表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/651

5. 出陣式

「この集団も形になってきましたね、ロナウド様」

 ミレイが満足げにうなずいた。

「短期間での作戦立案と下準備。ティーダの指揮ぶりも堂に入ってきたな」


 砦内の広場では、大蜘蛛討伐に向かう部隊が整列を始めていた。

 勇者一行や騎士団から借り受けた人員、雇い入れた冒険者を合わせると総勢二百人を超えている。


 この討伐部隊の陣容を整えたのが、勇者一行のまとめ役を務めている聖騎士ティーダである。

 砦を守護するベール騎士団との折衝には、ロブ部隊長の尽力も大きい。

 また、討伐作戦を決定する際、魔道士のリーダーであるグラシオラの助言も欠かせなかった。

 彼らが互いに連携することで、状況に応じた最適な選択ができるようになったのだ。

 今回の部隊編成にはその力が十分に発揮されている。


 以前の勇者一行には、このようなチームとしての連携がほとんど見られなかった。

 ロナウドたちの護衛と監視をそれぞれの所属先から命じられた聖騎士、騎士、魔道士に、情報を共有する必要性はなかったのである。


 当時のロナウドはそれでいいと考えていた。自分の力があれば、騎士や魔道士などは後ろに下がっていればよかったのだ。

 彼らの利権争いに巻き込まれるのも避けたかった。


 しかし、エトウの追放騒ぎ以降、各組織は勇者一行の在り方に危機感を覚えたようだった。

 そして各世代のエースとも言える人材を送り込んできたのだ。

 それがティーダ、ロブ、グラシオラの三人だった。


 彼らが最初に行ったことは、指揮系統を統一することだった。

 初めての戦闘でティーダの実力が抜きん出ていることが明らかになると、ロブとグラシオラは彼を勇者一行のまとめ役に推薦したのだ。


 その結果、ティーダたち聖騎士はロナウド、ミレイ、ラナの近習となって護衛に専念することになった。

 周囲の警戒や魔物の調査、冒険者の雇用などは、ロブが指揮する騎士団が行っている。

 魔道士は両方の穴を埋めるように働いていた。

 聖騎士は魔法も使える剣士だが、遠距離魔法の火力不足が弱点だった。そこに魔道士が加われば、護衛体勢を高いレベルに引き上げることができる。

 また、騎士団による魔物や周辺環境への調査などで、魔道士の知識や経験が活きる場面も多かった。


 彼ら三人がロナウドたちのサポートメンバーに加わって半年がたつ。

 その間に勇者一行は、魔物の調査や戦闘を高いレベルで行える集団へと生まれ変わったのだ。


 騎士や兵士の整列が終わると、ティーダがロナウドのところにやって来た。


「ロナウド様、出撃準備が整いました。戦士たちにお言葉を頂けますでしょうか」

「分かった」


 ロナウドは砦の司令官に目礼すると、一歩進み出て整列する戦士たちを見渡した。

 騎士や兵士たちからは規律と高揚感を、冒険者たちからは戦意と野心を感じることができた。


 彼らが自分を見る目には、信頼とともに猜疑心もあるようだ。

 砦での戦いぶりを見ていない者には、貴族出身の若造が勇者として祭り上げられているようにしか思えないのかもしれない。


「勝利とは、生と死のはざまで、自らの恐怖を乗り越えた先にある。戦士としての栄誉と王国への忠誠を胸に、憎き魔物どもを打ち滅ばせ! どうせ勇者が言いそうなことは、そんなものだろうと考えていないか? 特に冒険者たちよ」


 ロナウドがそう言うと、最初は困惑した表情をしていた冒険者たちだが、次第に苦笑いを顔に浮かべながら楽な姿勢を取る者が増えた。


「お前たちは英雄になりたいか? 私の経験から言えば、そんな奴は一人で突っ込んでいって早死する」


 冒険者たちからは笑い声がもれる。

 騎士は静かにたたずんでいるが、どう反応すればいいのか迷っているようだった。


「これは国を守る戦いではない。調子に乗った魔物どもの尻を蹴飛ばしてやるだけだ。魔物の討伐に英雄などいらないぞ。冒険者であれば普段の依頼を受けるように、騎士や兵士であれば日々の任務をこなすように、与えられた務めを果たすことが重要だ。そうすることで、我々は共に戦うことができる。最大限の力を発揮することができる」


 戦士たちはやっとロナウドの意図を理解したような表情になる。


「この作戦で勇ましく戦った者の栄誉と褒美は期待してほしい。それだけは勇者である私が保証する」


 報酬の話に冒険者たちから歓声があがった。

 ロナウドは頬をゆるませて言葉を続ける。


「だが、英雄になろうとするのは止めてくれ。それでは誰が勇者なのか分からないだろう?」

「確かにそうだ!」


 冒険者の一人が合いの手を入れると、戦士たちに笑いが起きた。

 ロナウドはにこやかな表情で大きくうなずくと、口調をあらためて話を続けた。


「私の役目は、お前たちの目印になることだ。混戦の中で進むべき方向が分からなくなったら、私を探せ。私は必ずお前たちの前にいる。私の背中を見て、その後に続けば、仲間たちと勇敢に戦うことができるはずだ」


 ロナウドを見つめる彼らの目が変わった。

 自分は最前線に立つというロナウドの覚悟が戦士たちを刺激したのだ。


「大蜘蛛の巣が広がれば、他の魔物たちは住処を追われて餌場を移すだろう。そうなれば、近隣の村や町の魔物被害は大きくなる。すべては大蜘蛛のせいなのだ! 奴らを殲滅し、砦のように固められた巣を叩き壊す! 民を守るために、我々は断固としてそれを成し遂げなければならない!」


 ロナウドは戦士たちから熱気を感じた。彼らの戦意が高まっているのだ。


「この討伐作戦が終われば、お前たちは胸を張れる。大蜘蛛どもを殲滅して、民の命と暮らしを守ったのだと。お前の息子にも、孫にも、自慢できる偉業となるだろう」


 ロナウドは聖剣をかかげて叫んだ。


「己の武器をかかげよ! いざ、戦場へ!」

「おおー!」


 戦士たちは我先にと自分の武器をかかげて雄叫びをあげた。

 ロナウドは満足したようにうなずくと後ろに下がる。

 その後も彼らの興奮はなかなか冷めず、冒険者などは小競り合いが始まったようだ。


「ロナウド様、戦士たちを盛り上げるのは、少しばかり早いかと」

 グラシオラが遠慮がちに言った。

「ああ、分かっている。私が悪かった。少し張り切りすぎたのだ」


 グラシオラは驚いた顔をした。

 ロナウドが自分の過ちをはっきりと認めたことなど、これまでなかったからだ。

 隣に並んでいるティーダとロブも、意外そうな表情でロナウドを見つめている。


「私にも失敗はある。お前たちも、それを理解した上で差配してくれ」

「はっ!」


 ミレイとラナは微笑んでいた。

 ティーダたちの表情も、これまでより親密なものに感じられる。

 ロナウドはくすぐったいような気持ちがして、自分の馬の方へと足を向けたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ