4. アモーへの提案
リビングのテーブルにコハクたちが作った料理が並べられる。
オークの焼き肉、野菜炒め、川魚の煮物、エルフの里特製スープ、各種パンと盛り沢山だった。
大皿に盛られた料理をそれぞれが取り皿に分けて食べていく。
大食漢のアモーと、一回の食事は小食気味で間食が多いソラノは、こういう食べ方にすればどちらも不自由なく食事を楽しめる。
ソラノが作った酸味の効いたスープは飲みやすくて体が温まった。
デザートに出された甘みの強い果物を口に入れながら、エトウはアモーに話しかけた。
「アモー、これ見てくれるか」
エトウはソファの下に置いていた紙袋をアモーに手渡した。
「うん? なんだこれ、開けていいのか?」
「ああ」
紙袋の中からは小型の魔道具が出てきた。
よく見慣れた形状だがずいぶんと小さい。
それでもアモーには、それがなんであるのかすぐに分かったようだ。
「これは……温水が出る魔道具だな。どうしたんだ、これ?」
「うん。ベールでも腕のいい魔道具職人が作ったものなんだ」
「よく見てもいいか?」
「ああ、いいぞ」
アモーは大きな手を器用に動かして魔道具をいじり始めた。
しまいには食べ終わった皿の上に温水を出してコハクに叱られていた。
「その工房なんだけど、アモーを一年間弟子にとって、魔道具製作の基礎を教えてもいいと言ってくれてるんだ」
アモーは魔道具をいじっていた手を止めて、エトウを見つめている。
コハクとソラノも同じようにエトウを見ていた。
「工房主のタンゲさんは、南の砦で捕まっていた女性の親族でね。女性が小さい頃からかわいがっていたらしいんだ。不幸中の幸いか、その女性は後遺症もほとんどないようで、もう日常生活を送れている。タンゲさんはそのことに感謝して、騎士団施設までお礼に来ていたんだ。そこを偶然俺が通りかかってさ、守衛に事情を聞いた訳だ。それで俺もタンゲさんに少しあいさつして、仲間の一人が魔道具作りに興味があるから見学に行ってもいいかと尋ねたら、快諾してくれたんだ」
「見学の話じゃなかったでしょ? 弟子にとるって言ってたよね」
コハクが話に割り込んできた。
「ああ。工房の場所を聞いていたから、仕事のついでに後日立ち寄ってみたんだ。それで俺のことを後から騎士に聞いたみたいでさ。南の砦で果たした役割とか、民政官としての仕事とかだな。ものすごく感謝されてな。それでちょっとぶしつけかとも思ったけど、今回の救出作戦で重要な役割を果たした冒険者の一人が、魔道具製作を本格的に学びたいと思っているのだが協力してもらえないかと頼んだんだ」
「それでその工房主、タンゲさんだっけ。なんて答えたの?」
コハクは答えを急かすように訊く。
「その男が本気で魔道具製作を学びたいというのであれば、自分の持っているものなら教えてやれるってさ。とにかく一度連れてきてくれって言われた」
「すごい! そんな話あるの!」
コハクが驚きの声をあげる。
「タンゲさんが言うには、アモーが冒険者であることは問題ないってさ。魔道具製作者の中には冒険者登録をしていて、自分で取ってきた素材を使って魔道具を作る人もいるらしい。費用についても問題ない。タンゲさんにはただで使ってもらうことになる。その代わり雑用仕事もしなければならないけど、弟子ならばそれくらいはな。それといくつか道具が必要になるみたいだけど、アモーが魔道具に精通していればパーティーにとって利益になるよな。装備品扱いとしてパーティー費用から出そうと思うが、みんなはどう思う?」
「賛成!」
コハクとソラノはすぐに声をあげた。
黒角の魔力を自由に使えるようになってから、アモーの魔道具への関心は強くなっていた。
王城の宝物庫で褒美にもらった結界の魔道具や、騎士団施設内に設置してある各種魔道具を丹念に調べている姿を何度も見たことがある。
コハクとソラノもこれまで口にこそ出さなかったが、アモーの心境の変化に気づいていたのだろう。
アモーは自分の魔力が少なかったため、魔道具職人の道をあきらめていた。
だが、実際は十分な魔力があると分かったのだ。
それならば魔道具への関心が高まるのも当然だった。
「魔道具製作の基礎があれば、あとは自分でも学べると思う。まずはそこで教えてもらうのがいいかと思ったんだ。アモーはどう思う?」
アモーは話の途中からずっとうつむいて温水の魔道具を見つめていたが、エトウの問いかけに顔を上げた。
「エトウ、やらせてほしい」
「そうか、よかった。職人の修行は厳しそうだけど、大丈夫かなぁ」
エトウは冗談めかして言う。
「ふふ、望むところだ」
そう言って頬をゆるめたアモーに、後ろからコハクが抱きついた。
「よかったねぇー、お父さん。やっと夢が叶うよ」
コハクは泣き出していた。
「夢が叶うかはアモー次第。でも、アモーおめでとう」
ソラノも不器用な激励の言葉を告げる。
「それじゃ、今度の休みにアモーを工房まで連れて行くから。あと、これだけ用意してくれって言われた。俺には分からないから、アモーにまかせる」
エトウはそう言うと、工房主のタンゲから渡されたリストの紙片と購入資金をアモーに渡す。
それを受け取ったアモーは皆に頭を下げた。
「みんな、ありがとう」
エトウはアモーの夢を後押しできたことがうれしかった。




