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5. 魔道具工房ノーム

 次の休日、アモーを魔道具製作工房に連れて行くと言ったエトウだったが、南の砦から被害者を受け入れて以来、休みをとることができなかった。

 そこで半日だけサリーナとフィリップに時間をもらい、アモーを工房主のタンゲに引き合わせることにした。


 アモーと二人だけで十分だったが、コハクとソラノも当然のようについてきた。

 コハクはなにやら手土産を持ってきているようだ。これではどちらが保護者なのか分からない。


 ベールの街を区画ごとにざっくり分けると、北には辺境伯の城と貴族街がある。

 ベール大聖堂や各種ギルドは中央に集まっており、エトウたちが世話になっている騎士団施設は西門のすぐ近くだ。

 帝国との国境が西にあるため、兵士の訓練場や詰め所に使われている大きな建物なども西の城壁付近に集まっている。

 南門には雑多な露天商の店が場所を競っており、季節にもよるが週にだいたい三日は朝市も開かれていて盛況だ。

 そして、エトウたちがこれから向かうのが、鍛冶屋や魔道具製作工房などが軒を連ねる東門の職人街だった。


 街中を走る乗り合い馬車に乗り、エトウたちは東門方面に向かう。

 コハクはアモーの襟を直し、肩や背中に糸くずなどがついていないか確認している。

 コハクお母さんと喉元まで出かかったエトウだったが、なんとか耐えることに成功した。


「コハク、お母さんみたい」


 ソラノはためらいなく口に出した。

 彼女はエトウの我慢など知らないのだから仕方がない。


「お母さんって! しょうがないでしょ。今日はお父さんにとって大事な日なんだから」


 コハクは顔を赤くしていたが、アモーの身だしなみ確認は継続中だった。


 東門の少し前で乗り合い馬車を降りたエトウたちは、大通りを右に曲がって街の南へと歩き始めた。

 すでに先の方から金属を打つカーン、カーンという音が聞こえている。

 その音があちこちから聞こえるようになると、金属加工にすぐれた技術を持つ者が多いドワーフたちが、筋骨隆々の肩を怒らせて通りを歩いていた。


 ドワーフの上背はコハクよりも小さいが、体の幅と厚みには圧倒されるような迫力があった。

 大きな特徴となっている長いひげは腹の辺りまで伸びており、先端を結んだり、ビーズなどの装飾品をつけたりと遊び心も感じられた。


「ここだな」


 エトウは一軒の店の前で足を止める。

 店頭の看板には『魔道具工房ノーム』と書かれていた。

 エトウが店内をのぞき込むと、店番をしていた少年がすぐに外まで出てくる。


「エトウさん、ようこそいらっしゃいました。親方がお待ちですのでどうぞ中の方へ」

「ありがとう。こちらテオくん。タンゲさんのお弟子さん。テオくん、こっちがアモー。今日からテオくんの弟弟子になるのかな」

「よろしく頼む」


 エトウに紹介されたアモーはテオに頭を下げた。

 驚いたのはテオである。

 二メートルを超える大男が、自分のような子供に頭を下げたのだから、どうしていいか分からなくなってしまった。

 テオは呆然とアモーの顔を見上げていた。


「おい、テオ! 誰か来たのか」


 そこに店の奥から三角帽子を被った男があらわれた。

 上背はテオ少年よりも少し高い程度。ひげを長く伸ばしていることもあって、ドワーフと間違われることも多いそうだ。

 だが、エトウはその男が人間族であり、この工房の主タンゲであることを知っていた。


「こんにちは、タンゲさん。お忙しいところすいませんが、この間話していた男を連れてきました」

「おお、おお、エトウさん。待っていましたよ。どうぞ奥にいらしてください。皆さんもどうぞこちらへ。テオ、スリナに言ってお茶の用意をしてもらえ」

「はい!」

 元気のいい返事をしたテオは、店の奥に駆け込んでいった。

「走るんじゃねぇ! ばかやろう」

 すかさず怒鳴りつけるタンゲ。

「はい。すいません!」

 テオの謝る声が店の奥から聞こえた。

「騒がしくてすいませんね。とりあえず奥で休んでください」

 タンゲはアモーのことをチラリと見ると、エトウたちを客間まで案内した。


 客間では南の砦からの生還者であるスリナから救出した礼を言われ、あらためてタンゲとテオからも頭を下げられた。

 タンゲはスリナの祖母の弟で、テオはスリナの甥にあたるという。

 他の町に住んでいるタンゲの息子が、一人暮らしの父親を心配し、親類のスリナに時々様子を見にいってもらえないかと頼んだらしい。


「父親思いのいい息子さんじゃないですか」

 エトウはタンゲに言った。

「どうだかな。魔道具職人の息子が鍛冶士になっちまったから、少しは申し訳ないと思ってんじゃねぇか」


 タンゲはちょっと照れくさそうにしながらも豪快に笑った。


「トーザさんはソルトガルで鍛冶士をしてるんですよ」

 テオがエトウに言った。

「鍛冶士の本場じゃないですか」

「そうです。トーザさんはソルトガルでも一流の鍛冶士なんですよ」

「テオくんはトーザさんに憧れているのかな?」

「はい。僕が小さい頃からかわいがってくれましたから。でも、僕は鍛冶士じゃなくて、魔道具職人になりたかったんです。細工物が好きなんですよ」


 テオは十五歳になった昨年から、タンゲの世話になっているという。


 会話の中でタンゲたちの簡単な自己紹介を聞くことになった。

 次はこちらが紹介する番かとエトウはパーティーメンバーを眺めた。

 するとコハクと目が合ったのでうなずく。


「ほ、本日は、父アモーを弟子にして頂けるということで、ありがとうございます。わ、わたくし、アモーの娘コハクといいます。こちらはつまらないものですが、どうぞ」


 コハクは緊張しながらも、タンゲたちに手土産を渡した。

 それはコハクが自分の報酬で購入した菓子だった。


「これはご丁寧に。ありがとうございます」

 スリナはコハクの様子を微笑ましく眺めながら贈り物を受け取った。

「エトウさんに聞いていた通り、いい娘さんじゃねぇか。アモーさんも頑張らねぇとな」

 タンゲもコハクの様子を見ながらニカッと笑った。

「ところでアモーさんよ。アモーさんが魔道具作りを学んでどうなりたいのか、俺に聞かしちゃくれねぇかい?」

 タンゲの口調は軽かったが、その目は真剣そのものだった。

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