7. アンドレア部隊長との面会
早朝、エトウ、コハク、アモーの三人は騎士団の訓練場で模擬戦を行っていた。
エトウは基礎的な身体能力や剣術の向上を図るため、補助魔法を一切使っていない。
アモーを相手に、エトウとコハクの二人がかりで攻めかかっていく。
エトウは距離を詰めると模擬剣をアモーに打ち込んだ。
一太刀で終わりにせず、角度を変えて何度も打ち込む。
広い訓練場に、木製の剣が打ち合うカーン、カーンという甲高い音が響いた。
エトウの斬撃はすべてアモーに防がれていた。
しかしここで手を止めてしまえば、アモーに攻撃権を渡してしまう。
攻撃が単調にならないように変化をつけながら、アモーの隙を探す。
そこに横合いからコハクが斬りかかった。
それは鋭い一撃だったが、アモーは素早く一歩後退してコハクの突撃をかわした。
そしてそのまま突き進むと、エトウの剣を巻き取るようにしてすり上げる。
エトウが気づいたときには、右手に握られていたはずの剣が訓練場の宙を舞っていた。
その剣が落ちてくる前に、コハクの首にアモーの剣が突きつけられた。
「はぁー、二人がかりでも全然勝てないよ。エトウはもっとお父さんを引きつけておいてくれないと」
コハクが無念そうに言った。
コハクの横合いからの奇襲は、エトウの引きつけが甘かったために余裕を持ってかわされたのだ。
「ああ、悪い。しかし、あそこまで剣筋が見極められているとな」
エトウはアモーとの立ち会いを思い出していた。
もともとアモーとは実力差があったが、アモーが黒角に蓄えていた魔力を使えるようになってからその差は開いた。
身体能力を強化する魔法が格段にうまくなったアモーは、魔力をパワーやスピードに変換して自在に戦えるようになったのだ。
「エトウは斬撃に変化をつけていたが、角度だけではなくて強弱も意識した方がいい。捨てる一撃と、当てる一撃がはっきりしていない。それだと剣を受ける方は楽できる」
アモーはエトウの剣術で改善できる点を指摘した。
「その強弱の加減が難しいんだよなぁ。捨てる一撃の手本を見せてもらえるか?」
アモーが素早く剣を二回振った。
一度目はエトウの左肩をねらい、二度目はエトウの腹をねらった。
エトウは一度目の斬撃に反応してしまったため、二度目の斬撃への対応が遅れた。
「今のように、相手の動きを誘うことも対人戦では必要だ。エトウは、どちらかというと魔物相手の立ち回りに慣れている。対人戦での相手を騙すような攻防も覚えた方がいい」
「お父さん、私は?」
「コハクはスピードに頼りすぎだ。突撃を仕掛けてくるタイミングが読みやすい」
「それは、お父さんだからじゃないの?」
「それもあるが、奇襲は一度見せてしまえば、二度目は通じないと思っておいた方がいい」
「分かった」
「あとは相手に斬撃を受けさせることで、選択肢をせばめることもできる」
そう言ったアモーは、いきなりエトウに斬りかかった。
慌てて防ぐエトウ。
その後もアモーは攻撃を続け、エトウは防ぎ続けた。
アモーの袈裟斬りを受けたとき、エトウは自分の体勢がくずされていることに気がついた。
そして、次にアモーが逆袈裟で切り上げてきたら、自分には対応できないと分かってしまった。
案の定、アモーは逆袈裟に剣をはねあげ、無防備になったエトウに寸止めしたのだ。
「今のは、数手先からエトウの動きを読んで攻撃を加えていった。俺の斬撃を受ける度に、対応する手段が減っていっただろ? 相手のペースに引き込まれないことが重要だ」
そこへ隣の射撃場に行っていたソラノがもどってきた。
四人は組み合わせを変えながら、何度も模擬戦を繰り返した。
エトウのバフやエンチャントは戦闘力を格段に上げることができるが、本人の基礎能力が低ければ強い魔物の力押しや数の暴力に負けてしまうかもしれない。
これからエトウが強くなるための課題は、基礎能力と剣術の向上だった。
朝食をとってしばらく休んだ後、エトウはアンドレア部隊長のもとへ向かった。
受付で要件を伝えると、話が通っていたためにすぐに案内してもらえた。
「アンドレア部隊長、面会の時間を取って頂いてありがとうございます」
「いえいえ、そのようなことは遠慮なさらないでください。どうぞお座りください」
部隊長はすぐに執務机からソファセットの方に身を移した。
エトウと向き合って座ると、この部屋まで案内してくれた受付の者に飲み物を持ってくるように指示する。
エトウは寝る場所だけでなく食事も提供してもらっていることに礼を言った。
部隊長は「とんでもない」と片手を振って、エトウたちがいなければまだ南の砦では戦いが続いていたかもしれない、そうなれば騎士団や人質の犠牲者は増えていただろうと言った。
それを考えれば、こんなことぐらいは大したことではないと笑う。
人質の話が出たこともあって、エトウは被害者支援のことを切り出した。
女性騎士のサリーナ・アッシュベルトを、騎士団の窓口に置くことはできないかと部隊長に尋ねたのだ。
教会や行政と連携する際に、彼女に連絡役をまかせたいという意向を伝える。
「サリーナ・アッシュベルトは、現在、被害者たちの護衛についていますね。エトウ殿がなぜ彼女を選んだのか聞かせてもらってもいいですか?」
「被害者たちの様子を見に行ったときに、彼女と少し話をする機会がありまして。犯罪に巻き込まれて精神的に弱っている者たちに、寄り添うことができる人物だという印象を持ちました。彼女ならば、被害者の立場に立って、なにが必要なのかを考えられるのではないかと思います」
「なるほど、サリーナは出自もしっかりしていますし、本人が希望するならば適任でしょう。犯罪被害者の保護担当官のような位置付けですね。関係各所との連絡もありますし、彼女にこの件を伝えるのは私にまかせてもらっても構いませんか?」
部隊長は一騎士に過ぎないサリーナのことを知っているようだった。
そして、いつの間にか新たな役職を作った上でサリーナにまかせるという話になっていた。
エトウは護衛騎士の傍らで外部機関との窓口もやってもらうといった感覚だったが、専任で務めてもらった方がいいのかもしれない。
「はい。よろしくお願いします。もしも彼女が他の道を考えているならば、この話を断ってもらっても構いませんので」
「ええ。その辺りは大丈夫です。本人の意向を確認してから話を進めますので、ご心配なく」
部隊長はエトウの要望を全面的に受け入れてくれた。




