持つ者たちから毎晩のように夕食の招待を受けていた。

 久しぶりにカンナバーロの夢空間に引き込まれたときには、寝る前に飲んだ酒が残っていた。

 ロナウドはカンナバーロへの最低限の警戒もなく、大蜘蛛退治の自慢話を始めたのだ。


「私にかかれば、大蜘蛛など問題ではない!」

「お酒に酔って調子に乗ってるみたいだね。それとも人のおべっかや追従に酔っているのかな?」

「なんだと!」


 安い挑発にロナウドは簡単に乗ってきた。

 その態度にカンナバーロはがっかりしたようにため息をつく。

 そしてパチリと指を鳴らすと、空中に長方形の板があらわれた。


「この前は映動機みたいなものって言ったけど、実はこんなこともできるんだ」


 板には高ぶった感情のままに、エトウに向けて聖剣を振るうロナウドの姿が映っていた。

 聖剣から飛び出した波動は、エトウが放った炎の斬撃によって完全に防がれる。

 ロナウドは目を見開いてその映像を見ていた。それは王城でエトウと模擬戦をしたときのものだった。


「これは観客席にいたミレイさんの記憶。僕は人間の記憶を取り出して、こんなふうに人に見せることができるんだよ」


 確かにあのときミレイは二階の観客席にいた。

 そして、カンナバーロが見せている映像は、一段高い場所から見下ろしている視点だった。


「ここは激しく揺れているね。勇者様が聖剣を握ろうとしたとき、ミレイさんは観客席から訓練場に降りて、それを止めようとしたみたいだね」


 視線は一旦訓練場から離れ、階段を駆け下りるものに変わった。

 その揺れがミレイの心をあらわしているようで、ロナウドは酔いが一気に冷めるのを感じた。


「これはラナさんの記憶。勇者様が聖剣から斬撃を飛ばしたとき、ラナさんは叫んでいるみたいだね。エトウさんとは幼馴染なんでしょ? その人を殺そうとするなんて、勇者様は一体なにを考えていたの?」


 模擬戦の途中に訓練場に入ってきたラナはエトウを注視していた。

 そして、ロナウドが斬撃を飛ばしたときには、手すりぎりぎりまで駆け寄って視界が揺れている。

 カンナバーロが言うように、なにかを叫んでいるようだった。


「そして、これがその後、勇者様が荒れていたときだね」


 それは国王から厳重注意を受けて、侯爵家の別邸に軟禁されていた頃のものだった。

 朝から酒を飲み、ひげや髪の手入れもせず、なにか気に入らないことがあれば執事や侍女に当たり散らす。

 鏡やガラス窓に映っているのは、あまりにも情けない自分自身の姿だった。


「なぜこんなものを見せる……」

「僕は人間を知りたいって言ったでしょ? その本質を見極めたいって」

「そんなことのために――」

「僕にとっては大事なことなんだ。この世界の価値と同じくらいに」

「……」

「勇者様だって大事なものがあったんじゃないの? だから、エトウさんに聖剣を向けたんでしょ?」

「私にとって大事なもの……」

「そう。例えば、強さへの誇りとか」


 カンナバーロがパチンと指を鳴らすと、今度は家族の集合写真があらわれた。


「勇者様の家族の写真でしょ? ほら、ここに勇者様がいる」


 そういってカンナバーロは、まだ五、六歳ぐらいのロナウドを指差した。


「キリングワース侯爵、つまり勇者様のお父様がこの人。そして、こっちが勇者様のお母様である第一夫人レイラさんだね」

「止めろ……」


 ロナウドの制止などまったく意に介さず、カンナバーロはパチンと指を鳴らして次の場面に切り替えた。

 板いっぱいに母が映っている。母の顔を下から見上げているのは、子供だった頃のロナウドの視点だった。


「ロナウド、強くなりなさい。お父様が誇りに思えるくらい、あなたは騎士として強くなるのです」

「分かりました、お母様」

「偉いわね」


 頭を撫でる母の手。ロナウドは優しく微笑む母の顔を見つめていた。


 パチン。

 カンナバーロがまた指を鳴らした。

 再びロナウドの母親であるレイラが映っているが、その顔は先程とは別人なくらいに険しい。頬も少しこけて、眉間のしわも目立つ。


「ロナウド! どうしてできないの! ラード様はロナウドならばできるとおっしゃってるわ。さぁ、その剣を振るのです!」


 ロナウドは体に合わない大きさの鉄の剣を持っていた。

 木剣ならまだしも、重量のある鉄の剣を、小さい体のロナウドが振れるとは思えなかった。

 ロナウドの手の平は、豆がつぶれて血が出ている。


「さぁ、ロナウド! その剣を振るのです! そうすればお父様はきっと褒めてくださいます」

「はい! お母様」


 ロナウドは鉄の剣を振りかぶると、体全体で上段から振り下ろした。そして両足を踏ん張って、強引に剣先を止める。

 それを何度も何度も繰り返した。


「そうです! ロナウド、それでいいのです!」


 母はまばたきもせずにロナウドを見つめている。

 その傍らでは、剣術指導を受け持つラードが貼り付けたような笑顔を向けていた。

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