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6. 道化師の目的

「勇者様、ねぇ、勇者様ったらぁー、僕が会いに来たよ。ねぇ、起きてよぉ」

「やはりまた会えたな、カンナバーロ」


 ロナウドはベッドに仰向けで寝たまま、目だけを動かして声の出どころを見た。

 パチンと指を鳴らす音が響くと、途端に部屋が明るくなる。

 カンナバーロは、ロナウドの腹の上辺りにプカプカと浮いていた。


「あれれ? 反応が激悪だなぁ。僕、自信なくしちゃうよ」

「……そう何度も、驚いていられるか。お前には聞きたいことが山程あるのだ。今回は質問に答えてもらうぞ」


 ロナウドは起き上がるとベッドのへりに座った。

 カンナバーロもその隣に腰を落ち着ける。仮面はつけていない。左目の下には涙が一滴描かれていた。この化粧は変わらないようだ。


「勇者様が聞きたいことって?」

「それは決まっているだろ。お前が何者で、どんな目的があって私に近づいたのかだ」

「えー、種明かしをする手品師はいないよー」

「そもそもこの空間はなんなのだ。これは私の夢なのか?」

「うーん、それくらいは答えてあげてもいいかな。そうだよ。ここは勇者様の夢の中。そこに僕はお邪魔させてもらっているのさ」


 ロナウドは自分の太ももをつねった。次に頬をつねり、パンパンと両手で頬を叩いた。


「だめだめ! そんなことでは目が覚めないよ。この夢の世界は、僕が管理しているんだから」

「お前が管理だと? これは私の夢と言ったではないか」

「そうだよ。僕には他人の夢の世界を管理できる能力があるんだよ」

「なんともはた迷惑な能力だな……」

「悪用してないんだからいいでしょ? こうやって気になる人の夢に入って、話をしたり、一緒に遊んだりするだけだよ」

「……それがお前の目的なのか?」

「普段はね! でも、勇者様に関しては、ちょっと違うかなぁ」

「どう違うんだ?」

「僕はね、人形として人間を知りたいんだよ。エルフ族やドワーフ族なんかも含めた、広い意味での人間ね」

「知ってどうする?」

「その本質を見極める?」

「本質だと? そんなことをして、どうなるというのだ?」

「僕にはとっても大事なことなんだけどね。今はまだ秘密かな」


 ロナウドがなにを訊いても、大事なところは答えてくれないようだった。ここが自分の夢の中という話も疑っておいた方がいい。


「つまり、私はここから出られず、お前の相手をしなければならないということだな」

「さすが勇者様! 話が早い!」


 突然、空中におもちゃの太鼓とトランペットがあらわれ、ひとりでに演奏を始めた。プップップー、ドンドンドンと、騒がしいだけの演奏はすぐに止まり楽器も消えた。


「なんだ今のは?」

「効果音ってやつ。なかなか凝ってるでしょ?」


 ロナウドはこの人形といるとき、どうにも調子を狂わされてしまうと思っていた。

 カンナバーロから悪意がまったく感じられないのもその原因である。


 敵として戦うとなれば、おそらくは生死を懸けなければならないだろう。

 この人形に意思があろうが、操縦者が別にいようが、そんなことは関係ない。仮面をつけたカンナバーロはそれほどの脅威なのだ。

 ロナウドは目の端で聖剣の位置を確かめた。


「今日はね、勇者様が気になっているものを見せてあげようと思ってるんだ」


 ロナウドはハッとして聖剣から目を背けた。こちらの警戒心を相手に気づかせるのは得策ではない。

 だが、カンナバーロはロナウドの心中など察した様子もなく、足の先をブラブラと揺らしていた。


「気になっているもの……大蜘蛛の情報か?」

「ち・が・い・ま・す。そんなどうでもいいことじゃないよ!」

「どうでもいいこと……」


 カンナバーロはベッドの端を蹴って宙に浮き上がると大げさなおじぎをする。


「さすらいの道化師カンナバーロは、離れた場所で起こったことを勇者様に見せることができます。勇者様、楽しんでください」


 カンナバーロが指をパチリと鳴らすと、部屋は真っ暗になった。

 そして、ロナウドの目の前に横に長い四角形の白い板が浮かんできた。


「カンナバーロ、なんだこれは?」

「まぁ、見ててよ、勇者様」


 その白い板はブーンという音とともに灰色の波型に覆われた。

 波はうねるように動いているがただそれだけのことで、ロナウドにはカンナバーロの見せたいものが一向に分からなかった。

 ロナウドがこれはなんだと尋ねようとしたとき、プンという短い音がして板の表面が真っ暗になった。

 次の瞬間、どこかの湖の景色が映し出される。


「ベールの南にあるトーワ湖だよ」


 それは写真かと思ったが、湖畔に生えている背の高い草が風で揺れていた。

 ロナウドは動く写真を記録できる魔道具があることを知っていた。確か映動機と呼ばれていたはずだ。


「映動機か。なかなか鮮明に映っているな」

「ちょっと違うけど、その理解でも問題ないかな。もう少し見ててね。ほら、出てきたよ」


 そこに映っていたのは、多くの騎士や冒険者たちを引き連れて湖の近くを歩くエトウだった。

 その中には真っ白な衣服を身に着けた聖職者の姿も見える。


「これは、もしや……」

「そう、勇者様のお友達がアンデッド退治をしたときの光景だよ。興味あるでしょ?」


 ロナウドが驚きの表情を浮かべるのを見ながら、カンナバーロは楽しそうに笑った。

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