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11. 討伐作戦の終わり

 トーワ湖での討伐作戦に参加した者たちの被害は、騎士団と冒険者の一部に留まった。

 重傷者は出なかったため、持参したポーションで彼らの傷はふさがった。

 しばらく安静にしていれば体調も元にもどるだろう。


 騎士たちは交代要員が来るまで湖周辺の警備を行うとのことだった。

 その後で一緒にベールへもどることも考えたが、エトウたちには聖職者を護衛するのに十分な戦力があった。

 エトウのパーティーに加えて、二十人弱のB級とC級の冒険者がいるのだ。

 司祭や騎士と相談し、エトウたちは一足先にベールにもどることになった。


「フランチェスコ司祭様、エトウさん、おかえりなさい。ケガなどないようでよかったです。皆の表情を見ると、作戦は成功したようですね」


 冒険者ギルドの前で司祭たちを出迎えたのはテイヤール牧師だった。

 にこやかに笑う牧師に、討伐作戦に参加した者の一人が近づいてなにかを耳打ちした。

 その途端に牧師は目を見開いて驚いた表情を浮かべる。


「だ、だから、私は言ったのです。どんな危険があるか分からないと。フランチェスコ司祭様、今回はご無事だったからよかったものの――」


 スケルトンフィッシュどころか、その最上位種のビッグマウスも出現したと聞かされたのだろう。

 テイヤール牧師の顔は青白くなっていた。


「ええ、ええ、テイヤール牧師が私たちを心配してくれているのは、十分に理解していますよ。ですが、今回は予想外の事態が起こったのです。皆さんも疲れていますので、話は後にしましょう。ああ、それと冒険者の方から頂いたものがあるのですが……」


 司祭たちの話を聞いていた牧師の一人が、冒険者用の素材袋を持ってきて差し出した。


「テイヤール牧師、これはアオガモのお肉ですよ」

「おお、渡りは昨日だと聞きましたから、初物ですね。いや、しかし、話はまだ――」

「まぁまぁ、テイヤール牧師はアオガモのスープが好物でしたよね。今晩は、皆さんで食事を一緒にとりましょう。それよりも、まずは無事な生還を女神様に感謝しなければなりません。テイヤール牧師、準備に取り掛かりましょうか」

「……分かりました。話は後で聞いて頂きますからね」

「ええ、ええ、もちろん分かっていますよ」


 フランチェスコ司祭はそう言うと、エトウに片目をつぶった。

 どうやらテイヤール牧師の小言をうまくかわしたようである。


「本日はありがとうございました。エトウさんがいなかったら、どうなっていたことか」

 司祭はエトウに言った。

「それはお互い様でしょう。皆さんの協力があったからこそ、ビッグマウスを倒すことができたのです。ありがとうございました」


 牧師や修道女たちの表情は晴れやかだった。

 心身ともに消耗していても、自分たちがトーワ湖を守ったという誇りや達成感を得ているようだ。


「私にとって他に代えがたい経験になりました。あの剣についてもお伺いしたいところですが、今は止めておきます」


 司祭は微笑んだ。

 エトウにしても、辺境伯から聖剣を借り受けたことを話してよいのか判断できなかったため、司祭の配慮はありがたかった。


 司祭が聖職者たちを連れてベール大聖堂へ入っていくと、それを待ちかねたようにダイクとブラジがエトウに肩を組んできた。


「難しい話は終わったようだな、エトウさん。今から勝利の宴といこうや」

 ダイクは大きな体をエトウに押しつけてくる。

「今晩のアオガモ猟は禁止になったからな。思う存分飲めるぜ」

「そうなんですか?」

「ああ、大事をとってしばらく様子を見るらしい。問題ないようならば、明日、明後日には解禁になるだろうよ。そうなったら、エトウさんには究極のアオガモ料理を決めてもらうぞ」

 ブラジが言う。

「俺がですか? 決められませんよ」

「俺たちが料理したものを食って、どちらがうまいか言ってくれればいい。審査員てやつだな。エトウさんのパーティーも参加してくれていいぞ」


 エトウがパーティーメンバーを見ると、コハクとソラノが興味深そうな顔をしてうなずいている。


「じゃあ、そのときにはご馳走になります」

「おう。それよりも今は宴会だ。ギルドにもどって飲むぞ!」

 ダイクが声をかけると、周りにいた冒険者たちも声をあげる。


 エトウはそのままギルド併設の食堂まで連れていかれ、お祭り騒ぎに夜遅くまでつき合わされたのだった。


☆☆☆


 ビッグマウスが潜んでいた林の中に、ドスン、ドスンという重たい足音が響いていた。

 最後まで林の警護をしていた騎士団の姿もすでになくなっている。

 トーワ湖の岸辺でアオガモをねらっている冒険者がいれば、その重たい足音に気がつきそうなものだが、不思議なことにいかなる音も林の外にはもれていなかった。


 毒沼があった場所に姿をあらわしたのは、三メートルを超える巨大ゴーレムと、その肩に腰かけた一人の男だった。

 黒髪にきれいに整えられた口ひげ、左目にはモノクルをつけている。

 森の中には似合わないブラックスーツを着て、沼をぼんやりとした目で見つめていた。


「あぁ、毒沼は浄化されてしまいましたか」

 男は心底残念そうにつぶやいて、ため息をついた。

「なかなかいい仕掛けだと思ったんですけどねぇ。君もそう思ったでしょ?」

 話しかけられたゴーレムはなんの反応も示さず、黙ったままだ。

「勇者を誘い出すはずが、なかなか計画どおりにはいかないものです。しかし、ずいぶん懐かしいものを見られましたね。勇者トキカゼの聖剣とは」

 男は口角を上げて愉快そうな表情をすると、口ひげを指でしごいた。

 艶のある口ひげの先がピンと上を向く。

「エトウさんといいましたか。また、どこかで会えそうですね。ふふふ」

 男とゴーレムは林の奥へと消えていった。

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