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16. 砦の制圧

 勇者ロナウドに率いられた騎士と兵士によって、砦の制圧はあっけなく終わった。


 リーゼンボルト領主代理を始めとして、誘拐や違法な奴隷売買、今回の砦立てこもり騒動に関係していた貴族たちは軒並み捕縛された。

 彼らに生死を賭けてまで戦い抜くような気概などどこにもなかったのだ。

 湖の中央に浮かぶ砦だったため、裏から逃げるようなまねもできなかった。


 砦内には各地から連れて来られた誘拐被害者が合計五十七人捕らわれていた。

 被害者の健康状態は悪く、盾代わりに使われていた者たちは日常的に暴行を受けており、すぐに治療を始めなければ危険な状態だった。


 騎士団所属の医療班はすぐさま応急処置に取りかかる。それと同時に領都ベールに医療関係者の応援要請を行った。




 大穴が空いている第二の門を潜ったソラノは、裏手の階段を使って城壁に上がっていく。

 そこには、自分たちエルフが弓矢で倒した守備兵がそのまま捨て置かれていた。

 城壁が砕けた大小の欠片も散乱しており、ソラノはそれらを避けながら第二の門の中央に進む。

 ちょうど門の真上まで来たとき、空を見上げるように倒れている全身甲冑の男を見つけた。


 ソラノはその男をしばらく見下ろしていたが、おもむろにひざをつくと兜の面を上げた。

 その男の左頬はえぐり取られたように醜く歪んでいた。


 やはりそうだったか、とソラノは思った。

 人質を城門に吊り下げ、愚かしい口上を述べた男。その声を聞いて、もしかしたらとソラノは思ったのだ。


 かつて犯罪奴隷にされたばかりのソラノを蹂躙しようとした貴族がいた。

 そのときソラノは貴族の左頬に食らいついて、そのまま噛みちぎったのだ。

 自分の目の前で死んでいるのは、間違いなくその男だった。


 名前も知らないその男に、今さら怒りも同情もわいてこなかった。

 だが、自分の行為が男を狂わせてしまったのかもしれないと思った。男の狂気がこのような誘拐事件を作り出し、人質を苦しめたのではないかと。


「でも、あのときはどうしようもなかった」

 男の左頬に視線を向けたまま、ソラノはつぶやいた。


「ソラノ。そんなところにいたんだ。エトウが呼んでるよ」


 コハクの声が後ろから聞こえた。

 ソラノは男の顔から視線を外して、口元をゆるませる。

 コハクは偶然自分を見かけたような言い方をしたが、第二の門の真上まで来るのはソラノでも大変だった。

 きっとコハクはソラノの様子を心配して見守ってくれていたのだろう。


「ああ、今行く」


 ソラノはコハクに答えると、男の兜をそっと元にもどした。

 もうその男のことを思い出すこともないだろう。

 ソラノは自分を奴隷に落とした一連の事件が、やっとここで一段落着いたのだと感じていた。




 砦内の探索中、地下の牢屋で数体の遺体が見つかった。無造作に牢の中に投げ込まれており、遺体には拷問を受けた跡が残っていた。


 本来であれば、身元照会が行われて遺体は遺族に引き渡されるべきだが、腐敗が進んでいたため遺品だけを保存して火葬された。

 この後の取り調べによって拷問を行った人物は特定され、厳しい罰を受けることになるだろう。


 その後、エトウたちは砦にしばらく残って、人質となっていた者たちの看病や相談相手を務めることになった。

 人質のほとんどは女性だったため、誘拐被害者の護衛経験のあるソラノとコハクの存在は重宝されたのだ。

 いずれは彼女たちを家に送り届けることになるが、心身ともに回復するまでは、もうしばらく様子を見なければならないだろう。


 サニーたちエルフ部隊は砦の陥落が確認されると姿を消してしまった。

 立つ鳥跡を濁さずという見事な去り方である。

 エトウは礼を言えずじまいだったが、サニーとはまたすぐに会えそうだと根拠もなく思っていた。


 姿を消したのは冒険者ギルドの調査員ナルとニーも同様である。

 彼ら二人は砦の陥落後、他の仕事があるからこの場所を去るつもりだとエトウたちに告げ、次の日にはいなくなっていた。


 それから日がたつにつれて、領都ベールから医師や薬師、聖職者が派遣され、砦内の医療体制が整えられていった。

 被害者の中には、暗い記憶が残っている砦から出て、すぐにでも家に帰りたいという者も多かった。

 そこでエトウたちは希望者を連れてベールまでもどることになった。


 ベールに旅立つ日の前日、エトウたちはお世話になった人にあいさつ回りをした。

 コハクは突撃部隊で一緒だった騎士団の斥候の人たちと仲良くなって、気配の消し方や敵の見つけ方などを教わっていたらしい。末恐ろしい十三歳である。

 アモーはなぜか破城槌隊の男たちに頼りにされて、砦内の片付けなどを率先して手伝っていた。

 ソラノは被害者の世話を手伝っていた関係で、医療関係者を中心にあいさつを交わしていた。


 エトウは気が進まなかったが司令官とロナウドたちのところに顔を出すことにした。

 攻城戦では、彼らの協力がなければ自分の作戦は成立しなかったのだ。


 司令官は戦いに勝った余韻を残したままで終始上機嫌だった。

 彼は勇者の剣技と魔聖の極大魔法を褒め称え、騎士団の活躍を声高らかに語った。

 どうやらエトウたちの活躍についてはきれいさっぱり忘れてしまったようだが、最後に機嫌を損ねるのも面倒だったため話を合わせておいた。


 ロナウドのところへ向かうと、ミレイとラナもその部屋にいた。

「今回はお世話になりましたわ」

 ミレイは不本意だが一応言っておくという表情で話しかけてきた。

 その横でラナが「ごめんね」と両手を合わせていた。


 ロナウドとミレイの自分に対する当たりが多少穏やかになったのは、ラナが障害を取り除く手助けをしてくれたおかげだろう。

 今度会ったときには、その礼も含めてなにかおごらなければならないなとエトウは思った。


 エトウはふと思い立ち、懐から金色の宝珠を出してミレイに見せる。


「なんですの、この玉は?」

「王城の宝物庫にあった宝珠です。ゴブリン・スタンピードを解決した褒美として頂いたものですが、この宝珠を握り込んで補助魔法を使うと、一度の魔法が範囲魔法に変わるんですよ」

「なんですって! そんなことが……。ちょっと、もっとよく見せなさい」


 エトウは見やすいように宝珠を持った手を持ち上げた。

 ミレイは顔を近づけてじっくりと確認している。

 ミレイが手を伸ばして宝珠にふれようとしたので、エトウは宝珠を懐にしまった。


「この宝珠は攻撃魔法ではまったく効果がありません。魔法増幅効果などはないのです。効果があるのは補助魔法だけ。ミレイ様にはあまり意味がないかと」

「ふん! 確かにそうね。宝珠といったかしら? 覚えておくわ」


 ミレイの極大魔法はとてつもない威力だった。エトウの作戦において、重要な役割を果たしたのである。

 あれだけのものを見せてくれたのだから、一度の補助魔法で複数の人間に効果を及ぼしたことの種明かしぐらいはしてやろうと思ったのだ。


 最後にロナウドにもあいさつをしておく。

「またな」

 ロナウドはエトウをまっすぐ見つめて、友人にあいさつするように言った。

「ええ、またどこかでお目にかかりましょう、ロナウド様」

 ロナウドの言葉を聞いたときには、あれ、この人俺の友達だったかなとエトウは思ったが、友好的に接してくれるなら文句はない。無難に返答しておいた。

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