8. 補助魔法の才能
故郷の村に牧師がやって来て勇者の誕生を告げたとき、エトウとラナは十五歳になっていたが、職業判定のために町の教会へ向かう予定はなかった。
他の村人がそうであるように、職業判定など受けずに村でできる仕事に就くつもりだったのだ。
勇者の誕生という国や教会を巻き込んだ騒動により、エトウとラナは職業判定を受ける機会を得た。そして二人は賢者と剣聖に認定されたのだ。
それからはめまぐるしい日々だった。教会の別室に留め置かれ、連絡を受けて町までやって来た家族と詳しい説明を受けた。
その後、エトウとラナは親元を離れて王都に向かうことになる。
王都までの長い旅路の間、これまで受けたことのないような特別な待遇にエトウとラナは戸惑いを隠せなかった。
宿屋では最上の部屋に泊まることができ、食事に関しても辺境の村では目にしたことのないような料理がテーブルに並ぶ。
ラナは始めの頃こそ両親と離ればなれになったことで寂しそうにしていたが、幼馴染みのエトウが一緒だったこともあって、王都までの道中で持ち前の明るさを取りもどしていった。
あの頃は自分たちが物語の登場人物になったような気持ちになって、どんな冒険が始まるのかワクワクしていた。
王都の教会本部に到着した二人は、その数日後には勇者ロナウドと魔聖ミレイに引き合わされることになった。
ロナウドとミレイが貴族だと聞かされたエトウたちは、どのような対応をしてよいのかわからずに床の上で平伏してしまった。
「エトウさん、ラナさん、どうぞ立ち上がってください。私たちは女神様に選ばれた同志であり、特別な存在なのです。お二人が平民だからといって、かしこまる必要はありません。私たちは皆、女神様の元では平等なのです」
ロナウドは輝くような笑顔で言った。
「ロナウド様のおっしゃるとおりですわ。さぁ、お二人とも、こちらにいらしてください。お茶にしましょう」
ミレイも親しげな様子でエトウとラナに笑いかける。
エトウは穏やかな口調で話をする二人を前にして、貴族というのは粗野な自分たちとこんなにも違うものなのかと圧倒されるような気持ちだった。
☆☆☆
最初の半年間は王城で訓練が行われ、続く半年間は町の外で実際に魔物を倒すという実戦訓練が多くなった。
勇者ロナウドは女神様にもたらされたと伝えられる聖剣を自在に扱うことができ、強力な剣技と魔法を行使することができた。
魔聖ミレイは底なしの魔力量を誇り、幼い頃から魔法の天才として英才教育を受けていた。十五歳にして中級魔法の多くを使いこなし、得意の火魔法においては上級魔法を唱えることができた。
剣聖と判定されたラナは最初こそ慣れない環境に四苦八苦しているようだったが、騎士団との訓練の中でみるみる実力をつけていった。
その成長速度は尋常なものではなく、訓練を始めて半年間で騎士団の団長クラスでないとラナに太刀打ちできないほどだった。
そうした中、賢者であるエトウの得意分野は補助魔法であることが分かってきた。
補助魔法とは大きく三種類に分けられる。
味方の戦闘力を向上させるバフ効果、敵の戦闘力を弱体化させて状態異常なども引き起こすデバフ効果、そして武器や防具などに魔法付与を行うエンチャントである。
エトウはこれらの補助魔法のすべてを使いこなすことができた。
魔法修行を始めて半年間でバフとデバフは中級魔法に手が届き、エンチャントは下級魔法を付与することに成功していた。
魔法指導を行っていた魔法士団の団長ピュークは、魔聖であるミレイよりもエトウを高く評価していた。このままエトウのレベルが上がっていけば、厳しい戦いにおいてエトウの補助魔法が勝利の決め手になると周囲にも語っていた。
しかし、エトウの賢者としての能力はあくまで補助魔法のみで、剣や攻撃魔法に関しては平凡なものだった。
勇者パーティーが二年目を迎え、いよいよ魔物討伐の旅が始まると、エトウの能力に疑問符がつき始める。
聖剣の力を身に宿して剣技と魔法が使えるロナウドは、中級から下級レベルの魔物を一刀の元に屠ることができた。
ロナウド個人の戦闘力が高すぎて、エトウがバフやデバフをかけても戦況に大きな差は生まれなかったのだ。
それに加えて、元々強大な力を有している聖剣には魔法付与が行えなかった。




