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11. 掃討作戦

 騎士団によるスラム掃討作戦は範囲を限定して行われることになった。

 アンドレア部隊長は困ったような顔をして、一味の居場所が判明したために計画が変更になったとエトウに告げた。


 エトウに情報元を話すわけにもいかず、嘘で固めた理由を語るのも気が進まない。

 その結果、最小限の情報を困った顔で告げたのだろう。

 彼は好感の持てる人物だが、腹芸ができなくてこの先大丈夫なのだろうか。


 エトウはそんなことを考えながら、グドー一家のアジトとなっている石造りの大きな家を裏から見張っていた。

 親分のグドーは昨夜から家の中にいるという。


 時刻は朝の五時二十分。

 日の出はまだ少し先だが、辺りはすでに明るくなっている。視界の確保には問題なさそうだった。


 十分後に突入部隊が表口と裏口両方から侵入する手はずだ。

 エトウは誰も逃がさないようにこのまま見張りを続けることになっている。


 手柄は騎士団に渡すのが大人の対応であろう。

 自分はなにか不測の事態が起こったときのために呼ばれたのだとエトウは考えていた。

 コハク、ソラノ、アモーの三人にもよく言い含ませた上で、グドー以外の幹部が潜伏している場所に向かわせている。


 なにも起こらず、仕事を終えるのが一番。

 お得意様の騎士団に恩を売れて、けっこう報酬もいい。

 だいたい戦闘訓練を積んでいないスラム街のならず者と戦っても、経験値は上がらない。

 こんな仕事は平和に終わるにかぎる。

 なにも起こりませんように。


 騎士団による突入の後、そう祈りながら見張りをしていたエトウだったが、二階の窓から男が裏口近くに飛び降りたのが見えた。

 黒髪で痩せぎすの男だった。事前に聞いていたグドーの特徴と一致している。


 その男は裏口を潜ると、裸足でエトウの方へ走ってきた。

 右手には刃渡りが長めの短剣を握っている。

 エトウは男を見据えたままゆっくりと剣を抜くと、剣に風魔法を付与した。

 エトウは魔力操作の技能が向上し、剣にまとわせた風を刃のように伸ばすことができるようになった。


「そこをどけぇー!」


 グドーは目を血走らせて叫び声を上げる。

 グドーとの距離が三メートルほどになったとき、エトウは剣を横なぎに払った。

 すると剣から伸びた風の刃が、グドーのひざから下をあっさりと断ち切る。

 グドーは走ってきた勢いのまま前につんのめり、顔をしたたかに地面に打ちつけた。


「貴様ぁー! 俺が誰だか知らんのか!」

 グドーは倒れたままの格好でエトウをにらみつけながら叫び声をあげる。

「知ってますよ。誘拐犯でしょ。サイレント。グラヴィティ」


 エトウは周囲の音を消すサイレントと、対象を地面に押しつけるグラヴィティを唱えると剣にまとわせた風魔法を解除した。


 おそらくグドーは自分の足が切られたことに気がついていない。なんらかの仕掛けで転ばされたと思っているのだろう。

 エトウはその誤解を正そうとは思わなかった。

 無言でグドーの下半身の方へ回ると、エンチャント・ファイヤーソードを立ち上げる。


「これでもう逃げ回ることはできませんね。少々荒っぽくなりますけど、血止めをしなければなりません。こんなところで死なせませんから」


 そう言ったエトウは高温に燃えさかった剣をグドーの傷口に押し当てた。

 肉の焼け焦げるにおいが辺りに漂う。

 ぱっくりと開いた右ひざの傷口が焼かれ、流れ出ていた血が止まった。


 グドーはグラヴィティによってまったく体を動かすことができない。

 声も聞こえない。

 エトウの位置からはグドーの顔も見えなかった。


「あと一カ所ですね」


 エトウはなんのためらいもなく燃える剣を左足の傷口に押し当てる。

 作業のように両ひざの傷口を焼くと補助魔法を解除した。

 エトウが上半身の方へ回り込むと、グドーは涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら気を失っていた。


「後悔するような人間ではないのでしょうね……」


 エトウは所持していた縄でグドーの両腕を後ろ手に縛る。

 エトウの荒っぽい血止めを遠巻きに見ていた騎士たちは、我に返ってグドーの捕縛を手伝った。


「あとはお願いします」

「はっ」


 グドーは気を失ったまま両腕を二人の騎士に抱えられて連行されていった。


 そのときエトウの胸に去来したのは虚しさだった。

 グドーの足を切り落としたからといって誰も救われない。

 グドーに痛みを与えたからといって、被害者の苦痛が消える訳ではないのだ。

 それでも目の前に誘拐事件の主犯があらわれたとき、エトウは自分を抑えることができなかった。


 胸の奥にある重たい感情をため息とともに吐き出そうとしたが、なにも変わらなかった。

 空にはいつの間にか朝焼けが広がっている。


「帰りますか」


 エトウはつぶやいた。

 そしてコハクたちと合流するために集合場所へ歩き出した。

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