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2. 勇者一行

 部屋の中に入ってきたミレイは、小首をかしげてロナウドを見た。


「どうしました? 王都に残してきた恋人のことでも思い出していたのですか?」

 ロナウドは苦笑してミレイを見つめる。

「そんな人がいればいいのだがな」

「婚約者はいらっしゃるでしょうに」

「そういえばいたな。出迎えと見送りにだけ、嫌々つき合わされていた婚約者殿が」


 十八歳になったロナウドは、王都にいる間に婚約の話を進める予定だった。

 しかし、エトウという新たな英雄に難癖をつけただけでなく、無様に敗北するという不名誉があったために、その話は一旦止められることになったのだ。

 一般人相手に聖剣を抜いたロナウドを擁護する者はいなかった。

 さすがに相手方も、勇者との婚約破棄までは踏み切れなかったのだろう。婚約はこれまでどおり維持されるようだった。


「エトウさんのご活躍をお聞きしましたわ」

「ああ、私も先程聞いたところだ」

「スケルトンフィッシュの討伐など、大昔の聖女伝説ではありませんか」

「エトウは聖剣を使ったそうだぞ」

「ええ、そうみたいですね……」

 ミレイは気遣うようにロナウドを見た。

「大丈夫だ。王都のときのようなことにはならない」

 ロナウドはいつもよりも疲れた表情だったが、事実を受け止めているようだった。

「そうですか」


 王都でロナウドがエトウに敗北した後、王国上層部は王城内で聖剣が振るわれたことを極めて重大な背信行為だと断じた。

 貴族の一部にはロナウドから聖剣を取り上げるべきだという声もあったほどだ。

 最終的には神託を受けた勇者であることが重視され、国王直々に厳重注意をすることで事態の幕引きが行われた。

 そのときには、エトウたちへの接近禁止と無期限の自宅謹慎も命じられている。


 侯爵家の別邸に軟禁状態となったロナウドは荒れた。

 昼間から酒を飲み、剣や魔法の鍛錬も止めてしまった。気に障ることがあると、周囲の使用人に当たり散らした。


 そんな状態のロナウドのところに足繁く通い、立ち直るきっかけを作ったのがミレイとラナの二人だった。

 ロナウドはそのときのことを思い出すと、二人に対して頭が上がらない。


「あっ、ミレイ様もいらしたのですね。ロナウド様、会議室で報告会があるそうですよ」

 ラナは身軽な格好で部屋に入ってくるとロナウドに笑いかけた。

「ちょっと、ラナ。なんですか、その服は?」

「えっ、おかしいですか? 新しくおろした部屋着なんですけど」

「部屋着は部屋で着るものです。このフロアは私たちしかいませんけど、一応は公的な場となっていますのよ」

「えー、面倒ですねぇ」

「面倒とか、そういう問題じゃありません。だいたい――」

「ああ、分かりました。すぐに着替えてきますから、お二人は会議室に向かってください。準備は完了したとティーダさんが言ってましたからね。それでは」

 ラナはあっという間に部屋から消えてしまった。


「まったく、こんなときに剣聖のスピードを使うなんて! あれじゃ、いつまでたっても立派なレディにはなれませんわ」

「まぁ、ラナは自由奔放なところがあるから、あれでも自分たちに合わせてくれているのだろう」

「それは、そうかもしれませんけど……」

「さぁ、会議室に向かおうか。森の魔物に対する方針を決めなくてはな」

「はい」


 ミレイはまだラナに言いたいことがありそうだったが、ロナウドの後に従って会議室に向かった。


 エトウが聖剣を使ったからといって、自分が勇者であることは変わらない。それならば、勇者としてやるべきことをやっていくだけだ。

 すでにケチがついているロナウドには他の選択肢などなかった。


☆☆☆


 ロナウドとミレイが会議室に入ると、教会から派遣された聖騎士のリーダーであるティーダが立ち上がって二人を迎えた。

 二十代後半とまだ若いが、勇者一行のまとめ役を務めている。


「ロナウド様、ミレイ様、こちらにどうぞ」


 二人はティーダの言葉にうなずくと、上座に着席して会議室を見渡した。

 左手にはティーダを含めた聖騎士五人、魔道士団から派遣された魔道士五人が座っている。


「ロナウド様、ラナ様はまだですかな?」


 魔道士のリーダーであるグラシオラが、伸びたあごひげをしごきながら尋ねた。

 四十代後半の実力者であり、会議室に集められた勇者一行では最年長となる。若いティーダにまとめ役をまかせるだけの度量の広さもあった。


「ああ、ラナとは会議室に来る前に会った。すぐに来るだろうから、もうしばらく待て」

「了解しました」


 ティーダたちの反対側には、王国騎士団から派遣された騎士十人が資料の用意をしていた。

 ロナウドが部隊長のロブに目線を向けると、頭を下げて今夜の議題について話し始めた。


「ロナウド様、森の調査からもどった部下が、大蜘蛛の巣を発見しました。現在は雇い入れた冒険者に監視をさせています」

「大蜘蛛の巣ですって、またやっかいな」


 ミレイが眉間にしわを寄せる。

 そこにラナが部屋に入ってきた。音もなくロナウドの隣に着席して、澄ました顔をしている。ミレイに指摘された部屋着は着替えてきていた。


「それでは報告を始めてくれ」


 ロナウドの言葉によって、会議室は真剣味を帯びた空気に変わった。

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