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3. 現場からの報告

 大蜘蛛についての報告は、実際に現場を見てきた騎士が行った。

 南の砦から南西方向、森の中に小高い丘があるそうだが、その岩場と木々をうまく利用して大蜘蛛は巣を作っているという。


「あちこちの木に大蜘蛛の糸が張られており、その糸に触れれば見張りの蜘蛛にこちらの居場所が伝わります。そこを注意深く抜けたとしても、巣があるのは岩場の奥となり、さらに高密度の蜘蛛の糸が張られていました。奇襲は難しいかと思われます」

「糸を燃やす訳にはいかんのか?」

 部隊長のロブが部下である騎士に尋ねる。

「大蜘蛛の糸を採取して属性魔法を試しましたが、糸は火に強く、ほとんど燃えませんでした」

「大蜘蛛の糸は魔力が含まれている。見た目よりも頑丈で、燃えにくい。刃物で切り裂いて進むのも一苦労だろうな」

 魔物についての豊富な知識があるグラシオラが言った。


「その丘の頂上に、反対側から回り込むことはできないのですか?」

 あごに手を置いて考え込むような姿勢をしているティーダが騎士に訊いた。

「冒険者と共に丘を一回りしましたが、北側は先程申し上げた高密度の蜘蛛の糸が進行を阻んでいます。南側は五メートル以上の断崖絶壁が続いていました。登れないことはないでしょうが、途中で襲われれば対処が難しいかと。西側と東側では大蜘蛛が多数確認されましたが、資料にありますように比較的攻めやすい地形と思われます」

「西側は帝国との国境沿いですな。これは避けた方が無難でしょう」

 グラシオラは言う。

「ええ。帝国を刺激することは避けた方がいいです」

 グラシオラの意見にロブも同意した。


 資料には五十体程度の大蜘蛛が確認されたと記されている。推定で百体以上の個体が生息しているようだった。

 また、砦のようになった丘の中央には大蜘蛛の女王がいると予想されている。


「女王はどれほどの強さなのだ? 誰か戦ったことのある者はいるか?」


 ロナウドの質問に手を挙げる者はいなかった。

 その部屋にいた誰も、大蜘蛛の女王との戦闘経験はなかったのだ。


「以前、騎士団でダンジョンに潜ったときに、大蜘蛛とは戦闘しました。効果的だったのは火魔法です。すぐに燃え上がるほどではないですが、十分にダメージを与えていました。剣での攻撃は、やわらかい腹の部分か、脚の関節をねらうのがよいかと。他の部位はかなり硬かったと記憶しています」

 騎士の一人が答えた。


「火魔法か。ミレイ、どうだ?」

「空気が乾燥しているこの時期は、森の中で火魔法を連発するのは避けたいですね。山火事の恐れがあります。私の極大魔法であれば、燃え上がる範囲を制御できるので問題ありません」、

「そうなると、ミレイのヘルフレイムを突撃時に使うか、それとも女王と戦うために温存しておくかという話になるのか。ティーダ、どう思う?」

「はい、ロナウド様のおっしゃる通りかと。私としましては、本格的な攻撃を開始する前に大蜘蛛をできるだけ誘い出し、ミレイ様にヘルフレイムを放ってもらうのがよいかと思います。そうすることで、極大魔法の効果を最大限に発揮して頂けると思いますが、いかがでしょうか?」


 ティーダの言葉にロナウドは大きくうなずいた。


「一度の攻撃で大蜘蛛を殲滅する必要はない。丘の付近に村はないようだから、腰を据えて大蜘蛛退治を行うのもよいだろう。ただ、この場所に大蜘蛛が巣を張っているせいで、他の魔物が外へと押し出されているようだ。あまり時間をかけすぎる訳にもいかない」


 ロナウドの発言に、会議室の面々がうなずく。


「ティーダ、早急に作戦を立案せよ。ロブは引き続き大蜘蛛の監視に力を注げ。グラシオラは求めに応じて知恵を貸してくれ」

「はっ!」

「他に報告すべきことはあるか?」


 最後の確認にロナウドが尋ねると、ロブが手を挙げた。

 ロナウドはうなずいて発言を許す。


「会議が始まる直前に報告があったのですが、大蜘蛛の巣までの道のりで冒険者の一人がゴーレムを見たそうです。どこまで信頼できる情報なのか確認できなかったため、資料には記しませんでした」

「ゴーレムとは……。もしも見間違えでないならば、新しいダンジョンが生まれた可能性も考えなければなりませんな」

 グラシオラは渋い顔で言った。

「グラシオラ殿、はぐれゴーレムの可能性はありませんか?」

 ティーダが訊く。

「それはあるでしょうな。ただ、ゴーレムは長い距離をさまようような性質ではありません。ゴーレムが発生するような岩石地帯というと、南の山岳地帯でしょうが、川や森を越えてこの辺りまでやってくるというのは、非常にまれなケースだと考えた方がいいでしょう」

「なるほど」


 ゴーレムの出現という降って湧いたような話に、会議室の面々は沈黙した。

 ロナウドが場の空気を変えるために発言しようとしたとき、ティーダが矢継ぎ早に指示を出した。


「ロブ殿、大蜘蛛の監視部隊とは別に、ゴーレムの探索部隊を組織することはできますか?」

「ああ、問題ない。騎士一人をまとめ役にして冒険者を雇う。それで構わないか?」

「ええ、十分です。グラシエラ殿は、ゴーレムについての情報をまとめてもらえますか? 効果的な攻撃や足止めの方法です」

「分かりました。明日の午後までにはそろえておきましょう」

「お願いします。ダンジョン出現の件ですが、これ以上探索や討伐の手を広げると、大蜘蛛討伐も中途半端になる可能性が高いと思われます。まずはゴーレムの存在を頭に入れながら、大蜘蛛の巣を壊滅させることに集中するのが最善かと。ロナウド様、どう思われますか?」

「私もティーダの意見に賛成だ。各々準備をして、明日か明後日、もう一度会議を行う。次回は、大蜘蛛討伐の決行日も含めた作戦の立案まで終わらせたい。ティーダ、それでよいか?」

「はい、問題ありません」

「よし、それでは今晩は解散とする」


 大蜘蛛とゴーレムとは妙な組み合わせだ。

 敵となる魔物がしっかり絞れないと、想定以上の被害が出るかもしれない。

 ロナウドは不吉な予感を抱きながら、すでにそれぞれの仕事に取りかかっている部下たちの姿を眺めていた。

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