10. 王都冒険者ギルドへの報告
過去のことを思い出していたエトウは深いため息をついた。
この二年間、本当にいろいろなことがあった。それは故郷の村にいてはとても経験できないことだったのは間違いない。
だが、エトウにその経験をありがたがる気持ちはほとんどなかった。約一年もの間、勇者たちに差別的な態度を取られ続けたエトウは、精神的にも肉体的にも消耗していたのだ。
「王都での報告が終われば、一段落つくだろ」
エトウはそうつぶやくと、途中になっていた仕事にもどる。殲滅したゴブリンの集落は、他の冒険者の手によってあらかたきれいに片付けられていた。
王都への旅費が貯まったエトウはすぐにその町を旅立った。途中の町でも護衛などの依頼をこなしながら、半月ほどかけて王都に到着する。
勇者パーティーの連絡本部にもなっている王都冒険者ギルドで伺いをたてると、ギルド内の一室に通されて待つように言われた。
どのような反応をされるのだろうとエトウは不安な気持ちを抱えていた。
だが、これは自分の人生をとりもどすために避けては通れない道である。エトウは勇者パーティーでの扱いについて、包み隠さずすべて報告するつもりだった。
しばらくすると冒険者ギルドのグランドマスターと王都のギルドマスターがあらわれた。以前、王都周辺で魔物討伐の実戦訓練を行った際、エトウたちがお世話になった二人だった。
グランドマスターとは王国における冒険者ギルドのトップとして、各都市のギルドマスターを統括する役割を担っている。
「エトウさんには以前お会いしていますが、あらためて自己紹介させてください。こちらはグランドマスターのトライエ様、そして私が王都冒険者ギルドのギルドマスターをやらせて頂いているサイドレイクといいます。よろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします。わざわざ私のために時間をとって頂き、ありがとうございます」
彼らは再会の言葉を交わした後、エトウがなぜ一人で王都にいるのかという事情説明に入った。エトウは嘘偽りなく、これまでの経緯を説明した。
「ちょっと待って下さい。エトウさんの話によると、エトウさんは補助魔法を使うのを勇者様から禁じられていたということですか? それに加えて、報酬の未払い、宿や食事の提供拒否。エトウさんは自分でギルドの仕事を請け負って生活費などを稼いでいたと?」
ギルドマスターは焦った様子で事実の確認を求めた。
「はい、そのとおりです」
「それは、いつからなんだ?」
それまでうーんとうなりながらエトウの話を聞いていたグランドマスターが尋ねた。
「今のような待遇となって一年になりますね」
「一年の間にエトウくんは自分の状況を誰かに訴えなかったのか? 勇者パーティーには騎士や魔道士、連絡員などもいただろう?」
「ええ、何度も訴えましたよ。せめて報酬を渡してほしいと、食事すらも与えられずに討伐の旅を続けることは無理だと。しかし、戦闘の役に立っていない自分はギルドの仕事を請け負って生活費とすればいいのではと、彼らのうちの一人が言い出して、他の者はそれに同意したのです。騎士や魔道士たちもその会話を聞いていましたが、なにも言いませんでしたよ。そのことがあって、自分は彼らに要望を出すのをあきらめました」
エトウは今さら怒りも湧いてこなかった。エトウにとってこれらのことはすべて終わったことなのだ。これから先、自分の人生を送る前に必要な報告義務をこなしている感覚だった。
「なるほど。よくわかった。エトウくんが話してくれたことをこちらでも確認する必要があるのだが、それは問題ないか?」
グランドマスターはエトウのことを見極めるように目を細めた。
「ええ、どうぞ確認してください」
エトウは自分の報告が疑われるのは仕方がないと考えていたため、グランドマスターからの鋭い視線を受けても焦らずに済んだ。そして、これで自分の役目は終わったと、後の対応をギルドに一任したのである。
冒険者ギルドから宿の提供を打診されたがエトウは丁重に断った。
自分はギルドで依頼を受けようと考えているので、用事がある場合にはギルドの受付に伝言を残してほしいと伝える。
これから自分の冒険を始めようというときに、生活のすべてをギルドの管理下に置かれるのはご免だったのだ。




